「てんちょ……いつ死ぬのか……あいつ……」
幾ヶ瀬のヤツ、虚ろな顔して自店の店長を呪う言葉を発していやがる。
さすがにカワイソウに思ったアタシは、ピチピチ女子のパワーで癒してやろうと、きゅるんとヤツを見上げてやった。
「あのぅ、たけのこの里、食べますかぁ?」
「ウザッ。キモッ」
小さな声はしっかり聞こえた。
チクショウ。分かっちゃいたけど、あらためて傷つくな。直球じゃねぇか。
まぁ、しょうがねぇか。アタシの目も血走ってるもんな。
ヘンタイメガネ、金に汚い性格だからアタシが差し出した「たけのこの里」だけはしっかり奪って自室に向かう。
転べばいいんだ、骨折しやがれと背中に向けて念を放っていたら、ヤツめ、突然立ち止まった。
ヤバイ、心の声が漏れていたか?
「い、いえ、スミマセン。骨折は大袈裟です。ウソです」
幾ヶ瀬のヤツ、プルプルと肩を震わせているじゃないか。
ああ、面倒臭ぇヤツだなぁ。
しょうがない。たけのこの里をもう3つやって、機嫌を直してもらうとするか──なんて考えたアタシの前で、奴は突然「ウォォーー!」と叫んだ。
それは、こじらせた中二病が能力に目覚めたと思いこんだ瞬間のような壮絶な叫びだった。
そして、奴はこう言い放ったのだ。
「俺は仕事を辞める! そして、YouTuberになる!」
イヤだ、何その宣言!?
「ちょっ、ちょっと落ち着きましょうよ。たしかにYouTuberは、子どもが将来就きたい職業ランキングで近年上位に浮上してきた注目の職種ですよ。でも、誰もが食べていけるわけじゃないし、人気商売だから流行とオリジナリティの両方に気を遣って配信の計画を立てなくちゃいけないから大変だって言いますよ。自由だからこそコンプライアンスにも配慮する必要があって、簡単に手を出すような世界じゃないって話ですよ」
ふぅ。アタシとしたことが、理路整然とヘンタイメガネを嗜めてしまったぜ。
実はアタシもバイトがしんどいとき、YouTuberを夢見たよ。
「YouTuber_なり方」ってググったらこんなふうに書いてあって、たちまち心折れたんだけどな。
しかし、ヘンタイメガネは意外と頑固だった。
「なる! YouTuberになるったらなる!」
コーポ中崎の狭い廊下で、夕日の残照を浴びながら何故だかアタシに向かって、ヤツはYouTuberデビューを宣言した。