「ねえ、君。なにしてるの?」
「へ」
急に後ろから誰かに話しかけられ、僕は自分の手に持っている携帯を慌てて隠した。
「んん?携帯を隠したってことはなにかやましいことでも見てたの?」
「そういうわけじゃ…」
おそるおそる声のした方に向くと、思わず目を見張るほどの美人がそこに立っていた。
透けるような白い肌に、さらさら長い黒髪、そして白のワンピース。
シンプルな格好なのに、彼女の美貌のせいかとても清楚に見える。
「私はトーカ。君の名前は?」
「なんですか急に。知らない人に名前なんか教えるわけないじゃないですか…」
はぁ…とため息をつく僕。
女の人にめんどくさく絡まれてしまった。
「ねえ」
彼女はぐいっと急に顔を近づけてきて、僕は動揺する。
「な、なんですか」
「あはっ!」
彼女は、ぷっと吹き出して笑った。
「あははは!顔真っ赤だよ!ふふふっ!君、面白いね」
そう言われて初めて自分顔が紅潮していることに気づく。手で触ってみると頬が熱くなっていることがわかり、恥ずかしくなる。
こんな変な人に、なに惑わされてんだ。
「それで?君の…」
「な、なんなんですか」
僕はコホンと一度咳払いをした。
「わかりました。言いますよ」
嫌がりながらも渋々自分の名前を言う僕。絶対笑われる。自分でも自分の名前が嫌いだ。
そんなことを思いながらも、少し期待してしまった。
でも、彼女は一瞬驚いた顔をして、
「いい名前だね。凛としてて、かっこいいよ」
微笑んでくれた。
今まで名前を褒められたことがない僕にとって、衝撃だった。
「女の子みたいな名前だって、変だって、思わないんですか」
「ううん。素敵だなって思う」
自然に褒められ、僕はなんとも言えない不思議な感覚になった。
風が吹き、彼女の黒髪が夜の空になびく。買ったばかりなのか、汚れが一切ない真っ白なワンピースが静かに揺れた。
僕はポケットに隠していたスマホを取り出すと、ロックを解除した。
すると画面にパッとテロ事件の記事が映った。
「へえ、こういうの興味あるんだ」
にやりと口角を上げる彼女。
「教えてあげる。今話題になってるテロの犯人」
唐突な事を言われ、戸惑う僕。
「な、なに言ってるんですか。僕、こういうの興味ないし。そもそもなんでこの事件の犯人なんかあなたが知ってるんですか」
「私だよ。私が、このテロを引き起こしたの」
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