コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
4月28日(木)
授業を終えて部室に顔を出してみると、すでに小橋くんが来ていた。
「やあ、こんにちは。随分と早いね」
「先生、こんにちは。今日はホームルームが早く終わったので……」
私が声をかけると、小橋くんはそう答える。その言葉になんとなく元気がないように感じるのは、何故だろう?
「どうかした? 明日から連休なのに、特に出かける用事がない……とか?」
「あっ、はい。それもあるんですけど……。明日から出張中の父が帰ってくるんです」
そう答える小橋くんの言葉は、とてもじゃないが喜んでいるようには聞こえない。
「もしかして、お父さんのことが苦手だったり?」
私の問いかけに、小橋くんの肩がビクッと震える。
「いえ、そんなことはないんですけど。父は僕が声優志望なのを反対しているので、演劇部に入ったことがわかると、何か言われるかなと思って」
だが、それに気づかれまいと矢継ぎ早にそう言った。
何かあるんだろうなと感じたが、この場で追求することはやめておくことにする。その代わりに私はこう言った。
「大変だね。困ったことがあれば、いつでも相談に乗るから言ってね。一人で抱え込むと、辛くなるよ?」
私の言葉に、小橋くんは「はい」と静かに頷いた。その時、中山さんがやってきた。
軽く私と小橋くんに挨拶すると「先に二人で発声、始めちゃおうか」と小橋くんを促す。
そうして二人が発声練習を始めると、続々と他の部員もやってきた。
「みんな。明日から連休にゴールデンウィークと休みが続くけれど、なにか困ったことがあったら教員の寮まで訪ねてきてね」
私がそう言うと「先生、心配性~」と笑いが起こるが、小橋くんだけは笑っていなかった。気にはなったが、他の部員がいる前で追求することは避けた。
********************
5月2日(月)
今日は1年A組の授業の日。
3連休の後の学校。しかも、明日からはゴールデンウィークで生徒たちはだらけまくっていた。
そんなだらけまくりな生徒たちを眺めていると、ふと違和感に気が付いた。一箇所、空席があるのだ。それは、小橋くんの席だった。
「あれ、今日は小橋くんは休みなの?」
私は誰に聞くでもなく、生徒たちに声をかけてみる。するとどこかから「風邪らしいですよ~」という返答が返ってくる。
風邪なら良い……いや、良くはないんだけど、余計な心配はしなくていいのだろうか。
私は頭を切り替え、授業を開始した。
しかし、やはり少し気になったので、授業が終わってから1年3組の担任に連休前の小橋くんの態度を伝えておいた。