テラーノベル
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ランディリックは直接リリアンナの部屋前には行かず、敢えて自室に入った。小さく吐息を落として呼吸を整えると、リリアンナの部屋との境を隔てる内扉の前まで進んで足を止める。
ここを介せば、邪魔が入りにくいことをランディリックはここの城主としての経験から知っている。
「リリー、起きているか?」
内扉はリリアンナの部屋側から施錠されている。
元々、夫婦の寝室として設えられた部屋だ。
リリアンナがここへ来たばかりの頃は、このドアを使ってよく眠れない彼女に寄り添っていた。
リリアンナが成長してからは、ずっと施錠したままになってしまっていたけれど、リリアンナはランディリックが訪えば鍵を外して扉を開けてくれるはずだ。
果たして、中からわずかに衣擦れの音がした後、
「……えっ。うそ……。ランディ? 帰ってきたの?」
ガチャガチャと金属の触れ合う音がしたあとで、静かに扉が開いた。
いつもリリアンナのそばに寄り添っている専属侍女のナディエルも、すでに自室へ戻って休んでいるのだろう。
薄い寝間着姿にガウンを羽織ったリリアンナが、手ずから扉を開けてくれた。
すぐそこへ立つランディリックを間近から見上げる表情は、まだ状況を飲み込めていないように見えた。
だが、それもほんの束の間――。
「……ランディ……、おかえりなさい!」
驚きと、戸惑い――その奥に、わずかな安堵が滲む。
子供の頃のようにランディリックに飛びつこうとして、ハッとしたように動きを止めた。
そうして淑女らしくネグリジェをつまんで膝折礼をして見せる。
「まだ夏なのに……何かあったの? ヴァルム要塞を空けて、平気――?」
リリアンナも、ニンルシーラへ住んで長い。
辺境伯としてのランディリック・グラハム・ライオールの仕事を、かなり正確に心得ている。
そんなリリアンナからの当然の問いかけに、ランディリックは小さく吐息を落とした。
「問題ない。ディアルトがいる」
近衛長官を務めるディアルトは、側近としてかなり優秀な男だ。
リリアンナも知るその名を出せば、彼女が納得したようにうなずいた。
「そっか、ディアルトがいてくれるならきっと大丈夫ね」
自分でディアルトの名を出しておきながら、彼女の口からその名が出るのは面白くない。
「ところでリリー。今日こんな夜半過ぎに僕が帰って来たのにはちゃんと理由があるんだ」
これ以上ディアルトのことを称賛されるのが嫌で、単刀直入に切り出す。
「理由?」
#独占欲
#ワンナイトラブ
一歩、距離を詰めると、リリアンナが、息を呑んだ。
「……王城から……いや、アレクト殿下から…リリー宛に何か書状が届いたりしていないか?」
低く逃げ場を与えない声音で告げて、リリアンナの孔雀青緑の瞳を真っ向から見つめれば、彼女の瞳が何かを隠したいみたいにゆらりと揺らめいた。
「あ、あの……届いたことは届いた、けど……」
「僕に見せられない内容?」
「えっと……信書だった、から……」
小さくつぶやいてうつむくリリアンナに、ランディリックは舌打ちしたくなる。
いや、正確にはリリアンナに対してではない。
あまりにも用意周到な、アレクトに対してだ。
「リリー。僕はキミのなんだ?」
「え、あ、あの……」
「後見人として――僕には、キミのことを知る権利がある」
そのまま、半ば強引にリリアンナの部屋へと入る。
背後で内扉の閉まる音が、やけに大きく響いた。
――まるで、逃げ場を断つように。
コメント
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ランディリック何をするつもり?