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「あ、あの……!」
足元に落ちたそれを拾い上げて、思わず声をかけた。
「落ちましたよ」
振り返ったその人は、フードを深く被っていて顔はよく見えない。
「……ありがとうございます」
低くて、どこか掠れた声。
——でも。
(…この声)
胸がざわつく。
無意識に、その手を掴んでしまっていた。
「……っ」
「な、なんですか、離してください」
一歩引こうとする相手を、思わず引き止める。
「えっと…間違ってたらごめんなさいなんだけど」
「……青くん、だよね?」
一瞬の沈黙。
フードの奥で、わずかに息が詰まった気がした。
「っ……違い、ます」
少しだけ震えた声。
その否定に、胸がチクリと痛む。
「…そうですか、ごめんなさい」
ゆっくりと手を離す。
「もう行きますね」
背を向けて歩き出す。
(……今の、絶対)
振り返りかけて、でもやめた。
追いかけて、違ったら。
それが怖くて。
「……青くん、」
小さく名前だけ零して、その場を離れた。
青くんが失踪して、3日。
電話も、連絡も、何一つ返ってこない。
メンバー全員で探し回っても、手がかりすら見つからない。
「……どこ行ったの、まろ」
メンバー達も焦りと不安が、じわじわと積もっていく。
警察に届けを出すことも、本気で考え始めていた。
—そんなとき。
さっきのフードの人が、頭から離れなかった。
(……似てた)
いや、“似てた”なんてレベルじゃない。
声も、雰囲気も。
「……まさか、ね」
自分に言い聞かせるように呟いて、また探し始める。
でも、、
結局、何も見つからないまま。
気づけば、時計はもう19時を過ぎていた。
空も暗くなり始めている。
「今日は、一旦かえ……」
そう思って踵を返した、そのとき
「やめっ…だれッか!」
「っ!?」
反射的に声の方へ走る。
路地の奥。
もつれた足で近づくと
「警察呼びましたから、もう大丈夫ですよ」
その直後、
「くそっ……逃げるぞ」
足音が遠ざかっていく。
「……はぁ…っ」
残された静けさの中で、息を整える。
その瞬間
ぎゅっ
「……え?」
突然、肩に腕が回される。
「……っ、ぅ……ひっく……」
小さく震えながら、誰かがしがみついていた。
泣いてる
呼吸も乱れていて、必死に何かを堪えていみたいで
「……大丈夫ですか?」
そっと声をかける。
「……っ」
びくっと体が揺れた。
でも、離れない。
むしろ、さらに強く掴まれる。
「……」
この声。
「……青くん、だよね」
そっと名前を呼ぶ
その瞬間、
こくり、と小さく頷いた。
「……っ」
やっぱり。
見つけた。
やっと
「……大丈夫」
ゆっくりと、背中に手を回す。
「もう大丈夫だから」
その言葉に、青くんの力が一気に抜けた。
「……ぅ……」
崩れるように体重を預けてくる。
冷たい。
外にどれだけいたんだ…
「……帰ろ」
短くそう言って、支えるように肩を貸す。
青くんは何も言わず、ただ小さく頷いた。
―――――
家に着いて、しばらく。
暖房の効いた部屋なのに、
青くんはソファには座らず、壁の隅で小さくなっていた。
まるで、まだ外にいるみたいに。
「……青くん」
反応はある。でも、動かない。
少しだけ近づいて、しゃがみ込んだ
「……おいで」
できるだけ優しく、手を差し出した
「……ここ、あったかいよ」
怖がらせないように、ゆっくり。
青くんの視線が、ほんの少しだけ上がった。
不安で揺れてる目
それでも
「…みず……?」
かすれた声で、名前を呼ばれる。
「うん」
その一言だけで、十分だった。
「…こっち、おいで」
「……ここで、いい」
か細い声
普段の明るい彼からは想像もできないくらい弱々しい。
「寒いでしょ。せめてソファ座ろ?」
ゆっくり近づいて、無理やりじゃなくて、そっと手を差し出す
しばらく迷ったあと
青くんの指が、恐る恐る僕の手を掴んだ。
「……っ」
その手は、驚くほど冷たかった
「大丈夫、大丈夫だから」
小さく呟きながら、そのままソファまで連れていく。
座らせて、ブランケットをかけた瞬間
「…ぁっ、やだ……」
ぎゅっと、服を掴まれた。
「え……?」
離れようとした僕の服を、強く握って離さない。
「……いかないで」
震える声
さっきまで何も言わなかったのに、今は必死に縋りついてくる
「……いなく、ならないで…っ」
その言葉で、全部わかった気がした
怖かったんだ
ずっと一人で。
「……どこにも行かないよ」
そう言って、そっと隣に座る
青くんは少しだけ顔を上げて
初めて、ちゃんと目が合った。
赤く腫れた目
泣きすぎて、ぐしゃぐしゃで。
「……ほんとに?」
「ほんと」
間を空けずに答えると、青くんの力が少しだけ緩んだ。
「……っ、」
ぎゅっと、今度は腕ごと抱きつかれた。
「……こわかった」
ぽつり、と落ちた本音。
「……ごめん、探すの遅くなって」
「……ちが……俺が……逃げたから……」
「それでも、見つけたでしょ」
背中をゆっくり撫でる
すると、青くんの呼吸が少しずつ落ち着いていく。
「……なんで、わかったの」
小さく聞かれたその質問に、少しだけ笑う
「声」
「え……」
「どんなに隠しても、青くんの声だった」
沈黙
そのあと、青くんは俺の胸に顔を埋めたまま
「……ばか」
小さくそう呟いた
でもその声は、少しだけ安心したみたいに柔らかかった。
「……ね」
「ん…」
「……今日、一緒に寝ていい?」
一瞬だけ驚いていたけど、すぐに頷く。
「…ええよ 」
そう答えた瞬間、
青くんの指が、さっきよりもちゃんと僕を掴んだ