弟は弱かった。
泣き虫で病気のことを知ったときだって大泣きして僕の服をビチョビチョに濡らした。苦しいことも辛いことも僕には分からないけれどただ、弟が聴こえる全ての音を大切にしたいと思った。聞こえなくなる前に沢山の話をしようと思った。きっとジミン君にも同じように泣いて、嘆いているのだと思っていた。でもジミン君はテヒョナを「強い」と言った。悲しい顔1つせず、と。無理してるんだとすぐ分かった。
昔から親がいなかったテヒョナは甘えることを忘れていた。僕だってテヒョナが心を開いてくれるのは何ヵ月もかかった。よく溜め込んじゃうやつで、泣いたら嫌われるって勘違いしてて。自分の弟ながらも馬鹿だよなぁとつくづく思う。
夜の空はまだ暗いけれど少し淡くなってきた。僕は夜が遅いことに気づいたけれど何故かこの場所を離れたくなかった。もうちょっと此処にいたかった。だから、気づいていないふりをしてジミン君に顔を向けた。
🐹「…ジミン君は?どうして、病院に?」
自分だって辛いながらも言ったのだ。ジミン君だって言う義務はある。僕だけ言うだなんて不公平だろう。なんて大人げないことを考えた自分が馬鹿らしく思えたが僕はどうしても知りたかった。ジミン君が何で苦しんでいるのか。知りたくてたまらなかった。初対面の人にこんな事を思うなんて気持ち悪いなぁと自分でも思う。
🐥「僕、ですか……僕は色覚障害らしくて……」
僕の顔を見つめるジミン君の顔は何とも言えない不思議な顔だった。悲しそうな、平気そうな、何かを諦めたみたいなそんな顔だった。色、か。それじゃあこの淡い青黒い夜空も暗い中でも鮮明に見える木の葉の緑も星もジミン君の目には黒と白にしか見えないんだ。
そう思うと僕は胸がキュゥと苦しくなるのを感じた。自分のことじゃないけど、僕の周りには沢山の障害を抱えている人がいるんだ。
そんな人達が集まる病院と言うこの場所で何もない健全に生きれる自分が居ちゃいけない気がした。何も知らないのに分からないのに寄り添うのはいけないと思った。
僕が分かりやすかったのか、それとも超能力者なのかジミン君は僕の心を見透かすように笑った。
🐥「ソクジンさんは…テヒョナの希望なんですね!」
僕の事を希望と名付けたジミン君を僕は凝視した。希望だなんて自分には価値が大きすぎると思った。僕は希望と言う名を抱えて歩けるほど立派ではなかった。それでもジミン君の真っ直ぐした瞳は本当に色が見えないのかと疑うほど曇り無かった。
🐥「テヒョナはソクジンさんの話をするときが一番幸せそうなんですよ!」
🐥「そして僕も……」
ソクジンさんと話しているときが一番幸せです_______
にかっと笑う少年はまるでおとぎ話の王子様のようで僕は寄り掛かりたくなった。自分の居場所を見つけた気がした。僕だって寄り添っていいんだって、そばに居ていいんだって。単純にそうに見えるけれどそれは僕が凄く求めていた言葉だった。
気付いたときには自分の頬には暖かい水滴が伝っていた。
どうして泣いたのかは自分でもわからない。自分の心の中の何かが急に吹っ切れたように無くなった。泣き虫だとか弱いとか弟に散々言っていたけど僕だってそこまで強くはないんだなと感じた。あーあ、兄失格だ。なんて、考えても涙が止まることは無かった。そんな僕にジミン君は優しく笑ってそっと抱き締めてくれた。胸がドッと高鳴って自分の頬が赤くなるのが嫌でも分かった。
離れたくないなんて我が儘な感情を圧し殺しながら僕は「ごめんねっ」とお得意の作り笑いを見せてジミン君から離れた。
ジミン君は少し悲しそうな顔をしながら抱き締めていた腕もスルリと離した。何分か沈黙が続いたけれどジミン君は僕からの言葉を待っているように思えた。僕のペースに合わせてくれているんだと気が付いた。そんなジミン君の想いに答えてあげるべく僕は口を開いた。
🐹「…空、綺麗だね…」
選んだ言葉は凄く相手が反応しにくい言葉で僕はしまった、と思った。それでもジミン君は「そうですね。」と空を見上げた。
🐹「…色が見えなくても、その…綺麗って分かるの…?」
失礼だと分かっていても止められたなかった自分の感情をそのまま伝えた。
ジミン君なら答えてくれると思ったから。
🐥「…はい。色だけが綺麗の採点基準じゃないですから…。」
🐥「…それに、本当の色がわからなくても自分で勝手にこんな色なんだろうなって想像してしまうんです…馬鹿らしいですよね、」
馬鹿らしいと口にしたジミン君に僕はそんなことないっと大きく否定した。それでもそのあとの言葉を僕は続けることが出来なかった。バンっと扉が開いて看護師さんが息を荒くしながら此方に近づいてきた。
「パクさん!!!こんな所に居たんですねって、あれ?貴方は、キムさんの連れの……ソクジンさん?」
🐹「あっ、はい!テヒョナがお世話になってますっ!」
「いえいえっ、キムさん、今のところは大丈夫っぽいです。ほら!パクさん!貴方も病人なんですから部屋に戻りますよ!」
看護師さんは「お兄さんも夜遅いですから早く戻ってくださいね!」と言い、ジミン君を引っ張って屋上から出ていってしまった。僕は悲しそうなジミン君の顔を思いだし目を潤ませた。パクジミン、か。僕は忘れる前に何度も何度も彼の名前を連呼し淡い夜空に手を合わせた。
🐹「あの子たちに幸せが訪れますように。」
風が囁くように吹く夜は明けることなく僕は眠気に襲われた。
肆話 泣虫の傷痕
コメント
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はい。好きです。ありがとう(?) 応援してます、( ˶˙º˙˶ )୨
もう、言葉選びが、、、、めっちゃ好きです!!そしてジミナがめっちゃいいこといいますね〜✨
じなの涙..(?)