「無理しなくていいからね、桜。バカ弟に酷いことされたらすぐに相談してね?」
遥さんがわしゃわしゃと頭を撫でてくれた。
私ってそんなに動物っぽいのだろうか。
その後――。
遥さんは子どもさんが心配だからと言って謝りながらも帰って行った。
遥さんから蒼さんの家の合鍵を預かった。
蒼さんとは、生活リズムが違う。
私は日中、蒼さんは夜の仕事。同じ家の中に住んでいてもあまり会うこともない。邪魔にならないように過ごさないと。
蒼さんと二人きりになった。
「桜?」
急に呼ばれる。
「はい」
「もし、体調が大丈夫そうだったら、一緒に買い物に行こうか。冷蔵庫、何もなかった。これじゃあ、料理できないだろ?」
今日から蒼さんのご飯を作らなければならない。
「はい、行きます」
「じゃあ、行こう」
歩いて十分くらいのところにスーパーがある。
そこに二人で出かけることになった。
蒼さんっていつも女装しているわけじゃないんだ。
出かける時は、男性が着るような服装。隣を歩いている彼をチラッと見る。やっぱりヒールを履いていなくても身長高い。
そして蒼さんはイケメンだ。
《《椿》》さんの時は恐ろしく美人。だけど、《《蒼》》さんはとってもかっこ良い。
私、こんな人と並んで歩いていいの?
一歩後ろを歩こうとすると
「どうした?体調、まだ悪い?」
彼が心配してくれた。
「違うんですっ、蒼さんがあまりにもかっこ良くて。私なんかが隣に居ちゃいけないような気がして……。あっ、かっこ良いって失礼かもしれませんが……。すみません」
私の発言を聞き、ハハっと彼は笑った。
笑ってくれたってことは、怒ってないのかな。
「桜が知りたいのなら今度ゆっくり話す。俺、オネエBARで働いてるけど、心も身体も男。事情があって、オネエって嘘ついて働いているけど、別に男が好きなわけじゃないし……。かと言って女が好きなわけでもない。恋愛に対して興味がない。ただ《《椿》》でいる時は、オネエ言葉使うから?それは自分に課したこと。あぁ、蘭子さんたちは、ガチでオネエだったりするから。勘違いするなよ?」
んっ?
つまり蒼さんは仕事で椿さんを演じているだけで、普通の男の人って言うことだよね?
「まぁ、今度時間があったら話すけど……。そんなこと聞きたい?」
「もちろん、聞きたいです。教えてください!」
即答するに決まっている。
蒼さんのこと、椿さんのこと、もっと知りたい。
「わかった」
私の即答に一瞬驚いていたが、少し微笑んで彼はそう答えてくれた。
スーパーで一緒に食材を選ぶ。
「蒼さんの好きな食べ物と嫌いな食べ物を教えてください」
メニューを考える上で大切なことだ。
「んー。恥ずかしいんだけど、子どもが好きな料理は大抵好きかな。カレー、ハンバーグ、唐揚げ、パスタ……とか。嫌いな物は特にない」
意外と可愛らしいんだ。
もっとわかりにくいかと思ったけど、想像しやすくて良かった。
会計をするためレジに並ぶ。
あっ、そう言えばお財布の中身なかったんだ。ATMに行って来なきゃ。
ほとんど優人に使われてしまったけれど、一万円は残っていたはず。
「蒼さん、すみません!お金、引き出してきます!」
そう言って走り出そうとしたら蒼さんに止められた。
「えっ?」
「食費とかはいらないから。気にしないで?」
「そんなわけっ」
すると蒼さんは引き止めていた私の手を握り
「帰ったら身体で返してもらうからいい」
そう言って、椿さんみたいにニコッと笑った。
なになになになに!?
どういうことだろう。
とりあえずその場は蒼さんに支払ってもらった。
購入した食材の袋を持とうとしたが「いいよ」そう言って二つの袋をひょいっと軽々と持つ蒼さん。
「あの、一つ持ちます」
私がそう言うと
「桜は女の子なんだから。俺に持たせて。それに、さっきまで具合悪かっただろ。無理するな」
淡々と彼は歩いて行く。
ほぇぇぇぇぇ……。
彼の行動に思わず感動してしまう。
優人と大違い。
彼は絶対私に持たせるし……。
というか、買い物は全部私だった。
仕事帰りに重い物を持ってよく帰ったな……。
そんなことを思い出す。
「桜、お昼食べ損ねたけど、お腹空かない?」
そう言われてみれば、お昼を食べてない。
でもここで「お腹空きました」って言ったら、蒼さん、また何か奢ってくれるのかな。
もうすぐ仕事だろうし、家に帰って私が何か作ってる時間もない……。
「私は……」
ふと目の前を見ると、たこ焼き屋さん。美味しそう。
思わず視線を送ってしまった。
蒼さんはフッと笑い
「半分こして食べようか?たこ焼きならすぐ食べれると思うし……」
そう言って、お店に入る。
一船のたこ焼きを一緒に食べることになった。
「あっつ…いけど、美味しいです!」
そんな私を見て
「一人、一船買った方が良かった?ごめん」
蒼さんは謝ってくれた。
あぁ、私の食べっぷりを見て足りないと思われたのかな。
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