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夢主の設定
・名前:藤堂芽依(とうどう めい)
・キメツ学園高等部
頭痛薬
・・・・・・・・・・
ああ…しまった……。
今日に限って、痛み止めの薬を家に置いてきてしまった。
2限目の途中くらいから頭が痛くなってきて、これはこのままにしておくと確実に酷くなるパターンの痛み方だと思っていたら、案の定頭がかち割れそうだ。
やっと4限目の授業が終わって昼休み。ちょっとでも横になれるだろうか。
「権八郎〜!昼飯食おうぜ!」
「あ…ごめん伊之助。……今日はちょっと食欲なくてさ…」
「炭治郎、具合でも悪いのか?」
「…うん、ちょっとな。頭が痛くて。保健室行ってくる。善逸も俺のことは気にせずお昼ごはん食べてくれ」
「ああ、わかった……。付き添わなくていいか?」
「うん、多分大丈夫だ。ありがとう」
心配そうに見てくる善逸と伊之助に向かって必死に笑顔を作り、俺は教室を後にした。
痛い。痛すぎる。金槌で頭を殴られてるみたいに脈に合わせて痛む。
でも俺は長男だから。少しくらい我慢しないと。
善逸たちの昼休みの時間を削ってしまうわけにもいかないし。
保健室まで、自分の教室からは距離がある。
歩く度、身体を動かす度、少しの振動で頭が痛む。
「…はぁ…はぁ…っ…」
限界になって中庭のベンチに横たわり目を瞑る。
相変わらず頭はズキズキと痛い。
どうしようか。
これは保健室まで辿り着けるかどうかも怪しいぞ。
やっぱり素直に善逸に付き添ってもらったらよかったかもしれない……。
『どうしたの?大丈夫?』
「…う……」
柔らかな声が聞こえて目を開けると、隣のクラスの女の子が心配そうに俺を覗き込んでいた。
「…ぁ…とうどう、さん……?」
『私の名前知ってたんだ。…竃門くんだよね。具合悪いの?』
「ちょっと頭が痛くて……。保健室に行こうとしたんだけど、力尽きちゃって…」
藤堂さんはベンチの傍らにしゃがんで俺と目線を合わせてくれている。
『頭痛いのはきついよね。私でよかったら付き添うよ?』
「…う…ごめん……ちょっと動こうにも頭がかち割れそうで…」
『そっか……。…ちょっと待ってね』
藤堂さんは一旦その場を離れ、どこかへ消えていった。
ズキン…ズキン……
ああ…健康なのが取り柄なのに、たまにくる頭痛でここまで苦しめられるなんて。
『竃門くん、お待たせ! 』
「…藤堂さん……」
戻ってきた藤堂さんの手には、ペットボトルの水とゼリー飲料、小さなプラスチックのピルケースが握られていた。
『私のでよければ痛み止め飲んで。ほんのちょっとだけ我慢して身体起こせる?』
「う…ごめん……。でも藤堂さんのがなくなっちゃうんじゃ……」
『いっぱい入ってるから大丈夫よ。市販の鎮痛剤だけど、それでもよければ』
藤堂さんが俺が身体を起こすのを手伝ってくれた。
ゆっくり動いているのに、見えない金槌は容赦なく俺を頭を痛めつける。
「…うっ……」
『きついね……』
やっとの思いで座位になり、呼吸を整える。
『何かお腹に入れたがいいかなと思って。これ少し飲んで』
蓋を開けたゼリー飲料を差し出してくれた藤堂さん。
「ありがとう……」
口をつけてゆっくりと中身を吸い込み、数回咀嚼して喉に送り込む。
『1回2錠ね。……効きますように』
そう言って、祈るようにピルケースを軽く胸に当ててから、俺の手のひらに薬を出してくれた藤堂さん。
その言葉と仕草に胸が温かくなった。
手渡されたペットボトルの水で薬を飲む。
『横になる?』
「…うん」
再びベンチに横になった俺の顔に、藤堂さんは折り畳んだタオル地のハンカチをそっと乗せて目隠ししてくれた。
『日光も頭痛の時はしんどいからね…』
「…うん。ありがとう……」
『……ま…く……、かまどくん…』
「…ん……」
いつの間にか眠っていたみたいだ。顔に乗っていたハンカチを取ると、そこにはまだ心配そうに眉をハの字に下げた藤堂さんの顔があった。
『痛みはどう?』
「あ、もう全然痛くないや。…俺どのくらい寝てた? 」
『30分くらいかな。痛み止めが効いたんだね。よかった』
安心したように微笑んだ藤堂さん。
「ありがとう。…もしかしてずっと傍にいてくれたのかな?せっかくの昼休みなのにごめん」
『ううん、気にしないで』
身体を起こした俺の隣に藤堂さんが腰掛ける。
そっと彼女を見ると、整った顔立ちをしていた。
目立つタイプではないのに顔と名前を覚えていたのは、合唱コンクールで彼女がかぼす組の伴奏をしていたから。
『あと10分でお昼休み終わるけど、保健室に行く? 』
「ううん、もう痛くないから大丈夫。藤堂さん、ありがとう」
『よかった。どういたしまして』
「水とかゼリーとかわざわざ買ってきてくれたんだよな。いくらだった?お金払うよ」
『いいの。気にしないで』
「いや、そういうわけにはいかないよ」
食い下がる俺に、藤堂さんは少し困ったように微笑んだ。
『…じゃあ、今度うちのお店に来て。3丁目のグリシーヌ洋菓子店』
「え!?あそこ藤堂さんの家だったのか?」
『うん。いま新作のケーキを開発中なの』
「そうだったのか〜!うちの家族みんな、あのお店のお菓子が大好きなんだ。近いうちに行く!」
『ありがとう。待ってるね』
柔らかな笑顔を浮かべた彼女に、俺は頬が熱くなるのを感じた。
「え?グリシーヌ洋菓子店に寄って帰るの?」
「うん。今日、そこの娘さんに頭痛薬もらっちゃってさ。お礼にそのお店のお菓子買おうと思って
」
放課後、妹の禰󠄀豆子と並んで歩く。家に帰るには少し遠回りするけれど、反対方向というわけでもない。
「お兄ちゃん、頭痛ひどい時はひどいもんね。もう大丈夫なの?」
「うん、もうすっかり平気。ほんと助かったんだ」
「よかったね!」
そこへ、善逸と伊之助が走ってきた。
「炭治郎〜!禰󠄀豆子ちゃあ〜ん!」
「お前ら今帰りか!?アオコの食堂寄って帰ろうぜ!」
「“あおぞら食堂”な。…ごめん、今日はグリシーヌ洋菓子店に寄るんだ」
店名を聞いた途端、善逸がぽっぽと顔を赤くして、デレっとした表情になった。
「それ、かぼす組の藤堂さんの家だろ?目立つタイプじゃないけど可愛いよなあ〜!…あ、もちろん俺のいちばんは禰󠄀豆子ちゃんだから!」
藤堂さんの実家って知ってたんだな。
俺は今日あった出来事を2人にも説明する。
「そっか~!可愛い上に優しいなんてもう最高じゃん!俺も行ってお菓子買う〜!グリシーヌ洋菓子店の売り上げに貢献するんだ!!」
「俺様も行きてえ!早く行くぞ!グリセリン洋菓子店!」
「グリシーヌな。“藤の花”って意味だぞ」
「善逸さん詳しいんだね」
「うふふっ!禰󠄀豆子ちゃんに褒められた!」
そんな会話をしながら俺たちは目的のお店に足を運んだ。
何回かケーキを買いに来たことがあるけれど、いつ来てもお洒落な、蔦の絡まる洋館のような建物。お店の外観は一瞬花屋さんかと間違うくらいにたくさんの花で彩られ、店内にはオルゴール調のBGMが流れている。
「すんげ〜!!」
初めて来たのか、伊之助も大興奮だ。
「いつ来ても可愛いよね!」
禰豆子も丁寧にラッピングされた焼き菓子や、ショーケースに並ぶケーキを眺めてうっとりしている。
『あ、竃門くん。いらっしゃいませ 』
昼間聞いた柔らかな声に、胸が大きく脈打つ。
「と…藤堂さん。お店手伝ってるんだね」
『うん、そうよ。…もしかして私が今日言ったから来てくれたの?』
「うん。妹と友達も連れてきたんだ」
「中等部の竃門禰豆子です。今日はお兄ちゃんがお世話になりました!」
『藤堂芽依です。お兄ちゃんつらそうだったから。お薬効いてよかった。…えっと、そちらは我妻くんと嘴平くんだよね?』
禰豆子にも優しく笑いかけてくれた藤堂さんが、善逸と伊之助を見る。
「俺のこと知ってるの!?嬉しいな!」
「それなら話が早いな!お前も俺様の子分にしてやるぞ!」
「こっ…こら伊之助!」
俺たちのやり取りを見ていた藤堂さんが、くすくすと笑う。
『ゆっくり見て行ってね』
「うん!」
藤堂さんはにこっと笑ってお店の奥へと消えていった。
「お兄ちゃん、どれ買う?」
「そうだな~。ショートケーキにしようか」
「うん!…すみませーん!」
俺と禰󠄀豆子は店員さんを呼び、ショートケーキを7つ選んで箱に詰めてもらう。
「お持ち帰りにはどのくらいのお時間が掛かりますか?」
「えっと、20分くらいです」
「承知しました。では、保冷剤をつけますね」
善逸と伊之助もどれを買うか決まったみたいだ。他の店員さんにお会計をしてもらっている。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ! 」
買い物が終わってお店の外に出る。
「…お兄ちゃん、芽依先輩のこと探してる?」
「えっ!?」
禰󠄀豆子に指摘されるまで自分で気付かなかった。俺は無意識のうちに藤堂さんの姿を探していたようだ。
帰る前にもう1回声掛けられたらと思ったけれど、忙しいよな……。
『竃門くん!』
いま頭に思い浮かべていた人物がお店の外に駆けてきた。
『いっぱい買ってくれたのね。私がお店に来てって言ったから…。ごめんね。あの場をやり過ごす為に言ったことだったんだけど、ほんとに来てくれるなんて』
「いいんだ。家族みんなでグリシーヌ洋菓子店のケーキを食べられるんだから」
『ありがとう。よかったらこれもおみやげに持って帰って 』
そう言って藤堂さんは中身がパンパンに詰まった紙袋を手渡してきた。
「え…これって…… 」
『竃門くん、私があげたゼリードリンクとかお水より倍以上の金額をうちのお店で使ってくれたから。おまけね』
「いやいや、これ“おまけ”って量じゃないよ!」
『いいの。店主の娘の特権。…こっちは我妻くんと嘴平くんのね』
「え!俺たちにも!?」
「お前、いい奴だな!」
「芽依先輩、ありがとうございます!」
『今度新作か出るから、また遊びに来てね。イベントもちょこちょこやってるから』
そう言って、藤堂さんがにっこり笑った。
「芽依ちゃーん!」
お店の中から誰かが藤堂さんを呼ぶ。
『あ、呼ばれちゃった。じゃあ、みんな気をつけて帰ってね。来てくれてありがとう!』
笑顔で俺たちに手を振り、藤堂さんはくるりと向きを変えてお店の中に戻っていった。
帰宅して、買って帰ったショートケーキを見て大喜びする母と弟妹。
別れ際に藤堂さんが持たせてくれた紙袋には、ぎっしりと焼菓子が詰められていた。
藤堂さん…優しかったな……。
殆ど話したこともない俺を心配して声を掛けてくれて。わざわざ売店でゼリー飲料や水も買ってきてくれて。自分の持っていた鎮痛剤まで飲ませてくれて。
家族みんなで分けた焼菓子の、自分が選んだ分を自室の勉強机の上に置き、可愛らしくラッピングされた袋をそっとつつく。
“どうしたの?”
“効きますように”
“竃門くん”
“いらっしゃいませ”
“来てくれてありがとう!”
今日、藤堂さんと交わしたやり取りと彼女の笑顔が脳裏に蘇る。
なんでだろう。顔が熱い。
明日は学校でまた藤堂さんと話せるかな?
ケーキもおみやげに持たせてくれた焼き菓子も美味しかったよって伝えなきゃ。
でも、彼女のことを考えると胸がドキドキするようになってしまった。上手く喋れるといいな。
俺がこの気持ちの正体を知るのは、もう少し先の話。
終わり