今夜も私はささみだよ。
削ぎ切りにしたささみに塩とコショウをまぶし、全体に片栗粉をまぶすと溶き卵にくぐらせて両面を焼く。
溶き卵がなくなるまで、くぐらせて両面焼くことを繰り返す。
これを繰り返すというのが、ふんわり仕上げるために重要だ。
そして、焼く間にソースを作る。
ピカタはケチャップをつけることが多いけど糖質が多いから、刻んだプチトマトとレモン汁をプラスしてサッパリしつつ、ソースも加えカサ増ししてケチャップの使い過ぎを抑える。
「ただいま、才花」
「ただいまぁ、才花ちゃん」
「おかえりなさい。ご飯、ちょうど出来るよ」
今日はタクも来ると連絡があったから、3人分作った。
「手伝うよ」
「タク、手洗って来て」
「だね」
先にキッチンへ来た羅依が
「才花、一人で留守番させて悪かったな」
と唇ギリギリのところにキスをする。
「大丈夫。ちゃんとメニューはこなしたし、あちこちへ連絡もして返事ももらったよ」
「ゆっくり聞かせてもらう」
チュッ…今度は唇にキスしてから冷蔵庫を開けた彼は
「これ、サラダ?出すぞ」
とボールを持って見せた。
「うん、ありがとう。リンゴ、レタス、カッテージチーズ、レーズンのサラダだよ」
「ワインに合いそうだな。今日は飲む」
私はアルコールを全く飲まないし、羅依もほとんど飲まない。
飲めるけれど、家で毎日はいらないらしい。
豆腐、玉ねぎ、ワカメの味噌汁とめかぶ納豆が今日の夕食。
「飲まない私でも、ワインとめかぶ納豆はおかしいって分かる」
「大丈夫だ。いただきます」
「俺も。才花ちゃん、いただきます」
「私もいただきます」
3人順番に手を合わせてお箸を持つとサラダから口にする。
二人に夜は仕事をしなくていいのか、と聞きながらお箸と口を動かした。
「どの店も現場に責任者がいる」
「店長とか?」
「そうだ。俺たちは店に直接手を出さない」
「前は出してたけどね。今は大きくなりすぎてそれどころじゃないんだ。お、ささみ柔らかい」
料理上手なタクに誉められるのも嬉しい。
「才花は?スクールとか、どうだった?」
羅依に聞かれて私が今日の話をすると
「動き出したな」
彼は私の頭をポンポンとし、タクが
「新生才花ちゃんに乾杯」
羅依のグラスにコツンとグラスを合わせた。そのグラスからゆっくりとワインを口に含んだ羅依が
「才花」
静かに私を見る。
「うん?」
「父親に会いたいか?」
「…迷惑でなければ、うん」
「会える」
会えるんだ…
「急だが明日いいか?」
そう言う羅依だけでなく、タクの視線も感じながら小さく頷く。
明日は緒方先生のジムの日だけれど、父の都合があるのだろう。
「何も心配ない、大丈夫だ」
「うん」
「名前は小松元樹さん」
「こまつ…もとき…知らない…」
当たり前のことが言葉になり、自分でも可笑しくて苦笑いだ。
「それから…」
「それから……?」
「母親の違う兄がいる」
「……兄…ってお兄ちゃん?」
「そうだ」
当たり前のことを再び言ったけれど、いつもならツッコミそうなタクも静かにじっと私を見ていた。
「一緒に会える」
「…いいの……?」
「二人とも才花に会いたいと言っている」
「そう…いいんだね」
父に会えるということより、兄という想定外の存在を知らされた衝撃が大きい。
でも兄というからには、私より年上の大人なんだから…その人が会いたいと言ってくれるならいいのだろう。
コメント
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新生才花ちゃんにカンパーイ🥂 今晩のメニュー全部マネ子したい…ささみのピカタやりたい!おソースもエヘヘ お父さんに会えるんだね🥺まさかお兄ちゃんもいるなんて!異母兄弟だけど、そんなの気にならないよね、だって2人とも会いたいって才花ちゃんに🥺嬉しすぎるよね😭