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「やっほーい!ついにコンプリート!あー、なんか壮大なゲームをクリアした気分だよ」
アートプラネッツのオフィスで、透は両手を広げて天井を仰ぐ。
吾郎が莉沙との婚約を報告し、3人は揃って、おめでとう!と祝福していた。
「やったね!吾郎。ハッピーエンド!」
「おいおい、ゲームと一緒にするなよ」
「そっか、ごめんごめん。吾郎にとってはゲームなんかより遥かに難しかったでしょ?結婚まで漕ぎ着けるの」
透がそう言うと、大河と洋平も同意する。
「ほんとだよ。良かったな、吾郎」
「俺達もめちゃくちゃ嬉しいよ」
ありがとう、と吾郎も笑顔で礼を言う。
「という訳で、早速莉沙ちゃんを交えてパーティーしまーす!」
「でたよ、透のパーティー隊長」
「なんとでも言って。今週の土曜日、うちのマンションのパーティールームに集合ね。あ、もちろんご夫人同伴でよろしく」
はいはいと軽く流しつつ、大河も洋平も吾郎も、心の中では喜びを噛みしめていた。
「ではでは。吾郎さんと莉沙ちゃんの婚約を祝して」
亜由美の音頭で皆は、かんぱーい!とグラスを掲げる。
土曜日の午後。
吾郎と莉沙の婚約を祝って、マンションのパーティールームに集まっていた。
ひと口飲むと一斉に拍手をして、あとはひたすらワイワイと盛り上がる。
「いやー、感慨深いわ。俺達全員が結婚するなんてな」
「ほんとほんと。学生時代はバカなことばっかりしてたあの俺達がな」
「うん。でも今こうやって好きな事を仕事にして、公私ともに幸せに暮らせてる。それってすごいことだよね」
「ああ。これからもよろしくな」
「もちろん!」
男同士の熱いやり取りの横で、女性陣ははしゃいだ声を上げる。
「莉沙ちゃん。ようこそ!マダムプラネッツへ。紹介するね。こちらが泣く子も黙る弁護士、スーパーキャリアウーマンの泉さん。そしてお隣が、最強で極上の美女マダム、瞳子さん」
ゴホッと二人はドリンクにむせた。
「亜由美ちゃん!なんて紹介の仕方なのよ」
「ほんとよ。ラスボスじゃないんだから」
亜由美はしれっとしながら言葉を続ける。
「そしてこのラブリーベビーが海斗くん。瞳子さんのお腹の中にも、まだ見ぬエンジェルがいるのよ。で、莉沙ちゃんに抱っこされてるのがトオルちゃん!私の旦那様と同じくとってもキュート!」
やれやれと苦笑いする泉と瞳子に、莉沙は緊張の面持ちで頭を下げた。
「初めまして、安藤 莉沙と申します」
「初めまして、莉沙ちゃん。洋平の妻の泉と、息子の海斗よ。吾郎さんにこんなに素敵なお嫁さんが来てくれて、私もとっても嬉しいわ。これからどうぞよろしくね」
「はい、こちらこそ。どうぞよろしくお願いいたします」
すると腕に抱いたトオルが、海斗の方に身を乗り出す。
「トオルちゃん。赤ちゃんだから、優しくね」
莉沙がトオルの鼻先に指を揃えて言い聞かせると、トオルはおとなしくじっとする。
「まあ、すごいわね。うちの海斗よりも、ちゃんと言うことを聞いてくれるわ。私も莉沙ちゃんを見習わなきゃ」
あはは!と笑う泉に、「いえ、とんでもない!」と莉沙は恐縮する。
亜由美はしたり顔で口を開いた。
「でしょ?莉沙ちゃんは立派なトオルちゃんのママなの。もういつでも吾郎さんとの赤ちゃんが出来てもいいわよね」
「亜由美さん、そんな…」
莉沙は顔を真っ赤にしてしどろもどろになる。
「でも本当に優しいママって感じね。莉沙ちゃん、私は冴島 瞳子です。吾郎さんにはいつもとってもお世話になってるの。これからどうぞよろしくね」
にっこり微笑む瞳子の美しさに、莉沙は思わず見とれてしまう。
「あ、はい!よろしくお願いいたします。赤ちゃん、楽しみですね。お身体どうぞお大事になさってください」
「ありがとう!莉沙ちゃんみたいに優しいママになりたいな」
「いえ、まさかそんな!」
莉沙はブンブンと手を振って否定する。
「あー、先輩ママがいっぱい!私も安心だな」
亜由美はそう言うと、透さん!と透を手招きした。
皆が、ん?と注目する中、透と並んだ亜由美は、はにかみながら口を開いた。
「えーっと、私達からもご報告があります。実は、赤ちゃんが出来ました!」
ええー?!と皆は一気にどよめく。
「ほんとに?」
「きゃー、すごい!」
「良かったねー、亜由美ちゃん」
「やったな!透」
「アン!」
「いや、お前じゃないよ、トオル」
「あはは!」
とにかく幸せで、とにかく嬉しい。
その場にいる誰もが笑顔で喜びを分かち合っていた。
「莉沙、そろそろ寝る時間だよ」
「はい、このお皿洗ったら行きます」
莉沙が引っ越して来て、すっかり二人と一匹の暮らしにも慣れた頃。
吾郎は毎晩密かに戦いを繰り返していた。
「お待たせしました」
パタパタと近づいて来た莉沙の肩を抱き、吾郎はゴクリと生唾を飲み込んでから、そっと電気のスイッチを消す。
リビングが暗くなった次の瞬間…
「アン!」
トオルの声が聞こえてきて、吾郎はガックリと肩を落とした。
「トオルちゃん、起きちゃった?」
莉沙はいそいそとサークルに近づき、トオルを抱き上げて戻って来る。
「吾郎さん、寝ましょうか」
「あ、うん。そうだな」
寝室に行くと、莉沙は当然のようにトオルを胸に抱きしめてベッドに横になる。
「トオルちゃん、おやすみなさい」
「アン!」
ふふっとトオルに微笑んでから、莉沙は顔を上げた。
「吾郎さんも、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
(も?吾郎さん、も?俺は二番目か?)
布団に潜り込むと、吾郎はブツブツと不満そうに呟く。
(ちぇ!毎晩トオルに莉沙を取られちゃう)
いじけていると、小さく「吾郎さん」と莉沙の声がした。
え?と布団から顔を出すと、莉沙の顔がすぐ近くにあってドキッとする。
「ど、どうしたの?」
「しーっ!トオルちゃんが起きちゃう」
そう言って莉沙は自分の後ろを振り返る。
そこには身体を丸めてスヤスヤ眠るトオルがいた。
「トオルちゃん、やっと寝たの。あの、吾郎さん。くっついてもいい?」
「え…、ああ!うん、いいとも。よし、来い!」
両手を広げると、莉沙は嬉しそうに身を寄せてきた。
吾郎はギュッと莉沙を抱きしめる。
(はあ、ようやく俺のところに来てくれた)
何度も莉沙の頭をなでながら幸せを噛みしめた。
「トオルちゃんを抱っこするのも癒やされるけど、吾郎さんにギュッて抱きしめてもらうと、安心してすごくホッとするの」
「そうか。トオルよりも俺の方がいい?」
「んー、同じくらい」
ガーン…と吾郎は打ちのめされる。
「でもね、トオルちゃんごと私を守ってくれる吾郎さんが一番好き」
「そ、そうか!もちろん、俺はトオルのことも莉沙のことも、ずっと守っていくよ。誰よりも幸せにするから」
「うん!ありがとう」
にっこり微笑む莉沙に見とれてから、吾郎はゆっくりと莉沙の身体を抱き寄せる。
「莉沙…」
小さくその名を呟くと、莉沙はそっと目を閉じた。
無防備で可愛い表情に目を細め、吾郎は優しく莉沙にキスをする。
ん…と甘えるように吐息を漏らす莉沙を、吾郎はますます強く抱きしめた。
「大好きだよ、莉沙」
「私も。吾郎さん、大好き」
二人は何度も愛を囁いては、互いを抱きしめながらキスを交わしていた。
「瞳子、お腹苦しくない?」
「うん、大丈夫です」
「良かった。ゆっくり休んで」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみ、瞳子」
ベッドに並んで横になると、大河は右手で瞳子を腕枕して、左手で瞳子のふっくらとしたお腹をなでる。
毎晩そのひとときが、二人にとって何よりも幸せな時間だった。
「ねえ、大河さん」
「ん?どうした?」
「あのね、私、昔の自分に伝えたいの。恋愛も結婚も諦めて、殻に閉じこもってた頃の自分に。大丈夫、ちゃんと幸せになれるよって」
大河は優しく瞳子のお腹をなでながら、黙って耳を傾ける。
「あの頃の私は、普通の幸せも望めないんだって、自分の人生を悲観してた。誰かに声をかけられても身構えるばかりで、誰にも心を開けなくて。優しくされても拒んでしまって、自己嫌悪に陥ってた。誰を信じていいのかも分からない。自分と相手を傷つけない為には、誰とも恋愛しちゃいけないんだって、そう決めて生きてきた。そんな時に大河さんと出逢ったの」
瞳子は顔を上げて大河を見つめる。
「大河さんは、とっても心が温かい人。どんな時も私を守って、どんな私も優しく包み込んでくれた。少しずつ少しずつ、私の氷みたいだった心を溶かしてくれたの。大河さんと出逢えたから、今の私がいます。あなたと出逢えた奇跡を、私はこの先もずっとずっと感謝して生きていきます」
瞳子…と、大河は目を潤ませる。
「奇跡なのは俺の方だよ、瞳子。こんなにも心が綺麗で、優しくて可愛い瞳子に出逢えた。瞳子の美しさは内面の現れだよ。瞳子の心の美しさが、瞳子を誰よりも綺麗に輝かせている。そんな瞳子がそばにいてくれるだけで、俺は信じられないほどの幸せを感じるんだ。今まで仕事のことばかりで、生きる意味なんて大して考えたこともなかった。だけど今は、ひしひしと感じるよ。瞳子と赤ちゃんを必ず幸せにして守り抜く。それが俺の人生の全てだ」
「大河さん…」
瞳子の瞳から綺麗な涙がポロポロとこぼれ落ちた。
大河は瞳子の右頬を大きな手のひらで包むと、親指でそっとその涙を拭う。
「瞳子。瞳子の人生はまだまだこれからだ。俺と赤ちゃんと一緒に、毎日を楽しく暮らそう。今まで辛くて悲しい思いをした分、瞳子にはその何倍も幸せになる権利があるよ。俺が必ず幸せにしてみせるから」
「うん…。ありがとう、大河さん」
「まずは二人で赤ちゃんを迎えよう。そして大切に育てていこうな。赤ちゃんが初めて寝返り打ったら喜んで、初めてハイハイしたら喜んで、初めて歩いたら喜んで、初めてしゃべったら喜んで…」
ふふっと瞳子は思わず笑い出す。
「喜んでばっかりね」
「ああ、そうだ。毎日が喜びに溢れているんだよ。大きくなったら神戸に連れて行こう。いつか、フランスにも」
「うん!」
瞳子は子どものように嬉しそうに笑って頷く。
大河はそんな瞳子に頬を緩めてから、愛おしそうにその瞳を見つめた。
「瞳子。心から君を愛してる」
「私もです。大河さん、世界中で誰よりも、あなたのことを愛しています」
瞳子の頬を包んだ左手に力を込めると、大河はそっと瞳子に口づける。
温かい幸せが胸いっぱいに広がるのを感じながら、二人は心がしびれるような幸せをいつまでも分かち合っていた。