テラーノベル
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講義が終わった後の、夕暮れ時のキャンパス。学生たちが笑い合いながら駅の方へと向かう中、私はオカ研の部室の窓辺で、自分の右手のひらをじっと見つめていた。
「……何か、おかしい」
胸の奥が、氷を押し当てられたみたいに冷たい。
微かな耳鳴りと、皮膚にまとわりつく嫌なノイズ。
神代家での事件が終わってから、私の霊感(サイコメトリー)は以前よりもずっと鋭くなっていた。そのせいか、離れた場所にいる「大切な人」の異変に、私の五感が勝手に反応してしまう。
LINEの画面を開く。
私から送った「今週末のパフェ、楽しみにしてますね!」というメッセージ。
いつもなら一言「おう」とか「佐藤に払わせる」とか、ガサツで不器用な返信がすぐに来るはずなのに、既読がついたままもう何時間も返事がない。
(峯岸さん……どこにいるの?)
ただの事件じゃない。
胸を刺すようなこの冷たい悪意の匂いは、これまで対峙してきたどんな事件よりも大きくて、深くて、凶暴だ。
「皐月さん。顔色が悪いね」
後ろから、九条先輩が温かい紅茶のカップを差し出してくれた。
「……九条先輩。峯岸さん、何か大きな事件に巻き込まれてる気がするんです」
「……ふむ。やっぱり感づいていたかい」
九条先輩はパイプの煙を軽くくゆらせ、静かに眼鏡のふちを上げた。
「警視庁と警察庁が動いている極秘の合同捜査だよ。東南アジアを拠点にする巨大国際犯罪組織……通称『シンジケート・クロノス』。暗号資産詐欺、人身売買、そして裏での人体実験や洗脳。その日本ルートの捜査指揮官に、峯岸警部補が抜擢された」
「国際……犯罪組織……!?」
思わず立ち上がる。
「ダメだよ、そんなの……! 相手は銃だって持ってるかもしれないし、洗脳なんて……科学じゃ説明できない『精神を壊す悪意』が相手なんでしょ!?」
「ああ。だからこそ警察庁は峯岸警部補を指名したのさ。彼は『見えない悪意』と戦う術を知っているからね。……そして彼は、君を絶対に巻き込むなと佐藤刑事に強く口止めしたそうだ」
九条先輩の言葉に、私は息を詰まらせた。
(……やっぱり。私のことを守ろうとして、一人でそんな危ない場所に行こうとしてるんだ……)
高校生の時もそうだった。
峯岸さんはいつも、自分を盾にして私を守ろうとしてくれた。泥だらけになって、煙草の匂いをさせて、不器用な笑顔で「大人が解決するヤマだ」って言ってた。
だけど——今の私は、もう守られるだけの「かわいそうな女子高生」じゃない。
自分の力を受け入れて、将来は自分の足で立つと決めたんだ。
私の未来の「顧問」を、そんな恐ろしい悪魔の手に渡すわけにはいかない。
「……九条先輩」
「行くんだろう?」
九条先輩は最初から分かっていたように、不敵に目を細めて笑った。
「止めても無駄なようだね。うちのオカ研の女子部員を一人、危険な目に遭わせるわけにはいかない。……男子連中(10人)と女子連中(5人)にも声をかけてある。クロノスが使っている心理誘導や暗号通信の解析なら、うちのバカどもが得意とするところだ」
「先輩……!」
「警察の『表の捜査』では届かない領域を、僕たちの『オカルトと科学の知識』で補うのさ。……さあ、頼もしい『所長さん』。指示をくれ」
私は胸元を強く握りしめ、まっすぐに前を見つめた。
「峯岸さんを……助けに行きます。あの人が、私にくれた平穏な日常を……今度は私が守るために!」
遠く離れた霞が関の空を見上げながら、私は静かに覚悟を決めた。
国際詐欺グループ「クロノス」との、そして峯岸さんを救い出すための、私の新しい戦いが始まろうとしていた。
コメント
1件
うわ、第19話、めっちゃ引き込まれました…!皐月さんの「守られるだけじゃない」っていう決意のシーン、すごくグッときました。高校生の頃からずっと峯岸さんに守られてきた彼女が、今度は自分が助けに行くって覚悟を決める流れ、成長がちゃんと描かれていて好きです。九条先輩の「行くんだろう?」も、もう全部お見通しって感じでかっこよかった。オカ研総出で動くって連携、ワクワクしますね。続き、気になりすぎます…!
桜咲かな
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#学園
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