テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第7話:城のない王の注文
「“王に必要なのは城”──って、誰が決めた?」
その男は、城も冠も持たず、草地に寝転んでいた。
彼の名はレオ・アルク。
若く、20代半ばほどの外見。短く刈られた黒髪、風に揺れる薄緑の羽織。
鋭い目元は笑っておらず、でもその声は、どこか軽やかだった。
この男が──
**ある小国の“正式な王”**である。
商談が行われたのは、木で組まれた簡易デッキの上。
魔央建設の都市企画部、スエラ・ノマが契約端末を手に座っていた。
彼女は体格のいい女性で、丸めた栗色の髪、日焼けした肌。作業服の袖をまくっていて、腕には設計用の刻印がいくつも彫られていた。
「ご依頼は“城を持たない王が住まう街”とのことですが、
一応、確認させてください。防衛拠点ではなく、“憩いの場”としての都市ですか?」
「そう。俺はこの国の“形式上の王”で、王宮を出てもう7年になる。
でも……人々はまだ、“玉座のある場所に頭を下げる”。
ならいっそ、“玉座のない中心”を作ってほしい。
誰も跪かず、でも“集まれる場所”を──“王のいない王都”を、だ」
スエラは腕を組み、顎を引く。
「民の集う動線設計、噴水か広場構造で中央空間を……いえ、動的中心点にした方がよさそうですね。
固定された玉座は設けず、“集まったときにだけ中心になる”空間を」
「そう。それがいい。
俺は、誰かの“横”に立ちたいんだ。“上”じゃなくてな」
スエラが視線を送り、隣にいた青い球体が静かに前へ。
イネくんだ。
ふわりと浮かびながら、イネは空中に模様を描く。
浮かび上がったのは、“同心円”ではない。
集まることで形になる、崩れかけた円──中心は空白のままだ。
スエラが説明する。
「これは、“流動型中心広場”案です。
空間魔法と感圧建材によって、人々が集まった瞬間に“中心が発光”します。
誰もいなければただの広場。
誰かが立ち止まったときだけ、“そこが中心になる”」
「……いいね。それ、まるで……」
レオは小さく笑った。
「“人の立ち位置が、王を生む”みたいだ」
そして、彼は指先で契約印を描き、その場でサインした。
「建ててくれ。“玉座のない街”を」
工期は17日。
建材には“感応反応式石材”を使い、通行量や滞在時間に応じて光の動線が変わる仕組みを導入。
玉座の代わりに置かれたのは──ただの石のベンチだった。
街の中央に王はいない。
でも、誰もが「この場所は、自分のためにある」と思える空間になった。