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太宰さんかわいいねぇ… 怯えてるの可愛すぎるよ
最近「あやねこ」って人がめっちゃコメントしてくれてて・・・感謝しかねぇぜ
重厚なビロードのカーテンから漏れる、わずかな朝の光。 中也の寝室は、深海のように静まり返っていた。太宰は、自分を包み込む「檻」の温度にまどろみながら、ゆっくりと意識を浮上させる。
(……あぁ、よく寝た。)
寝ぼけ眼のまま、太宰は隣で自分を抱きかかえるようにして眠っている男を感じた。 中也の腕は、太宰の細い胴をがっしりとホールドしている。寝ている間ですら、この男は獲物を逃がさない猛獣のようだ。太宰は無意識に、大人だった頃の癖で、冷ややかな、けれどどこか親愛の情を含んだ独り言を漏らした。
「……中也。いい加減に離したまえ。……重苦しくて寝れやしないよ」
低く、理知的で、人を食ったような――「大人の太宰治」そのものの口調。 その瞬間、中也の肩がぴくりと跳ねた。
「…………今、何つった、太宰」
地を這うような低い声。 太宰の背筋に、氷水を流し込まれたような戦慄が走った。一気に血の気が引き、心臓が警鐘を鳴らす。
(しまっ……た……!)
太宰は瞬時に思考を回転させた。まだ、中也は寝ぼけている。聞き間違いだと思わせなければならない。太宰は慌てて体を震わせ、ぎゅっと目をつぶると、泣き出しそうな子供の声を絞り出した。
「……ぁ、う……。ちゅうや、ごめん、なさい……。ゆめ、みてたの……。こわいひとが、おこって、たの……」
太宰は中也の胸板に顔を押し付け、必死に「震える幼子」を演じた。ひらがなで、弱々しく、頼りなげに。 だが、中也はすぐには太宰を解放しなかった。むしろ、太宰の顎を強引に持ち上げると、射抜くような鋭い視線で、その瞳の奥を覗き込んできた。
「『離せ』……そう聞こえたが。夢、ねぇ。手前、本当に記憶がねぇんだろうな?」
中也の瞳の奥にある、冷徹な支配欲。 それは「心配」の皮録を被っているが、中身は狂気に近い独占欲だ。もし記憶があることがバレれば、この心地いい「お世話」は終わり、本当の『監禁』が始まるのではないか。そんな本能的な恐怖が、太宰を支配した。
「……わかんない、わかんないよぉ……! ちゅうや、こわい、はなして……!」
太宰は本気で怯え、中也の腕の中で暴れた。これは演技ではない。中也の瞳に宿る、自分を「モノ」として扱いかねない加虐的な光に、ガチの恐怖を感じてしまったのだ。
「……あ。……あぁ、悪ぃ。怖がらせるつもりじゃなかったんだ」
中也は一瞬、ハッとしたように表情を和らげた。太宰を包む腕の力がわずかに緩む。 けれど、太宰は見逃さなかった。中也がその後、太宰を安心させるためではなく、二度と逃げ出せないように確認するかのように、太宰の細い首筋に自分の歯形を刻みつけたのを。
「大丈夫だ。手前が記憶を失くしてようが、大人に戻ろうが……俺が飼ってやるよ。何も心配いらねぇ」
中也の低い笑い声。 太宰は彼にしがみつきながら、全身に鳥肌が立つのを感じた。 今まで、自分は中也をコントロールしているつもりだった。可哀想な子供を演じて、優位に立っているつもりだった。
でも、中也は最初から、私が「何者であれ」手放すつもりなどなかったのだ。 幼児化という特異点が解けたとしても、この男は別の鎖を用意して待っているに違いない。
「……うん、ちゅうや。ずっと、いっしょに、いさせて……」
太宰は震える声でそう言いながら、中也の胸の中に閉じ込められた。 愛という名の、逃げ場のない監獄。 その真実の重さに、太宰はただ、恐怖と感じてしまう微かな快楽に震えることしかできなかった。