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桜兎🌸🐇 @🥐
218
嗎伽(まか)
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#krptイラスト
まとちゃ_1126
8,479
「——そろそろ、閉館の時間、かな」志穂が壁の時計を見上げながら、震える声を絞り出した。針はすでに、最終下校の少し前を指している。
結局、雨は弱まるどころか、ますます勢いを増して窓を激しく叩いていた。
「あ、本当だ。時間、忘れちゃってた」
遥は机から顔を上げ、少し名残惜しそうに伸びをした。
二人は静かに片付けを始めた。志穂が新着図書をワゴンに収め、図書室の窓の鍵を閉めていく。鍵をかけるたび、ガタガタと風に揺れる窓の冷たさが指先に伝わってきた。
「遥ちゃん、傘……持ってないよね?」
入り口の鍵を閉めながら、志穂が尋ねる。遥は小さく苦笑いして、自分のスポーツバッグをぽんぽんと叩いた。
「うん、予報見てなくてさ。ロッカーにも置き傘なくて……。でも、駅まで走っちゃえばすぐだから大丈夫!」
「ダメだよ、そんなに濡れたら本当に風邪ひいちゃう」
志穂は自分のバッグから、折りたたみではない、しっかりとした長傘を取り出した。淡いネイビーの、何の変哲もない傘だ。
「私、傘あるから。……あの、駅まで、一緒に入っていく?」
心臓がまたうるさく主張を始める。断られたらどうしよう、という不安が頭をよぎったが、遥はぱっと目を輝かせた。
「いいの!? ありがとう、志穂! 助かる!」
校舎を出ると、目の前には真っ白な雨の世界が広がっていた。志穂がパッと傘を開き、その下に遥を招き入れる。
「いくよ?」
「うん!」
二人は一歩、雨の中へと踏み出した。
一本の傘に女子高校生が二人。どうしても、肩と肩が触れ合うほどの距離になる。
遥の体からは、まだ少し雨の冷たさと、走ってきた後の微かな熱気が入り混じって伝わってくる。そして、遥が動くたびに、タオルの残り香であるラベンダーの香りが、雨の匂いに混ざって鼻腔をくすぐった。
「……志穂、傘、もっとこっちに寄せていいよ。志穂の右肩、濡れてる」
遥が気づいて、志穂の手元をそっと覗き込んできた。
「えっ、大丈夫だよ。遥ちゃんこそ、部活のバッグが大きいんだから」
「私はジャージだから平気! ほら、もっと真ん中持って」
遥がごく自然に、志穂が持っている傘の柄に手を重ねた。
冷たい雨の空気の中で、遥の手のひらは驚くほど温かかった。
「あ……」
志穂の動きが止まる。重なった手から、遥の体温がダイレクトに伝わってくる。
遥はそれに気づいているのかいないのか、重ねた手に少し力を込めて、傘をぐっと志穂の方へと傾けた。
「これで半分こ、ね」
遥は隣で、いたずらっぽく、でもどこか愛おしそうに微笑んでいる。
水溜りを踏む二人の足音が、雨の音に綺麗に溶けていく。駅までの道のりはいつもなら徒歩十分。けれど、このままずっと、この傘の下の空間が続けばいいのにと、志穂は生まれて初めて「雨よ、止まないで」と心の中で強く願っていた。
遥から「今度の土曜日、一緒に行きたい場所があるの」と誘われる。行き先は、市内の大きな図書館で開催される古本市やブックカフェ。私服姿の遥にドキドキする志穂。外はやっぱり雨だけど、今度は図書室を飛び出して、お互いの「住む世界」に一歩踏み出していく。
コメント
1件
わぁ……すごくきれいな話だったね🥀💙 傘の下、肩が触れる距離。それだけで心臓うるさくなる気持ち、すごくわかるよ。特に、遥が自然に柄に手を重ねて「半分こ」って言うところ、ずるいなあ……優しすぎて、切ない😢 雨が止まないでって願うシーン、自分もそう思ったよ。全部の空気が、青春のぎこちなさとドキドキと、ちゃんと詰まってた🌧️🤍 次は古本市、私服の遥ちゃん……萌夢。さんの描く“二人の距離がちょっとずつ縮まる”感じ、これからも静かに読ませてください📖