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セレスティア魔法学園の教室は、
朝の光に照らされて静かに輝いていた。
石造りの壁に刻まれた古い魔法陣が青白く揺らめき、学園全体が魔法の息吹に満ちているようだった。
生徒たちは魔法の練習をしたり、友達と談笑したりしていたが、
今日は落ち着かない空気が漂っていた。
授業開始の時刻を過ぎても、フロウナ先生が姿を見せなかったのだ。
今日のテーマは「杖の応用と結界シールの紹介」。
彼女の遅刻は、生徒たちをざわつかせた。
「ね、レクト、先生遅いね。なんか……変じゃない?」
ヴェルが隣の席から囁いた。
茶髪のツインテールが揺れ、彼女の目は好奇心と不安が混じる。
レクトは少し俯いて、腰に差したバナナの杖をそっと握った。
「うん、いつも時間通りの先生なのに……何かあったのかな。」
彼の声は控えめで、心配が滲んでいた。
黄緑髪に穏やかな目つきのレクトは、目立つタイプではないが、真っ直ぐな心を持っている。
フルーツ魔法への戸惑いを抱えつつ、家族との絆を取り戻すために学園で頑張っている。
教室の空気が重くなり始めた頃、カイザが立ち上がった。
彼は言うなれば、レクトのライバルだ。
いつもフルーツ魔法をからかい、今日も意地悪な笑みを浮かべた。
「ふん、フロウナ先生が来ないなら、誰かが様子を見に行けばいい。
レクト、ヴェル、お前たちで行けよ。
どうせそのバナナの杖じゃ、何もできないだろうけど。」
教室がクスクスと笑いに包まれた。
「カイザ……っ!」
レクトは小さく呟き、顔を赤らめた。
ヴェルが「もう、放っとこう!急いで先生探せばいいから……!」と彼の肩を叩き、二人は教室を出た。
廊下を進みながら、
レクトはバナナの杖を手に持った。
フロウナ先生から渡されたこの杖は、見た目はふざけているが、彼の魔法の核となったのだ。
「先生、どこにいるんだろう……」
杖を握りながら呟くと、突然、先端がピカッと光り、特定の方向を指した。
「うわっ、な、なに!?」
レクトは目を丸くし、杖をまじまじと見つめた。彼の意志で動くはずなのに、勝手に光るなんて初めてだった。
「レクト、杖が道を示してる……!こっち行こうよ!」
ヴェルが興奮気味に手を引っ張り、レクトは戸惑いながら走り出した。
「なんで急に……? 俺の魔法、こんなことできたっけ?」
彼は首を振ったが、杖の光に導かれるまま進んだ。
二人がたどり着いたのは、
学園の裏庭に近い古い塔だった。
苔むした石の階段が薄暗い入口へと続き、普段は誰も近づかない場所だ。
杖はさらに強く光り、震えていた。
「ここ、ちょっと怖いね……」
ヴェルが小さく呟いた。レクトは杖を握り直し、落ち着いた声で言った。
「うん、でも……先生がここにいるかもしれない。行こう。」
塔の奥に進むと、衝撃的な光景が広がっていた。フロウナ先生が鎖で縛られ、
手を固定されていた。
彼女の顔は青ざめ、普段の威厳は消えていた。
「先生!」
レクトが叫んだ瞬間、背後から冷たい笑い声が響いた。
「ふふ、随分と早く見つけたものね、レクト。」
振り返ると、エリザが立っていた。
彼女の目は冷たく、息子を見下すような光を帯びている。
風が彼女の周囲で不自然に渦巻き、
嵐の前触れを感じさせた。
「母さん……なんで? 先生をどうしてこんな目に!」
レクトの声は震え、怒りと悲しみが混じっていた。
「黙りなさい、レクト。この学園にいる資格のない子が、魔法を学ぼうだなんて……笑いものよ。」
エリザの言葉は鋭く、深い憎しみに満ちていた。彼女の手が軽く動くと、突風が塔の内部を吹き荒れ、レクトとヴェルを押し戻した。
エリザはフロウナ先生を解放せず、魔法でレクトとヴェルを教室へと連れ戻した。
教室に戻ると、彼女は教壇に立ち、不気味な笑みを浮かべた。
彼女の周囲には微かな風が渦巻き、まるで小さな嵐が彼女を守っているようだった。
「さて、皆さん。今日の授業は私が担当します。フロウナ先生は……少しお休みよ。」
その声は甘く、しかし有無を言わさぬ威圧感があった。
エリザが始めたのは「基礎実力テスト」。
魔法の基礎知識や実技を試すものだが、彼女のルールは異様だった。
教室が凍りついた。ヴェルが抗議した。
「そんな急に退学なんて、理解できませんよ?!」
エリザは冷たく一笑し、指を鳴らした。突風が教室を吹き抜け、ヴェルの髪を乱した。
「きゃあ……っ」
「文句があるなら、テストで結果を出せばいいだけよ。さあ、始めなさい。」
レクトは胸の内で不安を感じながら、テストに臨んだ。
問題は異常に難しく、まるで彼を落とすために作られたようだった。
案の定
結果は散々だった。エリザは満足げに微笑み、レクトの答案を掲げた。
「レクト、君は赤点ね。残念だけど、退学よ。」
教室中にどよめきが広がった。
ヴェルが「そんなのずるい!」と叫び、
カイザとビータでさえ眉をひそめた。
彼らはレクトをからかうが、こんな不公平なやり方には納得いかなかった。
「待って、母さん!」
レクトは立ち上がり、
エリザをまっすぐに見つめた。
「退学なんて納得できない。ちゃんと話したい……なんで俺が魔法を学ぶのがダメなんだ?」
彼の声は控えめだが、強い意志が込められていた。エリザの顔が歪んだ。
「今さら何を話し合うっていうのよ! あんたみたいな出来損ないが、サンダリオスの名を汚すなんて許せない!」
彼女の手が振り上げられ、教室の天井が暗転した。
轟音と共に雷雲が現れ、稲妻が走り、強烈な突風が吹き荒れた。
エリザの嵐魔法が、教室を一瞬で嵐の中心に変えた。
レクトは咄嗟にバナナの杖を構え、マンゴーの形をした光の盾を展開して防いだが、風圧で後ろに倒れた。
「レクト!」
ヴェルが叫び、助けようとしたが、エリザの突風が彼女を壁に押し付けた。
「邪魔しないでちょうだい。これは親子間の問題なのよ。」
エリザの声は、嵐の咆哮に混じって不気味に響いた。
エリザの目的は明らかだった。レクトを学園の敷地から追い出し、「結界シール」で二度と入れないようにする。
結界シールは、一度貼られると強力な魔法でも破れない封印を生む道具だ。
ただ、魔力はそれなりに要する。
「母さん、なんでそこまで……俺、ただ家族とまた一緒にいたいだけなのに!」
レクトは叫び、杖を握り直した。杖が放つ光は弱々しかったが、彼の純粋な想いが込められているかのように、嵐の中でも輝きを失わなかった。
戦いはエリザの圧倒的な優勢で始まった。
彼女の嵐魔法は、雷雲から稲妻を落とし、突風で教室の机を吹き飛ばし、雨を降らせて視界を奪った。
レクトはバナナの杖を振り、パイナップルの形をした光の爆発で雷を相殺したが、すぐに風圧で押し負けた。
「そのふざけた魔法で私に勝てると思ってるの?」
エリザが嘲笑し、手を振ると、巨大な竜巻がレクトを飲み込もうとした。
「ふざけてるなんて思ってない……この魔法は、俺の魔法なんだ!」
レクトは静かに、しかし力強く答えた。
彼は杖を地面に突き刺した。
地面からバナナの形をした光の柱が立ち上がり、竜巻を一時的に押し返した。
「なっ……!?」
エリザが驚愕の表情を浮かべた。
その隙に、レクトはエリザに近づき、結界シールを奪おうとした。だが、エリザはすぐに冷静さを取り戻し、雷鳴と共に稲妻を放ち、レクトを吹き飛ばした。
「無駄よ、レクト。あなたはここにはいられない。」
エリザは結界シールを掲げ、呪文を唱え始めた。学園の敷地全体が光に包まれ、嵐の力がレクトを外へと押し出す力を強めた。
その時、バナナの杖が再びピカッと光った。
「また……!? なんで、こんな時に!」
レクトは驚き、杖を見つめた。光はエリザの嵐と共鳴するように脈動し、まるで彼を導くように震えた。
「これは……サンダリオスの血か……..」
エリザが呟き、初めて動揺を見せた。彼女は杖を見つめ、声を低くした。
「その杖……フロウナがあんたに渡したのね。サンダリオスの血が共鳴してる……でも、そんなものに意味はない!」
エリザの言葉に、レクトは目を瞠った。
「サンダリオスの血? どういうこと……!?」
だが、エリザは答えず、嵐をさらに強めた。
雷雲が教室を覆い、風と雨がレクトを押し潰そうとした。
レクトは杖の光に導かれるまま、
フルーツの魔法を次々と繰り出した。
キウイの光弾が雷を散らし、ドラゴンフルーツの刃が突風を切り裂いた。
どれもエリザの嵐には及ばなかったが、彼女の動きを少しずつ乱した。
「なぜ、その杖があんたを導くか、教えてあげるわ。」
エリザは息を切らし、杖を指差した。
嵐が一瞬弱まり、彼女の声が響いた。
「サンダリオスの血は、マジカル共鳴を生む。
あんたの血が、私と同じだから……杖が反応するの。
でも、そんな力、関係ない!」
彼女の声には、怒りとどこか悲しみが混じっていた。
レクトは胸が締め付けられる思いだった。
「母さんの魔法と……俺の血が? じゃあ、俺の魔法も、ちゃんとサンダリオスの一部なんだよ!」
彼は杖を高く掲げた。
杖からまばゆい光が放たれ、エリザの嵐と正面からぶつかり合った。
バナナの形をした光の波が、雷雲を切り裂き、突風を押し返した。
「母さん、俺、家族とまた笑い合いたい! そのために、俺はこの魔法を信じるよ!」
レクトの叫びに、ヴェルが叫んだ。
「レクト、頑張って! 私も信じてるよ!」
カイザも小さく呟いた。
「ふん……バナナのくせに、なかなかやるじゃん。」
だが、エリザはまだ諦めていなかった。
彼女は結界シールを握り、嵐をさらに強めた。雷雲が膨れ上がり、教室の壁が軋むほどの風が吹き荒れた。
「認めない……あんたの魔法なんて、認めない!」
エリザの叫びと共に、巨大な雷撃がレクトを襲った。レクトはバナナの杖を振り、フルーツの光で防ごうとしたが、嵐の力は圧倒的だった。光と雷が激突し、教室が白い光に包まれた。
光が収まる瞬間、レクトは杖を握り締め、
エリザをまっすぐに見つめていた。
エリザもまた、嵐をまとって立ち尽くす。
二人の戦いはまだ終わらない。
結界シールは彼女の手の中にあり、フロウナ先生はまだ解放されていない。
レクトのフルーツ魔法とエリザの嵐魔法が、
再び
衝突する。
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