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花桜月華
236
#溺愛
星キラリ

6,099
竜馬を庇うように、少年は前に立ちはばかり、その犬に何かを怒鳴っている
やがて少年は、ピットブルには一歩も引かないという態度で犬を睨み、じりじりと間合いを詰めていき、やかましく吠えたてていた犬は徐々に大人しくなり、だんだん小さく不機嫌な唸り声をあげるだけになった
「人に襲い掛かるんじゃないっ!!クソ犬めがっ!!焼いて食うぞ!とっとと家に帰れ!!」
ピットブルはさっきとはうって変わって大人しくなり、こそこそと後ずさりし出した・・・さっきからずっと犬を睨みつけていた竜馬よりも少し身長の高い金髪の少年が、チラリと竜馬に振り返り、そしてさっきの木陰にいた少年に言った
「トム!!ハーバードさんの所へ行って、また犬が鎖を外して逃げてると言ってきてくれ」
「もう勝手に帰ったんじゃないか?お前に蹴られてこたえていたぞ」
Tシャツに短パンのトムと呼ばれた少年は、ビキニの少女と別れるのが嫌らしく、その場を動こうとしなかった
「早く行け!!ハーバードさんに門を開けっぱなしにするのはやめてくれと伝えろ!!」
二人が話しているあいだに、竜馬はお尻についた土を払ったり、破くようにカットしたジーンズからはみ出た膝小僧と、手の平から血がにじみ出てるのを、確認していた
話がついたのか、木陰にいたTシャツと半パンの少年は、ピットブルが帰って行った家に行き、ビキニの少女は木陰にそのままとどまった
金髪の少年は、男の目から見てもとてもハンサムな顔だった・・・どこかの映画スターだと言われても、あっさり信じただろう
スッキリと目頭から、尖った鼻筋・・・目つきもしっかりしている・・・顎もスキッと尖っていて・・・唇は薄い、しかし、じっと竜馬を見つめる深い・・・とても大きなロイヤルブルーの瞳は・・・金色のまつ毛に囲まれていて、何か隠しごとをしているように見える・・・でもそれが何かわからない
うっすらと微笑んでいるが、なんとなく油断が出来ない雰囲気にもさせられる・・・竜馬はショックがおさまると、急に死にたいほど恥ずかしさがこみ上げてきた、犬に吠えたてられて転ぶなんて・・・みっともない
「いいか、これからはアイツには絶対背を向けて走らないこと、噛んでくださいと言っているようなものだ!」
金髪の少年は、竜馬の膝小僧を見て、大したことはないと判断したようだ
「どんなに怖くてもだ、アイツの目を見て断固とした声で、やめろと言うんだ」
「・・・わかった・・・」
竜馬は恥ずかしくて・・・情けなくて、浮かんでくる涙を必死で見せないために、うつ向いて鼻を少しすすった
助けてもらったのに「ありがとう」すらも言えなかった・・・すると彼は竜馬のうつ向いている顔をよく見ようと、屈んで下から目線を合わせてきた
「Chinese?(中国人か?)」
竜馬は首を振った
「Japanese・・・(日本人だ)」
「girl?(女か?)」
ムッとして竜馬が言った
「I’m guy!!(僕は男だ!)」
「へー・・・」
しゃべると彼の瞳は完璧なロイヤルブルーではなく・・・黒味を帯びて陰になった、彼が話すにつれ、瞳のロイヤルブルーは明るくなったり暗くなったりして、竜馬は驚いて目が離せなくなった
さらに彼は竜馬の顔をマジマジと見て言う・・・まるで何かを確認しているようだった
「俺が・・・読んだ本の中で、雀が舌を切られて、犬が土を掘ったら花が咲いた話があったな・・・あれはたしか日本の話だ」
「ごっちゃになってるよ・・・「舌きり雀」と「花さかじいさん」じゃないかな?・・・あれは別々の話だよ」
「本当に?」
「うん・・・」
「あと青いロボットが出てくるアニメを見た」
「それはきっとドラえもんだね」
「どうしてお前は、黄色いシャツに、黒の半ズボンに、丸い眼鏡をかけていないんだ?」
「・・・日本人が、みんなのび太みたいだと思っているなら、考えを改めてもらわないと・・・」
ニッコリ少年は笑った、その笑顔はとても人なつこく、魅力的だった・・・そして竜馬に握手の手を差し伸べた
「俺はジャスティンだ!「ジェスティン・アレン」イリノイカレッジの1回生だ!」
「あ・・・僕は竜馬・・・松下竜馬、来年そこに入学するんだ・・・一足早くここの高校に来たんだ」
竜馬もそっとジャスティンの指先だけを握ったが、すぐにジャスティンにガシッと手を握られた
「リョウマ?リ・・・リョウ?」
発音しにくいのか、何度も金髪の少年は眉間にしわを寄せ、竜馬の名前を連呼している
「ジャスティン!」
木陰にいたビキニの女の子が甘ったるい声で少年を呼んだ
「家まで送ってよ!今日、親が旅行でいないんだ!」
ジャスティンは魅力的に微笑んで見せ、ビキニの女の子は甘えたような目つきでジャスティンを見つめた、でもジャスティンは竜馬の方を向いた時に困った顔を見せて、肩をすくめたので、竜馬は訳が分からず、目をパチクリさせた
「悪いな!ちょっとこのチビが困ってるんだ、竜馬、お前どこに行くの?」
チビ扱いされてちょっと竜馬はムッとしたが、すぐにジャスティンがあのビキニの女の子の誘いを断る口実に、自分が使われたんだと理解した、そして彼が彼女の家に行く機会に、飛びつかなった理由もわからなかった
「え・・・と・・・クラスの友達んち・・・ここの住所なんだ」
竜馬は少年にメモを見せた
「ああ、それならこっちだ、来いよ!」
そう言ってジャスティンはビキニの少女を残したまま、竜馬の前を歩き出した、彼の歩き方はかすかに気取った所があり、両手をブラックのジーンズの尻のポケットに入れて、リズミカルにステップを踏むように大股で歩いて行く
竜馬は彼の、その不良少年みたいなワルぶりが、なんとなくカッコ良く見えて、後ろをついていった
ジャスティンに案内してもらったクラスの友人宅は、インターホンを押しても誰もいなかった、無理もない、会う約束などしていなかったのだから・・・なんとなく竜馬がカルロスの家に居たくなくて、マウンテンバイクで当てもなく街をブラブラするのに飽きた頃・・・
友人の家の場所を教えてもらったのを思い出して、突然出向いて、少しでも時間つぶしが出来たらいいなと思っていただけだった
「案内してくれて・・・申し訳なかったんだけど、友達いなかった・・・」
「帰るのか?家どこだ?」
「サーリンジ通りの・・・「カルロス」ってヤツの所で、ホームステイしてるんだ」
その名前を聞いてジャスティンが弓状の綺麗な片眉をぐっと上げた
「カルロス?あのトレーラーハウスの大家か?」
「うん・・・カルロスを知ってるの?すっごいヤなヤツだよ」
「その通りだな」
ニヤリとジャスティンは笑った
「どうしてカルロスを知ってるの?他にカルロスの何を知ってる?教えてよ!」
竜馬がジャスティンにくいさがった
「アイツはトレーラーハウスの他にも、いくつか畑や工場を月貸しでやってるんだ、アイツの親がここらへんの地元の有権者でね、親が生きていた頃は良かったんだが、アイツは怠惰なヤツで、気まぐれで賃上げしたりさ、ここらへんの地元の人間はみんなあんなチンケなヤツ相手になんかしないからな、だから仕方がなく、スペイン人や、外国人相手に、賃貸しをしてるのさ」
「やっぱりそうなんだ・・・」
竜馬は考え込むように言った、カルロスはやはり竜馬が観察して評価している通りの人間だったと、これで確信が持てた
地元の人間に相手にしてもらえないから、自分のような英語もろくにしゃべれない外国人相手に、法外な家賃をせしめたり、無力な外国人の子供を預かって、その生活費をピンはねしていたのだった、そう考えたらやはり頭にきた
竜馬とジャスティンはしばらく考えこんだまま、マウンテンバイクが置いてある交差した道まで戻って来た、もうピットブルはいなかった、その時ジャスティンが竜馬に道に停めている、古くて青い、コンバーチブルのオープンカーを親指で指して言った
「俺アイス食いに行くけど、お前行く?ルート66に、サーティーワンが出来たんだ」
「・・・え?・・・」
竜馬は驚いた・・・じっと彼を見上げて、そのまま棒立ちになった
「なんだよ、ダメなのか?帰らないといけない?」
ジャスティンは訝し気に竜馬を見た、ダメなことなんてない・・・ただ自分を誘ってくれる人間なんて、この街にはいないと思っていたから、竜馬はびっくりして固まっていただけだった
「・・・行く・・・」
竜馬はニッコリ微笑んでジャスティンに言った、そして思った、自分はこの街に来て、今初めて笑ったと
。 .:・.。.
.。.:
この少年との出会いを
。 .:・.。. .。.:・
偶然と呼ぶにはあまりにも意味があり過ぎて
神様の仕事は完璧なのだと思わずにはいられずに
彼こそが竜馬の人生を大きく変えていく人物だなんて・・・
。 .:・.。. .。.:・
この頃はまだ二人とも想像もしていなかった・・・
。 .:・.。
. .。.:・
コメント
2件
私、ジャスティン大好き💕 いろんな面でカッコ良すぎる🤣
ああ、すごくいい出会いの場面でしたね。ジャスティン、すごく魅力的なキャラだなって思いました。犬に立ち向かう姿とか、竜馬をビキニの子からかばう口実に使うところとか、ちょっとワルっぽいけど優しい、そんな感じがいいなって。それに、竜馬が「初めて笑った」って思うところ、じんときました。まだ140話、これからどうなっていくのかすごく気になります。