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雫 -SIZUKU- ~星霜夢幻ーー“Emperor the Requiem”~

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雫 -SIZUKU- ~星霜夢幻ーー“Emperor the Requiem”~

68 - 第68話 破 阿鼻叫喚 ~辺獄空間の死闘④ 伯仲

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2025年07月14日

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「俺を殺す? ククク、面白い……殺れるものなら殺ってみろ!」



二人は同時に、そして引き合う様に飛び出し、お互いの刀がぶつかり合う。



空気が破裂するかの様な、切り結ぶ多重の金属音。常人の目には、空間を瞬間移動しているとしか思えない二人。



「何が……どうなってるの?」



ミオの目に映るのは、僅かにチカチカと光が点滅するかの様な光景。



余りにも速過ぎて、誰の目にも二人の動きを追う事が出来ない。



そして、先程までの斬り合いとは明らかに状勢が異なっていた。



「ハハハハハッァァァ!!」



「チッ!!」



僅かに聞こえる二人の声。切り結ぶ度に、お互いから血煙が吹き上がり続ける。



それは優勢の見えぬ互角の斬り合い。そしてお互いがお互いを喰らい合うかの様な、それは正に共喰い。



『なっ……何て二人だ……』



超人的な動きもさる事ながら、二人共痛みを感じて無いかの様に。



その常人の理解を越えた異常と云える二人に、誰がともなく呟く。



「これが……人を超えし者。特異点同士の闘い……」



斬り結ぶ合間を縫って瞬時に身を退き、シグレは水を形に換えて村雨を振り翳す。



“獄龍 閻水礫”



巨大なその水龍はユキへ猛然と向かっていくが、その身体へ届く前に瞬時に凍り付き、砕け散った。



“神露ーー蒼天星霜”



音速を越える、超音速の鞘鳴りから成るーーソニックブーム。それに付与される極低温に依る音の刃は即ちーー全てを引き裂く凍牙の如く。



「同じ技が何度も通用すると思っているのですか?」



“ーー何だ?”



そう言った直後、シグレが意味有りげな含み笑いを浮かべたのを、ユキは見逃さなかった。



“この違和感はーーっ!?”



気付いて振り向いた矢先、何時の間にか自身の背後から、水龍が大口を開けて迫っていた事に。



“――連発だと!!”



そう、最初の水龍は只の囮。本命は何時の間にやら放っていた、背後からの水龍による挟み撃ちに有る。



『今度こそ捕らえた!』



この刹那の瞬間を避けられる筈もなく、ユキの身体はその水龍に呑み込まれる。



「いっーー嫌ぁ!! ユキぃぃぃ!!」



ユキの身体が水龍に呑み込まれた瞬間を目の当たりにした、アミの悲鳴が響き渡った。



獲物を捕食した水龍は満足そうに空へと駆け昇っていき、渦巻く様にその巨体が蠢いていた。



空中で蠢く水龍が突如、その動きを止める。



「何ぃ!?」



水龍は中心部から一瞬で凍りついていき、破裂するかの様に砕け散った。そして其処には何事も無かったかの様に、氷の粒子の中で佇むユキの姿。



「ユキ!」



空中で静止するユキの無事な姿に、アミは安堵の声を上げた。



そして空を蹴るかの様な二段加速。シグレの下へ急降下しながら刀を降り下ろす。シグレはそれを、しっかりと両手で構えた村雨で受け止め、ぶつかり合うその衝撃で甲高い金属音が鳴り響いた。



「こっーーのバケモンがっ!」



唾競り合いの形の中、シグレは吐き捨てる様に呟く。だがその表情は何処か、楽しそうな笑みさえ浮かべている。



まるで“もっと愉しもう”とでも表現するかの様に。



「それはお互い様でしょう?」



唾競り合いの拮抗が崩れるかの如く、両者は弾かれた様に距離を取った。



***



「――何という化け物共だ……」



その闘いを群衆に紛れながら見据えていた者が、誰に聞かせる事無く呟く。



“――両者共、臨界突破第二マックスオーバーレベル『200%』を超えている……だと?”



辺りに無数の躯が転がる、阿鼻叫喚ーー地獄の戦闘空間の中、一人冷静に二人を分析し、そして驚愕の思いに耽る。



“――まあいい。どちらが勝とうが、お互い只では済むまい”



その者は喧騒に紛れ込む様に、そっとこの場を後にする。



誰もが、この人知を超越した闘いに目を奪われていた。その為、この事に気付く者は誰一人としていなかった。

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