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ごっとまと、やっほー
⒏
外からは、けたたましく聞こえてくる蝉の声。
ジージーと鳴き続けるその音は、うだるような熱気とともに、容赦なく教室へと入り込んでくる。
夏だ。
夏が来たんだ。
「あっつ……」
そうぼやきながら、僕 ─── かなたは教室の席で、1人うちわをパタパタと仰いでいた。
今日はやけに早く目が覚めてしまって、特に用事もなかったから、ふらっと寮を出てそのまま登校してきた。部活も休みだし、どこかへ寄るほどの元気もなかったから。
ぽつんとした教室には僕しかいなくて、ただ蝉の声だけが響いている。
静かすぎて、少しだけ心細くなる。
そんな時だった。
教室の扉が、音を立てて開いた。
「──あっ、かなたじゃん」
顔を出したのは、親友のトワだった。
開けた扉の向こうで、彼女は一瞬だけ目を丸くした。たぶん、自分が一番乗りだと思っていたのだろう。ちょっと拍子抜けしたようなその表情が、なんだか可笑しくて── それでも僕は、そういう素直なところが面白くて好きだと思う。
「やっほ〜、こんな早くから来るんだ」
「まあ、暇だったし」
「……ああね?」
会話は、ほんの少しだけ間延びする。
お互いが何か言いかけては、飲み込んだような空気。
夏のせいにしてしまいたくなるような、妙な気まずさ。
教室の中、蝉の声がふたりの沈黙を埋めるように響いていた。
──ああ、一番乗りじゃなかったか。
せっかく早く来たのに。いや、かなたに会えるかもって、ちょっと期待してたのかもしれないけど……。
でも、寮以外でもふたりきりになれた。
こんなに静かな教室で、かなたとだけって、たぶん初めてだ。
︎︎︎︎ ……ドキドキする。
最近、なんとなく”それっぽい話”を 聞くことが増えてきた。
誰が誰に告白したとか、夏休みに誰と遊ぶとか、花火大会に誘われたとか──。
みんな、気づいてるんだろうか。
トワが、かなたのこと……好きだってこと。
……いや、気づかれてたら困る。
でも、気づかれなかったら、もっと困るかもしれない。
それくらい、トワの中ではかなたの存在が大きくなっていて。
でも──
「ねえ、かなた」
「ん?」
「夏休みさ……花火大会、あるよね。あれ、行く?」
唐突に出たその言葉に、自分でも少し驚いた。
声がちょっとだけ上ずっていたかもしれない。
「花火大会?」
「うん、▫▫市のやつ。毎年やってる、あれ。今年もあるって」
かなたは、うちわの動きを止めて、少し考えるような顔をした。
その間、心臓の音がやけにうるさく感じる。
──他の誰かに誘われてたらどうしよう。
──トワなんかより、ずっといい人と行く予定だったら。
そんな不安が、喉の奥をぎゅっと締め付ける。
でも、誘いたかった。
迷っていたけど、こうして話せる今しかないって思った。
だから──
「よかったら、一緒に行かない?」
小さな声で、けれど確かに、そう言った。
︎︎︎︎