テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第20話「代償の揺らぎ」
夜の病室。
規則的な心電図モニターの音と、時折聞こえるナースステーションの気配だけが、静まり返った空間に漂っていた。
布団に潜り込んだ俺は、頭の奥から鈍い痛みが広がるのを感じていた。
――昨日透析を飛ばした影響が、確実に出てきている。
足のむくみは朝よりひどくなっていて、まるで自分の足じゃないみたいにパンパンだ。胸も重苦しくて、息をするたびに胸骨の裏を誰かが押しつぶしているようだった。
「……はぁ、っ……」
小さな呼吸音が自分でも情けないくらい苦しい。
ベッド越しに見る翔ちゃんは、透析を終えて少し落ち着いたように眠っている。
—透析、譲ってよかったぁ
そう思ったのも束の間、深夜、とうとう吐き気に襲われた。
「っ……うぅ……」
洗面器に吐き出したのは、胃の奥からせり上がる苦い液体。その中に赤い筋が混ざっているのを見て、背筋が凍る。
――吐血。
ベッド脇で物音を聞きつけた翔ちゃんが、すぐに飛び起きた。
「かもめん!? おい、どないしたんや!」
「だ……だいじょぶ……ちょっと……気持ち悪いだけ……」
苦笑いを浮かべようとするが、唇の端から血が滲んでいるのがバレバレだった。
翔ちゃんは顔を真っ赤にして叫んだ。
「どこが大丈夫やねん!! 血ぃ吐いとるやないか! アホか!!」
俺は弱々しく手を振った。
「しーっ……看護師さんにバレちゃうでしょ……俺は平気だから……」
「平気やないっちゅうねん!!」
翔ちゃんの声が震えているのが、余計に胸に刺さった。
俺が透析を譲ったことを翔はずっと責めていたけど、それでも今日一日を過ごす姿を見て、翔ちゃんが少し元気を取り戻したのは事実だった。だから後悔はしていない。
けれど翔ちゃんは俺の胸ぐらを掴む勢いで睨みつけた。
「なんでや……なんでそこまで無茶すんねん! お前が死んだら、誰が俺の横におんねん!」
声が詰まり、最後は泣き声になっていた。
俺は視線を逸らして、小さく呟いた。
「……大好きだから。翔ちゃんに生きて欲しかった。それだけだよ」
翔ちゃんの目から涙が一滴落ちて、俺の手の甲を濡らした。
「アホか……そんな理由で、命削んなや……」
呼吸が浅くなり、意識がふわりと遠のく。
そのとき、翔ちゃんが俺の酸素マスクを掴んで顔に押し当ててくれた。
「もう喋んな! ええから息せぇ! 頼むから……俺を置いて行かんといてくれ……」
___やっぱり、翔ちゃんは優しい
なあ。
震える翔ちゃんの声に、俺の瞼が熱くなる。
ああ、本当は俺も置いていきたくなんかない。むしろ、翔ちゃんより先に消えることだけは絶対に嫌だった。
酸素マスク越しに荒い呼吸を繰り返しながら、俺は涙に濡れた声で答えた。
「……ごめん……でも……ありがとう」
翔ちゃんは俺の手をぎゅっと握りしめたまま、必死にナースコールを押した。
深夜の病室に鳴り響く電子音。
その音が、俺たちの必死な叫びを代弁しているようだった。
ふぅぅぅぅ!!!!
神回ぃぃぃ!!!
体調不良小説とか病院パロ大好きな人、興奮しましたよね?ね?
そらちゃんのライブ楽しかったなぁ