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深夜。
姉さんの勘は本当によく当たるから、うちはわざわざ東京まで来てあるドールを待ってる。
ロウソクを持って、崩れた瓦礫だらけの家だったであろう山の天辺に立って、何時も、何時までも、美しい弧月を見上げていた。
後ろの方で気配がする。誰かがうちのことを見てるみたい。気配的には津炎に近いドール。すなわち、兄妹だ。津炎の今生きている兄妹は一人しかいない。津炎の妹の独華だろう。
どんな設定で独華ちゃんは来るのかわからない。知らない振りするのが最適だろうな。
そう思って、パッと独華ちゃんの方を向いた。
「あれぇ?こんな時間に人?」
出来るだけ明るい声で。
うち、演技は得意なんだから。姉さんのお墨付きなんだから。
黒色のヒールをコツコツと鳴らして独華ちゃんの方に近づいて行った。
見た目から見ると、男装をしてるのだろう。じゃあ、知らない振りを続けなきゃね。
「おにーさんってドールでしょ」
わざとらしく、おにーさんと呼んでみた。
「そうだけど。お前も俺と同じドールだろ?」
怪しまれてはいないみたい。ただ、ちょっとだけ警戒されてるっぽいね。
「そー」
わざとらしく、明るい声で、元気よくうちはそう簡潔に答えた。
「うちは鈴華。気軽に鈴って呼んでよ!此処日本国のもう一人の化身、にゃぽん様のドールだよ。私達ドールの持つ能力の関係でね、この面を付けてるの。おにーさんは?」
妙に高いテンションを演じながらうちは自己紹介をして、そう尋ねた。
「俺は津逸だ。ヨーロッパの方から来た」
ふ~ん。あくまで、ここに居るのは独華ちゃんじゃなくて、津逸って事ね。
「あれぇ〜?そんな名前のドールっていたっけ?」
わざと、あやしむような仕草でうちはそう言う。変な冷汗かきそうな顔してる所からやっぱり、津逸は偽名だ。なんてのは簡単に分かった。
「ま、いっか!姉さんに聞いたら全部解決するし〜」
知りたい事は知れたのだから探りを入れるのはこのぐらいでいいっしょっ。
「おにーさんも姉さんに、あ、いや、おにーさんには初めのドールって言ったほうが伝わりやすいかな?初めのドールに会いに来たんでしょ?案内したげるよ」
このドール、なかなか警戒心を解かなさ過ぎて面白くって、笑いをこらえるのが大変なんですけど。
「頼む」
独華ちゃんはそう一言言って、グッとフードを深く被った。
大阪府の山の中まで歩いて行く。
独華ちゃんもこの獣道に慣れてるのかスイスイと進み続けれた。
そうして暫く歩くとやっとうちらの家(っていっても屋敷なんだけど)に着いた。
「ま、今日は遅いしさ、泊まっていきなよ。んで、明日、姉さ、、、初めのドールに会えばいいじゃん」
玄関の引戸を開けて面白可笑しく、招き猫みたいに手招きをしながらそう言う。
姉さんを起こすと怖いから、「静かにね」と釘を差しておいた。
次の日、洋室になってる応接室に独華を案内して、洋室の理由とか聞かれたから答えてた。
そんな事をしてると姉さんが来た。
「待たせたな」
姉さんはそう言った。
独華は姉さんに見惚れてるみたい。まぁ、無理も無い。姉さんはこんなに美しいんだから!
「津逸か、、、、、鈴、席を外してくれ。くれぐれも、聞き耳を立てるなよ。今回はいつも以上にデリケートな内容になりそうだ」
独華の偽名を聞いて愛華は苦笑いを浮かべつつ、爆笑するのも堪えてた。かと思うと、あからさまに笑いをこらえるようにしてうちを部屋から追い出した。
「まじ?ならうちは、主様と日本と遊んでくるね〜」
「祖国様はそんな年じゃないだろ」
冗談を言うと、姉さんからのツッコミが即座に来た。
可笑しくて、可笑しくて、ケタケタ笑いながらうちは部屋を後にした。
時はあっという間に経って、1973年4月。
独は自分の主達に会うんだ!って喜んでた。
「久しぶりに主達に会える」
独はらしくもなくニヤニヤしながらそんな事を呟く。
「楽しむのは良いことだが、怪我や事故には気おつけろよ」
玄関で靴を履く独に鞄を持って待機している姉さんが心配そうにそんな事を言う。
「愛は心配性だなあ。そんなだと、恋人すらできなくなっちまうぞ。いや、好きな奴に振り向いてもらえねぇか」
何て、独は軽口を叩いてる。
「黙れ」
照れ隠しみたいに言う姉さんはやっぱり可愛い。
「姉さんの好きな人、、、あっ!炎r ング」
「黙れ」
姉さんは利き手でうちの口を勢い良く塞ぎながら頬を薄紅色に染めた。
「は〜い。独、北海道の方に行くんでしょ?肌寒いかもしんないよ」
姉さんの手を軽く移動させてうちも独に質問をする。
「大丈夫。俺の正装の羽織って本気であったけぇから」
「なら良いよ」
それなら安心だな。
「「行ってらっしゃい」」
姉さんと声を揃えて独を見送る。
「いってきまーす」
姉さんとうちと独の三人で笑いながら何気ない言葉を交わす。この時間が本当に幸せだ。独は、ギザ歯を見せ付けるようにして笑いながら、大きく手を振りながら走って行った。
「ちなみに姉さん、恋してるのって、本当に彼奴なの?」
「黙れ。これは永遠片想いで、無いもの無のだから」
「勿体ないなぁ〜」
うちがそう呟いた時にはもう姉さんは部屋の奥に行ってた。