テラーノベル
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高校からの友人からゼミ終わりに《奢るから飯行こう》と誘われたのは、カジュアルながら雰囲気のいいイタリアンレストラン。注文後も何だか落ち着かずそわそわと周りを見回し、向かい側に座ってスマホを眺めるソイツに声をかけた。
「その…ほんまにええの?こんな良さそうなとこでしょっぴーが奢るって…何かええ事あったん?」
「別に無いけど。たまにはいいんじゃない?…お前何か今日すげぇ疲れてた感じだったからさ。康二こそ嫌な事があったんじゃないかって思って誘った。それだけ。」
そう話す途中でこちらを一瞥しただけの反応に、思わず何かあるのではと勘繰る。
「えぇ…後が怖いねんけどぉ…。」
「っはは!何でだよ、マジで何もねーよ!」
気持ちいいほどの快活な笑い声を一発かまして漸くスマホを置いたと思えば、ふと彼の目線が俺の右肩越しへと移り、期待を込めた笑みを浮かべる。料理来たんかな?そう彼の目線を辿るように振り返れば、
「えっ、──舘?」
「久しぶり、康二。翔太も、いらっしゃい。」
料理を左腕に並べ、柔らかい微笑を浮かべながら此方へと歩み寄る調理服姿の舘が居た。
彼も高校からの友人だが、卒業後は同じ大学へ進んだ俺としょっぴーとは離れ、調理の専門学校へと進学していたのだ。そこからずっと疎遠になっていたこともあり、今こうして約3年振りの再会となった。
「先にお持ちしましたのはカプレーゼ、と…海鮮と春野菜のフリット、アボカドとサーモンのブルスケッタでございます。メインはもう少々お時間を頂戴しますので、こちらをご賞味いただきながら今しばらくお待ちください。」
「いや、待って待って?まず待つのはお前やって舘。」
《失礼いたします。》と、しっかり最初から最後までテンプレートをなぞった挨拶と共に立ち去ろうとする舘を声は抑えめに呼び止めると、計算通りと言わんばかりに彼が顔を逸らして軽く噴き出し、その足を止めた。
その一連の流れに満足したように豪快に笑うしょっぴーに対して《何?どゆこと?》と弁明を求めれば、涙を拭く仕草をして問いに応じる。
「専門卒業して、去年から働いてるんだって。普段は調理場だけど、予約する時に涼太にもお店の人にも急遽ワガママ聞いてもらったんだよ。…ビックリした?」
「いや…かなり。えぇ?ほんまに?就職おめでとう!」
未だ驚きが勝っている中で続けた祝福の言葉に、彼は心底嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ふふ、ありがと。上司が良い人で本当良かったよ。」
「涼太が今日はたまたま仕込みの早出だったから、この後はもう上がりで賄いあるみたいでさ。折角だし一緒に食べようってなったわけ。」
「うん。もう少しで頼んだメインも一緒にできるみたいだし、着替えてから持ってくるよ。とりあえず、先に食べてて?」
「お、おん…。」
《ごゆっくりどうぞ。》と一礼をして最後だけはあくまで店員を貫いて立ち去る彼のすっと伸びた背中を暫く見つめていると、反対側から笑いを堪える声が聴こえた。その瞬間に俺は身を乗り出す勢いでその声の主へと振り返る。
「しょっぴー、何でずっと黙ってたん?」
「別に黙ってたわけじゃねーし。飲食で就職したってことは知ってたけど、この店だって聞いたのはお前を誘うちょっと前だよ。」
その言葉に舘の性格を当て嵌め、小さく息を漏らしながら納得をすると、勢いで傾いた椅子を引き寄せて座り直した。
「…舘、こっちから聞かん限り自分のこと話さへんもんな。」
「それなー、でもまあ…それがアイツだし、『らしさ』でもあるんだよ。」
「さすが産まれてからの幼馴染、その言葉の重みが全然ちゃうわぁ…。」
「ふはっ、まぁね?…とりあえず、折角持ってきてくれたんだし、冷めないうちに食っちゃお。待ってたら涼太が怒る。」
「せやな。取り分けるで?」
まずはしょっぴー分の皿を手に取り、取り分けに差しかかる中で、彼はその様子をじっと見ながらそれぞれのカトラリーの用意を始めた。…そんな見んなや。ちゃんと均等になるように分けてるて。
注文の品と賄いを手にして、2人が待つ席へと行けば《これめっちゃ美味いな?》だの《うわ、うまっ!》だの嬉しい声が飛んできて、先程の再会サプライズからずっと口角を上げっぱなしにさせてくれる。
「お待たせ。…美味しい?」
「めっちゃ美味い!これ舘が作ったん?」
「そうだよ。──えっと、康二がボロネーゼで、翔太がラザニアだったよね?…お待たせいたしました。こちらが、」
私服ながらに店員を演じると、《いやもうええて。》と康二の鋭いツッコミに遮られる。そして再び上がる翔太の笑い声。期待通り。 3年越しでも変わらない2人だ。
…ただ、康二はちょっと痩せたかな。翔太から聞いてたけど、こうして話していて彼と目が離れたふとした時、疲労感ある顔がチラついている。
──何か、隠してる?
「でもほんま美味いわ。高校の時作ってもらったのも全部美味かったけど!今度このフリットの衣の分量教えて?めっちゃサクサクやん。」
疑念が湧いた本人にそう声を掛けられた途端、俺は下がりつつあった口角を再びきゅっと引き上げ直した。
「その内こっそりね。翔太は?どう?」
「うん、美味い。」
「んふふ、じゃあ俺もお邪魔しま…どっちに座ったらいい?」
「「………、んっ??」」
……食に貪欲なのは俺としては嬉しいけどさ、夢中になり過ぎじゃない?
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