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土曜日の午後、智絵里に突然一緒に来て欲しい場所があると言われ、彼女に手を引かれどこかに向かっていた。
目的地までは教えてくれなかったが、智絵里が珍しく浮き足立っている。
「目的地くらいは知りたいんだけど」
「ダメ。内緒」
駅前の青果店で果物の盛り合わせを購入し、ガラガラの電車に二十分ほど乗ってから、智絵里の実家近くの駅で降りる。だが実家とは違う方向へと歩き出す。
商店街を抜け、住宅地へ入っていく。すると白い塗壁の可愛らしい家の前で立ち止まった。表札には筆記体で”CHIBA”と書かれている。
誰の家に連れてこられたのかわからず、恭介は呆然と立ち尽くしている。
智絵里は楽しそうにインターホンを押した。
『はーい!』
「私だよ〜」
『ちょっと待っててね〜!』
声の主の女性にはこちらが見えているようで、何も言わなくても通じてしまった。
「なぁ、智絵里。俺が来ていい場所なの?」
「もちろん。じゃなきゃ一緒に来ないよ」
智絵里が言うなら大丈夫だと信じ、恭介は少し緊張しながらこの家の主人がドアを開けるのを待つ。
しばらくしてから玄関のドアが開き、小さな男の子を抱いた男性が出てきた。
「いらっしゃーい、智絵里ちゃん! 久しぶりだね〜」
「ご無沙汰してます! 突然すみません」
「大丈夫だよ。一花も智絵里ちゃんに会いたいって言ってたからさ。産まれるとなかなか会えなくなっちゃうしね」
その男性を見た時、恭介はどこかで会ったことがあるような気がした。それは相手も同じだったようで、お互いを観察し合う。
「智絵里ちゃん、こちらの方は?」
すると智絵里は楽しそうに声をあげて笑い出した。
「やだぁ、先輩。覚えてないですか? 昔一花のことで横恋慕されたじゃないですか」
智絵里の言葉を聞いて思い出した二人は、驚きの声を上げる。
「……思い出した! あの時の!」
「あ、あ、あの時は大変失礼いたしました!」
その時男性の背後から、お腹の大きな女性が歩いてくる。
「なかなか入って来ないし、大きな声が聞こえたけど、どうかした?」
「く、雲井さん⁈」
恭介に言われ、彼女はびっくりしたように頬を赤くする。
「なんか旧姓で呼ばれると照れるねぇ。もうずっと千葉さんだから」
「一花!」
「いらっしゃい、智絵里と篠田くん。どうぞ中に入って。リビングは二階だから、階段気をつけてね」
一花は二人を招き入れると、二階へ促した。