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「ねえ樹、なに見てんの?」
楽屋では、いつものように6人がわいわいと話している。いや、正確には1人をのぞいて。
「ん? 別に」
素っ気なく返して、見ていたスマホの電源を切る樹。
さっきからみんなとの会話に加わらないから何事かと思えば、どうやらSNSを見ているようだ。
しかもその表情をうかがう限り、トレンドやほかの芸能人ではなく暗い話題。
つまり、エゴサーチか。
でも、樹はたぶんそういうのはしない。数年前の出来事のときにはちょっと見ていられないほど痛々しい傷を負った樹だけど、それは避けていた。というか、俺らで止めていた。
そういうことをしたら嫌な情報しか入ってこないというのは知ってるはず。
樹はバッグから音楽プレーヤーとワイヤレスイヤホンを取り出し、音楽を聴きはじめる。
それはよく見る姿だけど、その表情はどこか冴えない。
目を閉じている樹には、俺らでさえも何も聞くな、という無言の圧力が感じられた。
収録が終わって6人でスタジオから戻るとき、俺は高地に声を掛けた。
「高地、ちょっと飲み物買いに行こーぜ」
いいけど、と答える。
近くの自動販売機に向かう。
「あのさ、最近…樹、ちょっとおかしいよな」
俺が切り出すと、高地は小さくうなずいた。
「……ちょっとだけ思ってた。移動車とかで話しかけても会話続かないし、なんか顔暗いっていうか」
「なんでだろう?」
うーん、と高地は考え込む。
「体調悪そうじゃないし……家のことでなんかあったとか…。だってあいつが仕事で悩むとかあんま考えられないしな」
「いや…わかんないよ。だってああ見えて人一倍繊細だし、全然人に言わないから」
「そうだよな…」
じゃあ、と高地は俺を見返す。
「メールでほかのメンバーにも伝えとく。もしいつか倒れられたら嫌だし」
俺はうなずく。
「わかった」
その夜、そろそろ寝ようとベッドに向かいかけたとき、リビングのスマホが鳴った。
取り上げると、画面には「樹」の一文字。相手も時間も、特に変ではない。むしろよく掛かってくる。
でも少し違ったのは、応答した樹の声だった。
「……もしもし?」
恐る恐る窺うような、わずかな間隔。
おかしいな、と思いながらも目的を訊いた。
「もしもし。どうした?」
樹は「んん…」と口ごもっている。
「なんかあった? 眠れない?」
「…ちょっとね、北斗の声が聞きたくなって」
「そうか」と相槌を打ちながらも、やはり不自然で首をひねる。
その後は次の仕事のことを話した。でも、何だか俺も一緒の仕事だということを確認するような、そしてそれに安心するような雰囲気だった。
「…ごめんな、遅くに急に電話して。じゃ」
「あっ、じゅ――」
俺も高地も、恐らく口にはしていないけどほかのメンバーも気にしていたそのことを訊こうと思ったが、そそくさと切られてしまった。
それが、あのとき俺が聞いた最後の樹の声だった。
続く