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求めれば求めた分、彼は応えてくれる。
それは愛ではなく、情。
誰もが持っている最低限度の良心。
良心を持て余している人間は、総じて優しい。
「俺早くしっかりして、清心さんが安心できるように頑張ります」
「あはは、サンキュ。でもまずは親を安心させてやんな」
笑って返すと、彼は確かに、と照れくさそうに笑った。
不思議な関係だけど、大切だ。確かに尊い。失いたくないものだ。
彼の顔、声、仕草、全てが自分のことのように透き通る。彼のことなんて、まだ十分の一も分かってないんだろうけど。それでも、これから時間をかけて知っていきたい。
「またな」
「えぇ。また」
手は離れて、互いに別の方角へ向かった。
たくさんの人混みに飲まれ、足元に注意する。今日も世界は何も変わらないようだ。
鉄の塊に乗って、数分毎に町を越える。
こんな日々をあと何年続けられるだろう。
たくさんの人に囲まれて、たくさんの心に触れて、がむしゃらだけど必死に生きてる。ゴールなんて見えてないし、休憩地点も決めてはいないけど、とりあえず走ってるんだ。
欲を言うなら、どこかで同じ歩幅の人を見つけたい。
一緒に走って、疲れたら速度を落として歩いてくれる誰かを────心の底から欲してる。
その誰かは、もしかしたらすぐ近くにいる。
傍で見守って、倒れかけたら支えてやりたい。
“彼”は、もう自分の中に存在していた。