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ライブ配信を終えたあと。
部屋は、驚くほど静かだった。
さっきまで画面いっぱいに流れていたコメントも。
次々と届いていた温かい言葉も。
配信を切ってしまえば、急にすべてが遠くなる。
仁人はソファに座ったまま、スマートフォンを見つめていた。
通知はいくつも届いている。
けれど。
勇斗からの連絡は、まだない。
「……まだ仕事かな」
今日は柔太郎と一緒だったはずだ。
ライブを見たのか。
まだ知らないのか。
それすら分からない。
仁人はスマートフォンを伏せた。
知ったら。
きっと怒る。
相談もせず。
二人だけのことを、自分一人で決めて話したのだから。
それでも。
後悔はしていなかった。
昨日まで。
本気で勇斗と離れようとしていた。
勇斗の仕事を守るため。
今まで積み上げてきたものを守るため。
自分がいない方がいいのなら。
それを受け入れようとしていた。
けれど。
本当は。
離れたくなかった。
当たり前だ。
好きなのだから。
これからも隣にいて。
くだらないことで笑って。
触れられて。
抱きしめられて。
時々、キスをして。
そんな今までの続きを。
なくしたくなかった。
だから今日。
初めて。
離れるためではなく。
一緒にいるために動いた。
勇斗だけに背負わせたくなかった。
自分だって。
同じ場所に立ちたかった。
仁人は小さく息を吐いた。
その時だった。
――ピンポーン。
「……?」
顔を上げる。
こんな時間に誰だろう。
モニターを確認して。
仁人の動きが止まった。
「……勇斗」
そこにいた。
連絡は来ていない。
仕事が終わったのか。
ライブを見たのか。
何も分からない。
#そのじん
笑う門には福来る
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#nmnm注意
nanana

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ただ。
その姿を見た瞬間。
胸の奥が大きく揺れた。
会いたかった。
自分も。
そう思っていたらしい。
仁人は玄関へ向かった。
扉の前で、一度だけ深く息を吸う。
もし。
ライブを見ていたなら。
ちゃんと話そう。
勝手に決めて、ごめん。
でも。
一緒にいたかった。
それだけは。
ちゃんと伝えよう。
鍵を開ける。
扉を開いた。
「……勇斗」
目が合う。
何か言おうとした。
けれど。
勇斗の方が早かった。
一歩近づいて。
何も言わず。
仁人を抱きしめた。
「……っ」
強い腕に包まれる。
仁人は一瞬、動けなかった。
怒られると思っていた。
どうして相談しなかった。
勝手なことをするな。
そう言われる覚悟をしていた。
なのに。
勇斗は何も言わない。
ただ。
確かめるように。
強く抱きしめている。
仁人はゆっくり腕を上げた。
勇斗の背中へ回す。
その瞬間。
胸の奥が静かに熱くなった。
昨日は。
もうこの腕に抱きしめられることもなくなるかもしれないと思っていた。
それでも仕方がないと。
自分に言い聞かせていた。
なのに。
今。
またここにいる。
しばらくして。
勇斗の腕が少しだけ緩んだ。
それでも。
離れはしない。
すぐ近くで目が合った。
「……見た?」
「うん」
「全部?」
「全部」
仁人は目を逸らした。
「……最悪」
最後に少しだけ涙が零れたところまで。
全部。
見られてしまった。
けれど。
勇斗は笑わなかった。
少し気まずそうに目を逸らす仁人を。
ただ。
静かに見つめていた。
やがて。
「なんで一人でやったの」
静かな声だった。
責めるような声ではなかった。
だからこそ。
仁人も誤魔化せなかった。
「相談したら止めたでしょ」
「止めたよ」
即答だった。
仁人は小さく息を吐く。
やっぱり。
そうだと思った。
勇斗なら。
自分が何とかするから。
仁人は何もしなくていいから。
きっと。
そう言った。
「お前だけに背負わせたくなかった」
勇斗の表情が、わずかに変わる。
「俺のことでもあるし」
そこまでは。
すぐに言えた。
けれど。
その先で。
言葉が止まった。
本当は。
もう一つあった。
もっと単純で。
もっと自分勝手な理由。
仁人は少しだけ視線を落とした。
「……それに」
勇斗は急かさなかった。
ただ。
待っている。
仁人は小さく息を吐いた。
「別れたくなかったから」
勇斗の目が。
わずかに見開かれた。
「昨日は、勇斗のためならって思ってたけど」
仁人は少しだけ俯いた。
「……やっぱ無理だった」
静かな声だった。
「俺も、一緒にいたかった」
勇斗は何も言わなかった。
昨日。
何度引き止めても。
自分のためなら離れると言っていた仁人が。
今、自分の口で。
一緒にいたいと言った。
その言葉を聞けたことが。
ただ、嬉しかった。
仁人が顔を上げる。
「……何」
勇斗は答えなかった。
代わりに。
仁人の頬へ手を伸ばした。
指先が触れる。
そして。
静かに唇を重ねた。
「……」
触れるだけの。
短いキスだった。
まるで。
今聞いた言葉を。
大切に受け取るような。
唇が離れる。
けれど。
勇斗はすぐには離れなかった。
近い距離で。
仁人を見つめる。
仁人も。
何も言わなかった。
そのまま。
勇斗の腕が、もう一度背中へ回る。
さっきよりも。
静かに。
けれど。
離したくないとでもいうように。
強く引き寄せられた。
「……勇斗?」
返事はない。
ただ。
抱きしめる腕が。
ほんの少しだけ強くなる。
その抱き方に。
仁人はようやく気づいた。
自分だけじゃなかったのだ。
離れる覚悟を決めようとしていた間。
勇斗もずっと。
自分を失うかもしれない場所にいた。
それなのに。
自分は。
勇斗のためだからと。
一人で答えを決めようとしていた。
「……ごめん」
小さく零す。
勇斗の腕が。
一瞬だけ止まった。
けれど。
すぐにまた抱きしめられた。
「もういい」
低い声が。
すぐ近くから聞こえた。
仁人は何も言わず。
勇斗の服を掴んだ。
しばらく。
二人とも動かなかった。
勇斗は。
本当に離すつもりがないみたいだった。
それが。
今の仁人には。
少し嬉しかった。
やがて。
耳元で。
小さな声がした。
「……よかった」
仁人がわずかに顔を上げる。
けれど。
勇斗はそれ以上、何も言わなかった。
何が。
なんて。
聞く必要もなかった。
仁人は。
もう一度、勇斗の背中へ腕を回す。
「……俺も」
それだけ答えた。
勇斗の腕に。
また少しだけ力がこもる。
今度は。
どちらも。
離れようとはしなかった。
コメント
1件
第17話読み終えたよ…!仁人が「別れたくなかったから」って自分の口で言えたの、本当に大きくてね。勇斗が何も言わずに抱きしめてくれたのも、全部受け止めてくれた感じがして胸が熱くなった。二人とも「失うかも」って同じ場所にいたんだなって思うと、ラストの抱きしめ合うシーンがすごく沁みた。離れようとしなかったのが、何よりの答えだよね。