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1話
𝒈𝒐⤵︎ ︎
その日から、異変が始まった。
最初は、ただの気のせいだと思っていた。
朝起きると、体が鉛のように重く、撮影中にふとした瞬間に頭がクラクラする。
睡眠時間は十分とっているはずなのに、どうにも疲れがとれない。
メンバーは誰もその変化に気づいていないようだった。
しかし、夜になると、その症状は顕著になった。
鏡を見ると、肩にあった黒い桜の模様が、少しだけ、ほんの少しだけ大きくなっているように感じられた。
そして、湯船に浸かった時、熱いお湯がその紋様に触れると、ズキリと鋭い痛みが走る。
まるで、皮膚の下で何かが蠢いているような、そんな不快な感覚だった。
「…い゛たっ」
思わず声が漏れ、うりは痛む部分を慌てて擦った。
しかし、見た目に変化はなく、痛みもすぐに引いた。
それでも、あの黒い桜の存在が、自分の体を蝕んでいるのではないかという不安が、彼の心の奥底に芽生え始めていた。
それでも、うりは誰にも言えなかった。みんなと楽しく動画を撮っている時、この症状はピタリと止まる。
そして、ふと冷静になった時、この黒い模様は自分だけの秘密、自分だけのものに思えた。
「大丈夫、きっと気のせいだ」
そう思うしかない。
だって、メンバーの笑顔を壊したく無かったから。
心配なんてかけたくない。
迷惑になってしまうかも。
しかし、その夜も、次の日も、黒い桜は静かに、しかし確実にその面積を広げていった。
まるで、彼の元気や活力を吸い取るかのように。
異変は、体調不良だけに留まらなかった。
疲れやすくなったことで、うりの集中力は次第に鈍っていった。
その影響は、日常生活のちょっとした瞬間に現れ始める。
朝、キッチンで朝食の準備をしている時、手にしていたコップを不意に滑らせてしまう。
「っあ……!」
幸いにも割れはしなかったが、カシャン、と床に落ちた大きな音に、リビングにいたじゃぱぱが驚いて顔を上げた。
「うりりん、大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫!ちょっと手が滑っちゃっただけ!」
うりは慌ててコップを拾い上げた。
じゃぱぱは不思議そうな顔をしていたが、すぐにまたスマホ画面に目線を落とした。
胸を撫で下ろしながら、うりは自分の手元をじっと見つめる。
こんなに不注意になったことは、今まで一度もなかった。
その日の動画撮影中も同じだった。
マイクラの建築作業で、うっかりブロックを置き間違えてしまう。
皆に笑いながら「うりりん、珍しいね」と言われたが、その度に心臓がドクリと跳ねる。
そして、その夜。
シャワーを浴びてタオルで体を拭いていると、腕に小さな切り傷を見つけた。
いつ、どうやって怪我をしたのか、全く記憶にない。
「…また、か」
肩の黒い桜の模様は、少しずつ、少しずつ、まるで根を張るかのように広がっている。
そして、その面積が増える度に、彼の心身の不調は確実に深まっていた。
「…これ、やばいかな」
初めて、うりの顔からいつもの笑顔が消えた。
不安が津波のように押し寄せ、胸の奥を締め付ける。
彼は、このまま自分がおかしくなってしまうのではないか、と本気で恐怖を感じ始めていた。
🌸𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎