テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
智Side
「‥あれ?シャワー入ってる?」
疲れ切った身体を引きずり‥自分の家ではなく小川の所へと訪れた。勝手知ったる他人の家のように合鍵を使い中に入ると、浴室から水音がする。
こんな早朝に‥?珍しい。
上がるのを待つ間、ダラリとソファに寝転ぶことにした。瞼を閉じ、あわよくば惰眠を貪ろうと思うが‥疲弊した身体とは裏腹に心がざわつくせいで‥眠れそうもない‥
瞼を閉じれば、すやすやと眠る祐希の顔しか思い浮かばないし。
夢現の状態の祐希に抱き締められた腕の中は酷く居心地が良く‥だが、それと同時に虚しくも感じ‥
ずっとここにいたい‥その想いを振り切るように、まだ眠りにつくあどけない顔にキスをし、何も告げず部屋を出てきた。
目が覚めた時、少しは俺の事を心配してくれるだろうか‥そんな淡い期待に思いを馳せていると‥
「あれ?智さん?来たの?」
頭上から小川の声が降りかかる。いつの間に上がってきたのか、心底驚いた表情で俺を見つめる。
「いまさっきね‥なんで?悪い?」
いつもと違う態度に眉をひそめる。普段から突然訪れる事が多々あり、そのたびに”おかえり♡“と嬉しそうにハグしてくれていたのに‥
なんだか、今は様子が違う。無造作にまだ濡れた状態の髪を乱雑にタオルで拭いている。
「ドライヤーすればいいのに‥何か急いでるの?」
ポタポタと落ちる水滴を眺めると、身体もきちんと拭いていない事に気付く。よほど、急くように上がってきたんだということが伺えるが‥
「まぁね、藍が気になって‥」
「藍?えっ、藍‥いるの?まだここに?」
思わず周りを見渡す。リビンクにいないのは明白なのに‥。そうか、寝室にいるのか。
しかし、まだ居たなんて。もう、帰っているんだと思っていた。
「はぁ‥それなら早く言ってくれる?というか藍、起こして帰ってもらおうよ?」
少し苛立ちながら小川に催促する。今のこの状態で藍の顔は見たくなかった。
「いや‥藍は暫く起きないよ‥」
「は?なんで?」
意味がわからない。ただ、寝てるだけなら起こせばいいのに。
しかし、それには答えず小川はまた洗面所へと向かって行ってしまった。乾かしにでも行ったのだろう。
ドライヤーの音がするのと同時に、気怠い身体を起こし‥寝室へと向かう。
見たくない‥そう思ったが‥好奇心の方が勝ってしまった。好奇心は猫を殺す‥そんなことわざをぼんやりと思い出すがその時の俺は気にも留めなかった。
薄暗い寝室の扉を開けると、すぐにベッドの上に寝転ぶ白い体に目を奪われた。
何も纏っていない。裸の身体には薄いタオルケットのような物が申し訳ない程度に掛けられている。
近くで見ると、すやすやとよく眠っていた。
しかし、顔は涙の跡、ぐしゃぐしゃになった髪、身体中にある無数の痕跡が‥情事の後だということを物語っている。
ベッドサイドには、使用済みのゴムの他に錠剤の包装が転がっている。中身はない‥
“暫く起きないよ‥“
その言葉を理解する。藍は睡眠薬を飲んだのか。自らなのか、それとも‥。
いや、後者である事は間違いないだろう。
それにしても、何もかもをそのままにしてるこの現状にウンザリしてきた。
人の事は言えないが、慰めて貰おうと訪れた恋人の家で違う奴が裸で寝転んでいるのだから‥気分がいいわけがない。
どうにかして起きないかと、藍の身体に触れた瞬間、寝室の扉が開いた。
「智さん?何してんの?」
少しキツめの声に驚き振り返ると、やや睨むような目つきで小川がそこに居た。
「なんも‥してないよ‥ただ、起こそうと‥思っただけ‥」
ただ、身体に触れただけだ。だが、小川の威圧的な声につい声が上擦ってしまう。
「まだ起きないって言ったじゃん。寝かせてあげて‥泣きすぎて疲れてるから。なぁ、藍?」
眠る藍の前髪を優しくさらりと撫でながら慈しむように小川が話しかける。
泣きすぎか‥
どうせ、小川が泣かせたんだろう。藍の顔を見れば分かる。目元は腫れていて、酷い有り様だ。
サディスティックな一面があるのは知っていたが‥。俺にもそれを垣間見せてくれる事がある。そのたびに愛されていると実感する俺にとっては喜びでもあったが‥
藍にとっては苦痛だろうな‥と何故か他人事のように感じてならない。
俺の心はどうしてしまったんだろう‥。
「ん‥‥」
ふと気付くと‥寝ている藍の口から吐息が漏れる。視線をやると、頭を撫でていた小川の手が、横たわる身体を撫でていた。
優しく上下に撫でるたびに、ピクッと反応している。
「寝かせてあげてって言ってたくせに‥節操ないな‥まだやるの?‥しかも、俺の前で?」
「くすっ、そういや、智さんの前で藍を抱くって言ったじゃん?それを今ヤろうと思って♡」
悪戯っ子のように微笑みながら、藍の上に覆いかぶさる。
「お仕置きか‥今は嫌なんだけど‥てか、意識のない藍にそれしてもいいの?」
「それもそうか‥起きるかな‥藍‥ねぇ、起きてっ!」
ペチペチっと頬を叩くが、起きる様子はない。
それもそうだろう‥なのに、今度は小川が藍の胸の突起物を突然、摘み上げた。
「やぁぁぁ、」
途端に、か細い声が藍の口から溢れる。刺激で起きたかと思い、顔をのぞき込むが‥
まだぼんやりと焦点の合っていない瞳は、虚ろで‥とてもじゃないが覚醒しているとは言い難い。
「ごめん、藍、痛かった?」
そんな藍に甘えたような声色で話しかけ、キスを施す。
すると、焦点の合っていない瞳が、僅かに反応を見せる。
「ゆ‥う‥き‥?」
呟かれた声に、胸がドクンとなった。
夢現の藍は、小川を祐希だと思ったんだろうか。
ゆっくりと腕を小川に回し甘えるように擦り寄っている。
「来て‥くれ‥たん‥やね‥」
その仕草に一瞬、動揺した小川だったが‥すぐに甘えるように擦り寄ってきた藍を抱き締めていた。
「うん、祐希だよ、ねぇ、もっかいしよ?」
優しく耳元で伝えられる言葉に、藍が微笑み、小さく頷く。
異常だと思う。
異様な光景。
それでも、目が離せなかった。祐希だと思いしがみつく藍から‥
それは嫉妬からなのか、
それとも‥同情心なのか‥
自分でも分からずに‥。
コメント
2件
藍くん目覚めたけど完璧に寝ぼけてるけど大丈夫かな...?いつになったら意識ははっきりしてくるかな?反応が楽しみだなぁ🥰