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その日は朝から雪だった。十勝では初雪だ。
窓の外に広がる銀世界を目にした慎太郎は、興奮した様子で声を上げている。
「うわあ、すげー!」
仕事が休みの北斗は、それを見て優しく笑っている。
「なんか犬みたいだな。初めて?」
「前住んでたところは降ったことはあるけど、積もったのは初めてです」
「そっか」
「ほら、窓際寒いよ。こたつ入って」
大我がこたつ布団をめくって示した。
並んでホットミルクを飲む。ここに来てから、大我に倣ってジェシーの牧場産の牛乳を朝に飲むのがルーティーンになっていた。
「あったかいね」
「ですね」
やけに難しい言葉をいっているかと思えば、ジェシーの牛乳が好きでいつも飲んでいる。そんなギャップが面白い人だな、と慎太郎は感じる。
「おいジェス、雪かき行くべ」
優吾はジェシーに声を投げる。慎太郎も手伝おうとしたが、「寒いからいいよ」と言われこたつに戻った。
「いやーしばれる」
やっと起きてきた樹は開口一番言った。
「知ってる? しばれるって。寒いとか凍るって意味」
「そうなんですか」
「なまら雪降ってる。こたつ入ろっと」
慎太郎の向かいに座り込むと、置いてあったみかんを剥きはじめた。
「ちょっと2階で作業してくる。みかん食べてていいよ」
北斗は立ち上がり、慎太郎に言い残して出て行った。
「いやーひゃっこい(冷たい)!」
雪かきから戻った優吾とジェシーは、冷えた手をストーブで温める。
「今日もしばれるもね」
「そだね」
彼らの北海道弁にも慣れてきた。大我は東京出身だが、ほかの4人は生粋の道産子だ。
「さっ、樹、慎太郎くん、牧場行くべ」
ジェシーは早速言う。
「今からですか? もうちょっと休憩したら…」
「いや、牛たちは待ってくれんから。早く搾乳しないとね」
慎太郎はうなずき、用意を始める。樹も渋々こたつから出た。
が、その瞬間。
「うっ、ゲホッゲホ…」
突然樹が胸を押さえて咳き込みだした。
口を覆う指の隙間からは、わずかに血が流れる。
そのまま床に倒れた。
みんなは声も出せず、その場に固まっている。
一番早く我に返ったのは優吾だった。「…おい樹! 樹、大丈夫か」
肩を揺すっても返事はない。
大我は「北斗呼んでくる!」と2階へ向かう。
やがて、2人が下りてきた。北斗の手には見たことのない形のマスクのようなものがあった。
「マジか、喀血してる…」
少し驚いた顔を見せたが、冷静にそのマスクを口元に当て、膨らんだゴムの部分を押した。
空気が送られているようで、だんだん樹の表情が和らいできた。
そして未だに困惑している4人を振り返り、
「まだ言ってなかったな…」
とつぶやく。
「樹は俺の患者。気管支拡張症っていう病気なんだよ」
続く