「セイさん達の世界には、そんな場所があるのですか?」
俺の仮説にミランが疑問を投げかけてきた。
「ううん。ないよ。私達の世界の人が考えた、空想のお話だよ」
「そうだな。ここはさっき話した仮想空間にかなり近い場所なんじゃないかな?
ただ、仮想空間みたいといっても、アバターではなく肉体は本物だけど。
多分ここはダンジョンの意識…もしくは他のナニかの意識内だと思う。
俺達の世界の仮想空間でも、もちろんお腹は空かないし、食べても腹は膨れない。
そう言う設定はあったとしても、あくまでも設定だ。
もちろん怪我もしないし疲れもしない。
しかし、ここでは怪我はするし疲れる。
けど身体は汗もかかない。
ようは代謝がない。
おかしいと思ったんだ。靴擦れはしたのに、ガーゼに血がつかなかったから」
代謝をしないのに怪我をするという事は、その内、筋肉痛とかもやってくるかもな。。そして代謝がないから治ることもないと…おお怖っ!
「セイくん。難しく考えすぎだよ。ゲームみたいにそういうルールだと思った方が簡単だよ?」
…そうだな。
俺達はダンジョンの秘密を暴きに来たわけじゃないもんな。
「簡単に言うと、寝たり、食べたり、飲んだりしなくていいってことだ。ただ肉体的に疲れるし精神的にも疲れるから、適度に休憩だけ取って後はひたすら歩こう」
精神攻撃を重視したゲームだと思おう。
「そ、そのぉ。終わりはいつ来ますか?」
「エリー。二、三日後なのか一年後なのかわからん。そういう試練の場所だという認識だ」
「そ、そんな…」
「嫌なら引き返すぞ?」
「…いえ。みんながいるので頑張れます!」
ミランに至っては俺の意見が最重要だし、聖奈さんは地球の会社の事は気掛かりだが、最悪なくなってもいいと思っていそうだしな。
ライルは…一番やる気があるだろう。
死んだ元パーティメンバーの為にも、必ずAランクになるという気概を感じる。
俺?俺はもちろん行くぞ。
ここには守りたい人達と、気の許せる男友達もいるからな!
一人だと絶対無理!すぐに発狂する自信がある!
俺達は稀に1時間程の休憩を取る以外は、白道を延々と歩き続けた。
歩き初めて約一月後。
「あれが…ゴールか?」
これまでずっと白道しかなかったが、洞窟のような物が白道の先に見えた。
「遂に試練を突破したんだね!これでスーパーパワーに目覚めるんだよ!」
うん。それはないと思う。
だってひたすら歌を歌いながら歩いていただけじゃん。
ボカロ曲を歌える異世界人は、異世界広しと言えど二人だけだろう。
アイドル曲を振り付け込みで覚えさせようとしたのは、流石に止めた。
ただでさえ疲れるのに、さらに疲れさせてどうするんだよ……
「よし行くぞ」
結局見慣れた洞窟で間違いなかったので、躊躇なく中へと入ることが出来た。
覚悟を決める準備期間が無駄に一月もあったからな……
「何だ?ここは?」
俺の足元はタイル張りの床になっており、俺達は神殿のような場所にいた。
イメージし易いのは、パルテノン神殿かな?
かなり太い円柱の柱が幾つもあり、大きな建物を支えている。
白を基調としたデザインだけど、青や緑といった色もところどころに使われている。
「凄いね!こういうのだよ!私が求めていたのは!」
「綺麗です…」「何だか身体が軽くなった気がします」
「敵は何処だ?」
聖奈さんの気持ちは何となくわかる気がする。
ミランは圧倒されているな。
ライルは流石冒険者を長くしている。
エリーは…まさか……
『魔力視、魔力波』
使える。
「使えたの?」
「ああ。どうやら試練は終わったようだな」
勝手に試練にしてるけど、別にいいだろう。
俺達にとっては試練だったのだから。
「敵はいたか?」
「ああ。この奥にひとつだけ反応があった」
どうやら最後の試練かな?
さっきのが19階層ならば、ここは20階層になる。
つまり、ここを突破すればAランクになれる可能性があるんだ。
「一つか…もし、倒せたら」
「いいぞ。初めにAランクになるのはライルでいい。俺達は成れたらなりたいくらいだからな」
魔石が一つでは、一人しか認められないかもしれないからな。
それなら一番経験豊富で、実力が高いライルがなるのが正しいだろう。
「みんなもいいよな?」
「はい」「おやつください」「もちろん」
どさくさに紛れた奴がいたけど、仲間想いばかりのこのパーティにそんな人はいないはずだから、俺の気のせいだろう。
「悪いな」
「気にすんな。それよりも敵を倒すことに専念しよう。まずはミランとライルを先頭に相手がどんな奴か確認しよう」
スコープや双眼鏡で調べてもいいけど、視野が狭くなるからな。
視覚外からの攻撃に対応出来ないのは困る。
ライルとミランを先頭にして、敵に近付いていく。
「金属?のような…鎧でしょうか?」
ミランの説明に俺は双眼鏡でターゲットを確認した。
「鎧だな。奥には扉があるから、あそこが21階層の入り口なんだろうな」
「どれどれー。本当だね。あれが動くならホラー系の魔物か、ゴーレム系の魔物って感じだね」
ゴーレムか……
第二形態とかいって変形したらカッコいいな……
仲間に出来ないよね?
「ゴーレムなら動かなくなるまで破壊しないとダメだな。アイツらは腕を落としたり胸に穴を開けたくらいじゃ止まらないことが多い。
油断するなよ?」
どうやらこの世界のゴーレムは魔法式とかが組み込まれたタイプではなく、物質に魔物として命を吹き込まれた存在のようだ。
と、いう事は。ホントに意思の疎通が出来る魔剣とかありそうだな…ほちぃ。
「先ずは対物ライフルで倒せるか試そう。もし効果がなければ一時撤退だ。
倒せれなかったら、聖奈のRPGとエリーのフレアボムで時間稼ぎをしてくれ」
「セイさんのアイスブロックが一番威力がありますよね?」
「エリー。魔法の影響により、建物が崩壊して下敷きになってもいいなら使うが?」
「やめましょう」
そうなんだよな。
建物内だと使えないのが唯一の欠点だな。
後、氷として残るのもか。
「それじゃあ行くぞ」
俺は身体強化魔法を使って、対物ライフルを構えた。
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッ
全弾を撃ち尽くした。が、さらにリロードしてもう10発撃ち込んだ。
「どうだ?」
「敵の消滅を確認しました。他に敵影はありません」
ミランの言葉に安堵した。
流石にこの攻撃を耐えられる相手と戦う気は起きないからな。
「あーあ。折角のボス戦が…」
軍隊式トレーニングで脳筋になった聖奈さんはぼやくが、俺には関係ない!
楽して勝てればそれでいいんだ!
「おい!扉が開いていくぞ」
ライルの言葉に視線を向ければ、ゴーレムが守っていた扉が勝手に開いていた。
この扉も神殿と同じ素材で出来ていて、何か幾何学模様のような装飾が施されていた。
「洞窟のようです」
「他には何か見えるか?」
「灯りはありそうですが、ここよりは暗そうですね」
ここは全体が白いから眩しいくらいだ。むしろ洞窟の灯りは丁度いいかもな。
「どうする?」
ライルの短い質問に・・・
「帰る」
こちらも短く答えた。
「転移できるか試すぞ」
その言葉にみんなが近寄ってきた。
『テレポート』
誰もいない神殿に、俺の言葉が響いて消えていく。
「戻ってこれたね。多分、丁度一月経っているはずだから、お店が大変なことになってるよね?」
忘れてた……
「そうだな。どちらにしても外は明るいからまだ地球へは行けない。
聖奈とライルは王都に送るから、其々確認してきてくれ。
ミランとエリーはバーンさんの所と商人組合に行って、不足しているものとかの確認を頼む。
俺は水都だ」
「おう!」「うん!」「「はい!」」
久しぶりの外ということもあり、みんなのテンションが高い。
ゴーレムの魔石の納品は明日だな。
「ホントに不思議な所だったんだね」
あれから各街の状況を確認して戻ってきたところで、聖奈さんのセリフだ。
「そうだな。予想の一つではあったけど、自分が当事者になると信じられないな」
なんと、19階層で過ごした時間は無くなっていた!
靴擦れの傷は確かにあるのに、日付はダンジョンに向かった日のままだった。
もちろん各店舗も問題なかった。
「不思議ですね。でも、私からしたらエトランゼからここまで一瞬で移動できるセイさんの方が不思議ですけど」
「セイさんがおかしいのは、今に始まったことじゃないです!」
エリー。全然フォローになってないし、おやつ抜きだ。
ダンジョンが終わってからもなっ!
「まぁ悪い事じゃねーんだから、いいだろ?」
うん。乱暴に片付けたな。
俺も考えるのがめんどいからやめよう…今はベッドでゆっくり寝たい……
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
聖奈「セイくん何を待ってるの?」
エリー「そうです!早くゴーレムの魔石を拾って次に行くです!」
聖「いや、こういうボスは第二形態があるはずなんだ!もしくは合体変形だ!
頼む!もう少し待ってくれっ!」
ミラン&エリー「…」
聖奈「セイくん。新しいおもちゃ買ってあげるから、それで我慢しよ?」
聖「少年の夢が…」
〜〜〜〜〜〜
エリー「合体変形ってなんです?」
ミラン「第二形態とは?」
聖奈「地球には・・・・・ってことなの」
エリー&ミラン「!!」
〜〜〜〜〜〜
聖「…何してんだ?」
エリー&ミラン「「超合体ミラエリーです!!」」
そこにはエリーを肩車したミランがいた。
聖「…うん。なんか…気をつかわせてごめん…」
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