冬の函館は、幕府の北の拠点として堅牢な守りを誇っていた。だが、雅也は函館の地形と海路を利用して、迅速かつ大胆な作戦を計画した。
「加藤、次の標的は函館や。」
雅也が地図を広げ、冷たい冬の風が吹き抜ける中で話し始める。加藤清政はそれを見つめながら、眉をひそめた。
「函館は堅いぞ。幕府の部隊が集中している上、海路での物資補給も確保されている。」
「せやから、海賊団を使うんや。」雅也が自信満々に答えると、加藤は冷笑を浮かべた。
「お前、また黒潮団に頼るのか。あいつら、金を積めば幕府側に寝返る可能性もあるぞ。」
橘真治も加藤の意見に同調した。
「リスクは大きい。だが、成功すれば幕府の北方支配を揺るがすことになる。」
雅也は微笑みを浮かべた。
「リスクは付き物やろ。けど、この戦、負けられへんねん。」
雅也は再び黒潮団を味方につけるべく交渉を行った。黒潮団の頭領である黒瀬は、粗野ながらも計算高い男だった。
「雅也、また俺らに頼むのか? その代わり、終わったら函館の港を全部俺たちに譲ってもらうぞ。」
「ええで。ただし、裏切ったら……わかっとるな。」雅也の目が鋭く光ると、黒瀬は一瞬身震いしたが、すぐに笑い声を上げた。
「お前みたいなヤツ、嫌いじゃねぇよ。」
黒潮団と雅也軍は、夜陰に乗じて函館港を襲撃した。海賊団の素早い動きと雅也の「切断」により、港の幕府軍は混乱に陥った。
加藤清政は、城郭を守る主力部隊を迎え撃つために前線に立った。彼の持つ異能「十魂」の一つ、天雷剣が炸裂するたびに、雷鳴のごとき轟音が響き渡り、幕府兵たちは恐怖に震えた。
「清政様、敵が突破してきます!」部下が叫ぶ中、加藤は冷静に指示を出した。
「怯むな。ここを守れば、雅也が後ろから畳みかける。」
橘真治も銃で支援しつつ、的確な指示を飛ばしていた。
「加藤、右の兵を押し込む。俺が援護する!」
「言われずともやる。」加藤は苦笑しながら、幕府兵を次々と切り伏せた。
函館の制圧が進む中、加藤は一つの事実に気付く。自分が戦えば戦うほど、その力が異能であることが周囲に露見していくのだ。
戦闘後、彼は雅也に告げた。
「俺は異能者や。幕府だけでなく、お前にとってもリスクになる。」
雅也は一瞬黙ったが、やがて小さく笑った。
「加藤、お前が俺らにおるだけでええ。それ以外のことは気にせんでええ。」
その言葉に、加藤は少しだけ目を細めた。彼の胸の中には、迷いと覚悟が渦巻いていた。
最終的に、函館は雅也軍の支配下に入った。黒潮団には約束通り港の管理を任せ、物資補給の拠点として機能させた。
「これで北は押さえたな。」橘が感慨深げに言う。
だが、雅也はまだ満足していなかった。
「次は東や。幕府に本気で揺さぶりをかけるで。」
その背後で、加藤清政がじっと空を見上げていた。彼の胸中にあるのは、未だ消えぬ過去の影と、異能者としての運命だった。
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