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#TL
瀬名 紫陽花
14,533
#BL
多 動 症 .
30
「でもある日、先輩が仕事で大きなミスをして、めちゃくちゃ落ち込んでるのを見かけて。俺が飲みに誘ったこと、あったじゃないですか」
「ま、まあ、そんなこともあったような……」
「そんとき、弱音を吐くついでに、先輩が『彼氏が一回もできたことない』ってことを俺にカミングアウトしてきて。…それがキッカケです。気づいたら、ずっと目が離せなくなっちゃってました」
「……っ」
「それからは会社でも、先輩の一挙手一投足が気になって気になって……もっと近くで見たい、もっと知りたいって思ってました」
「ど、どこに惹かれる要素があったのよ…!?ただただ情けない醜態を後輩の前で晒しただけじゃん!」
「だって…普段はあんなに完璧に振舞ってる先輩が、実は『彼氏一回もできたことないウブな処女』なんて…そんなの、男からしたら可愛すぎますよ」
「か、可愛くないし!そうやってまた、私をからかって────」
言いかけたところで、私の言葉を強引に遮るように
ガシッと、テーブルの上の手を力強く掴まれた。
それだけじゃなく、彼の長い指が私の指の隙間にすべり込んで、がっちりと恋人繋ぎで絡められる。
男の人の、熱を持った驚くほど大きな手。
「からかってないです。俺は本気です。先輩のそうやってすぐ真っ赤になる顔とか、この小さな手も…全部俺が独占したいって、本気で思いますし」
「…っ、わ、わかった…わかったから……っ! これ以上…一気に色々されると、頭がパンクしそうだから……っ」
私の必死の懇願に、佐藤くんは「すみません」と小さく呟きながらも
繋いだ手を離すどころか、さらに指の力を強めて強く握りしめてきた。
「……どうしても、今日のうちに俺の気持ちだけは伝えておきたくて。今すぐ返事が欲しいとは、さすがに思ってないです。ただ……先輩がフリーの間は俺、ガンガンアタックするつもりなので」
「……」
何も言えない。
この沈黙は肯定でも否定でもなく
ただ単純に私の処理能力が限界を迎えて困惑しているだけだった。
「だからせめて……これからは、俺のことを一人の男として意識してくれません?」
彼の声は驚くほど冷静なのに、どこか切実に私に縋るようで。
そんな真っ直ぐな瞳でじっと見つめられたら
私には「いいえ」と拒絶することなんて出来なかった。
「う、うん。返事は、なるべく早くするから……」
それが、パニックに陥った私の精一杯の譲歩だった。
すると佐藤くんは、それまでの男らしい表情から一転して
パッと子供のように嬉しそうに破顔した。
「ありがとうございます!」
弾んだ声。
それはまるで、小さな子どもがテストで100点を取った時のような、無邪気で眩しい笑顔だった。
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