「ごめん、ほんと、配慮が足りなかった……謝る。ごめん」
「別に、どーでもいいことだろうしな」
「どーでもよくない。少なくとも、アンタにとってはどうでもよくないことでしょ。だって、これを言うために一週間以上考えたというか、準備してきたんでしょ」
あの告白は、嘘じゃない。作り物じゃない。彼がいったように、心の準備が必要だったし、ただメリットや、ただの作戦のためだけじゃない本気の告白だったと。それを私は、驚きと理解力のなさで、しっかり受け止めることが出来ていなかった。これだって、もっと早く気づいていれば、違う受け止め方があっただろうに。本当に、私は、アルベドを利用してばかりで、何も彼に返せていない。はっきり伝えることがもっと早くに出来ていれば違ったのかも知れないけれど。
だから、今こうして、アルベドに頼りっきりで、依存している形になっているのだ。頼れるのが彼だけだと。それをアルベドだから受け止めてくれているだけであって。
「ごめん」
「だからいいって。いきなり、俺も出て行っちまったわけだしな」
「……」
「んだよ」
「別に……ちょっと思い出したことがあって」
それだけじゃない。彼は、私が戻ってくるかも分からないのに、その記憶を失わせやるものかと、自害までした。それが功を奏して、私が戻ってきたこの偽物世界で再会することが出来て。彼は、死という苦しみまで抱えて、叶わない夢を見続けなければならないのだと。私自身、自分が怖くて、酷い女に見えてきて仕方がない。
人を狂わせている、そんな自分が嫌で嫌で仕方がない。なんでこんな風になったのか……とか、全部言い訳に聞えてしまうから、考えるのをやめた。やめちゃだめなんだろうけれど、今は話を戻さないといけない。
「というか、いつから計画を立ててたの?」
「あ?ああ、世界がまき戻って、お前を見つけたときから。本当なら、公爵家の養子になるのが手っ取り早かったんだろうが、それだと、今の作戦は使えねえ。お前を、フィーバス卿の元におくるのは不安があったしな。それに、成功するかも分からねえ賭けに賭けるほど俺はギャンブラーでもないし」
「成功したのは、私の運がよかった……お父様が認めてくれたからってこと?」
「そーいうことだな。あーよかった、よかった」
「そんな、他人事みたいに」
前の世界では絶対にできない作戦だっただろう。だって、前の世界でフィーバス卿に会いに行った理由は、ただ協力を仰ぐためだった。公爵家とフィーバス卿の間で何かを結ぶわけでもなかった。バラバラだっただろう。
だから、今回の世界では、公爵家の養子になるよりも、フィーバス卿の養子になって、アルベドと婚約関係になるのがベストだったと。
そう思うと、何だかアルベドの作戦通りというか、転がされているというか、なんとも言えない気持ちになる。アルベドがわざわざ言わなかったところを見ると、私を利用している、ということをバレたくなかったのだろう。アルベドらしい。
まあ、それは置いておいて、フィーバス卿に認めて貰えさえすれば、正式に婚約者になって、フィーバス卿と公爵家、光魔法と闇魔法が歴史上で初めて婚約関係になる事になる。光魔法と闇魔法の架け橋、その言葉通りになると。
アルベドの作戦通り、そして、願ったり叶ったりの展開になるだろう。まあ、メリットがあるので、アルベドとしてはもうまんたいかも知れないけれど。
「まあ、いい方は悪ぃが、共犯者っつうことだな」
「共犯者ね……」
「肩入れしすぎるなよ。お前と俺は、元の世界に戻すために、周りの人間を利用しているんだ。どうせ、記憶は全て消える。また、辛い記憶だけ残るのはいやだろ?」
と、アルベドは私に釘を刺してくる。本当に見透かされて医療だった。
フィーバス卿や、アウローラ……ルチェなんかに助けられ、楽しい生活を送っている。でも、これは偽りの世界での新たな人脈であって、元の世界に戻れば、なくなるということ。分かっているはずなのに、今を大切にしたいという気持ちから、だんだんその事を忘れそうになるのだ。辛い記憶だけ残るのは、そう、私だけなのに。
私は、グッと拳を握り込んで、分かった、と分かっていない言葉を返して、アルベドの方を見た。大切にすべき人は今目の前にいるんだから、彼を大切にしなければならない。
私の為に、一度死んで、彼だって、これまで築いてきたもの全てが決壊しても、私を支えてくれているんだから。その事に感謝しないといけない。それだけは、忘れちゃいけないし、それだけは、残り続ける事実だから。
「ありがとう、アルベド」
「んだよ、改まって。謝罪よりかは、気分はいいけどよ」
耳が赤くなっていて、照れているんだなと言うことが分かった。
でも、彼は、私がアルベドが死んでここに戻ってきたことを知らないから、この感謝の言葉をきっと理解していない。それは、私も墓場まで持っていこうと思う。彼はそこに気づかれたくないだろうから。
「ありがとう、アルベド。これからもよろしく」
「……ああ、よろしくな。ステラ」
共犯者であっても、守りたい秘密はあるだろう。だからこそ、そこに配慮して、私達は今後作戦を立てていかないといけない。目を瞑るところは瞑るとして。
「ところで、この計画のことなんだけど、もしかして、見計らった……?」
「ああ、皇宮で行われるパーティーのことか」
と、アルベドは、当たり前だろといわんばかりに私を見てくる。そんな風に見られても、前の世界ではなかったことなので、すぐに受け入れることは出来なかった。それを、アルベドはすぐに受け入れて、察知して、新たに作戦を練っていたのだと思うと、恐ろしい。
とはいえ、婚約者同士になれば、パーティーに参加しても何の違和感ももたれないだろう。
(これで、リースに会える)
「……」
「何?アルベド」
「いーや別に」
「てか、アンタの所に招待状届いたの?」
「あ?届いてるに決まってるだろ……と、言いたいところだが、今回は聖女様直々のお呼び出しだからな。俺の事なんだと思ってるんだか」
アルベドは、いやそうにいうと、首を横に振った。
アルベドを呼ぶのは予想できていた。アルベドが何で呼ばれたか、というのは本人は気付くことはないだろうが、攻略キャラだからだろう。エトワール・ヴィアラッテアが、その事について何処まで知っているか分からない。この世界が、乙女ゲームであることを知っているのかも。まあ、何にしてもアルベドに招待状が来ているのなら、私もいけると言うことだろう。でも、アルベドをよんだと言うことは、きっとアルベドはエトワール・ヴィアラッテアと話すことになる。心配しているわけではないが、どんな手を使ってくるか分からない。
そもそも、前の世界とは違うイレギュラーが起こりすぎている今、何が起ってもおかしくないと。
「それで、お前はパーティーに行くだろ?」
「えっ、うん。勿論。パートナーを探していたところだったから。ああ、私達の所には、招待状は来ていなくて、招待状が来ている人に連れて行って貰おうかなあって思ってただけで。ブライトはダメだったし、べ……ラアル・ギフトも」
「ラアル・ギフト?」
「いや、あ、うん。ちょっと、あう機会があって」
口を滑らせたな、と自分でも思った。アルベドはすごい凝相で見てきた。そりゃあ、ヘウンデウン教の幹部だし、アルベドも嫌いな男だといっていたから、そんな男とどこでいつ会ったのだと言われても仕方がない。私が目線を逸らせば、アルベドはそれ以上聞いてこなかった。
「俺が離れている間に色々あったんだな。落ち着いたら話してくれよ」
「う、うん」
「だが、ブリリアント卿も、ラアル・ギフトもやめておけ。ラアル・ギフトはとくにだが、ブリリアント卿……お前は違和感を感じていないだろうが、相当強い洗脳にかかっているみたいだからな」
「強い、洗脳……」
アルベドに言われて、そんなことある? と思ったが、私が感じていないだかで彼が言うのならそうなのだろう。ぱっと見そんな風に見えないし、エトワール・ヴィアラッテアをそこまで慕っているようには見えなかったけれど。
「アルベド」
「何だよ」
「取り敢えず、お父様に話にいこっか。多分、ソワソワしてるし」
「お、おう」
私は、アルベドと見つめ合って苦笑した。アルベドは、もう顔を引きつらせて、嫌そうにしている。そう問題は、この後……だから。
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