テラーノベル
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「俺を殺す? ククク、面白い……殺れるものなら殺ってみろ!」
二人は同時に、そして引き合う様に飛び出し、お互いの刀がぶつかり合う。
空気が破裂するかの様な、切り結ぶ多重の金属音。常人の目には、空間を瞬間移動しているとしか思えない二人。
「何が……どうなってるの?」
ミオの目に映るのは、僅かにチカチカと光が点滅するかの様な光景。
余りにも速過ぎて、誰の目にも二人の動きを追う事が出来ない。
そして、先程までの斬り合いとは明らかに状勢が異なっていた。
「ハハハハハッァァァ!!」
「チッ!!」
僅かに聞こえる二人の声。切り結ぶ度に、お互いから血煙が吹き上がり続ける。
それは優勢の見えぬ互角の斬り合い。そしてお互いがお互いを喰らい合うかの様な、それは正に共喰い。
『なっ……何て二人だ……』
超人的な動きもさる事ながら、二人共痛みを感じて無いかの様に。
その常人の理解を越えた異常と云える二人に、誰がともなく呟く。
「これが……人を超えし者。特異点同士の闘い……」
斬り結ぶ合間を縫って瞬時に身を退き、シグレは水を形に換えて村雨を振り翳す。
“獄龍 閻水礫”
巨大なその水龍はユキへ猛然と向かっていくが、その身体へ届く前に瞬時に凍り付き、砕け散った。
“神露ーー蒼天星霜”
音速を越える、超音速の鞘鳴りから成るーーソニックブーム。それに付与される極低温に依る音の刃は即ちーー全てを引き裂く凍牙の如く。
「同じ技が何度も通用すると思っているのですか?」
“ーー何だ?”
そう言った直後、シグレが意味有りげな含み笑いを浮かべたのを、ユキは見逃さなかった。
“この違和感はーーっ!?”
気付いて振り向いた矢先、何時の間にか自身の背後から、水龍が大口を開けて迫っていた事に。
“――連発だと!!”
そう、最初の水龍は只の囮。本命は何時の間にやら放っていた、背後からの水龍による挟み撃ちに有る。
『今度こそ捕らえた!』
この刹那の瞬間を避けられる筈もなく、ユキの身体はその水龍に呑み込まれる。
「いっーー嫌ぁ!! ユキぃぃぃ!!」
ユキの身体が水龍に呑み込まれた瞬間を目の当たりにした、アミの悲鳴が響き渡った。
獲物を捕食した水龍は満足そうに空へと駆け昇っていき、渦巻く様にその巨体が蠢いていた。
空中で蠢く水龍が突如、その動きを止める。
「何ぃ!?」
水龍は中心部から一瞬で凍りついていき、破裂するかの様に砕け散った。そして其処には何事も無かったかの様に、氷の粒子の中で佇むユキの姿。
「ユキ!」
空中で静止するユキの無事な姿に、アミは安堵の声を上げた。
そして空を蹴るかの様な二段加速。シグレの下へ急降下しながら刀を降り下ろす。シグレはそれを、しっかりと両手で構えた村雨で受け止め、ぶつかり合うその衝撃で甲高い金属音が鳴り響いた。
「こっーーのバケモンがっ!」
唾競り合いの形の中、シグレは吐き捨てる様に呟く。だがその表情は何処か、楽しそうな笑みさえ浮かべている。
まるで“もっと愉しもう”とでも表現するかの様に。
「それはお互い様でしょう?」
唾競り合いの拮抗が崩れるかの如く、両者は弾かれた様に距離を取った。
***
「――何という化け物共だ……」
その闘いを群衆に紛れながら見据えていた者が、誰に聞かせる事無く呟く。
“――両者共、臨界突破第二マックスオーバーレベル『200%』を超えている……だと?”
辺りに無数の躯が転がる、阿鼻叫喚ーー地獄の戦闘空間の中、一人冷静に二人を分析し、そして驚愕の思いに耽る。
“――まあいい。どちらが勝とうが、お互い只では済むまい”
その者は喧騒に紛れ込む様に、そっとこの場を後にする。
誰もが、この人知を超越した闘いに目を奪われていた。その為、この事に気付く者は誰一人としていなかった。