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灰の庭の風が、白灰を巻き上げながら二人の間を吹き抜ける。
ヴェルサファーは背筋を伸ばし、折り畳まれた黒翼をわずかに揺らした。
その瞳は鋭くもあり、同時に、どこか少年を気にかけるような柔らかさを帯びていた。
「一旦中に入れ。」
そう言われ、二人は荒れた屋敷の中に足を踏み入れる。
部屋には散乱した書物や紙片、そしてサリエルとの思い出を伝えるかのような写真が点在していた。
二人は椅子に向かい合って腰を下ろす。
ヴェルサファーが不意に口を開いた。
「サリエルはーーどうだった。」
ぶっきらぼうな声。だが問い詰める圧力はなく、ただ知りたいという静かな好奇心が滲む。
少年は一瞬言葉をためらう。胸の奥で、サリエルの声や表情が押し寄せる。
しかし、やがて口を開く。
「…最後に、サリエルはこう言いました。」
少年は小さく息を整え、続ける。
「『僕たちが生きていること自体が罪なら、この世界は最初から間違っている』ーーそう言って、魔界に逃げ、自分で未来を選べと僕に残したんです。」
ヴェルサファーは軽く頷き、視線を少年に向ける。
「そうか…お前の中にも、またその意思が宿ったわけだな。」
口調は淡々としているが、責めることなく受け止める余地がある。
「彼には強い意志がある。自分の生を、世界の枠に縛られずに選ぶ力が。」
ヴェルサファーの声には冷静な厳しさがある一方で、少年を守ろうとする思いも滲む。
「その思想は、天使と悪魔、どちらの秩序も揺るがす。」
少年は背の黒い羽をわずかに揺らし、胸の奥でサリエルの言葉と自分の決意を重ねる。
「だが覚えておけ。意志の強さは力でもある。使い方を誤れば、自らも、守ろうとする者も傷つける。」
ぶっきらぼうだが、少年を案じる声だった。
少年は黙ったまま、下を向く。黒い羽と胸の光が、二人の間に静かな緊張を残す。
ヴェルサファーは肩をすくめ、少年を一瞥する。
「サリエルと俺はな、長い間、この世界の仕組みを見つめてきた。」
声は淡々としているが、視線の奥には伝えたい重みがあった。
「悪魔と天使、敵と味方。単純な二項対立なんて幻想だ。お前が今感じている迷いも、あいつも同じだった。」
少年の瞳が黒い羽の影で揺れるのを、ヴェルサファーは見逃さない。
「サリエルは、世界の“正義”に疑問を持った。ただ斬るだけでは、何も守れないと知っていた。」
一瞬、黒曜石の瞳が柔らかくなる。
「だから、お前と交わした言葉も、ただの教訓じゃない。互いの立場、存在意義、そして何を守るべきか。全てを確かめ合ったんだ。」
ヴェルサファーは肩を軽くすくめる。
「強い意志を持つ者は、世界を揺るがす。それは天使でも悪魔でも同じだ。だが、お前とサリエルは、その揺れを制御できるかもしれない。」
言葉の端々に、静かな期待と信頼が混じる。
「だからこそ、俺はこうしてお前の前にいる。試すつもりでな。」
ぶっきらぼうな口調だが、その背後には少年を見守ろうとする優しさが透ける。
灰の庭の風が二人の間を通り抜ける。
少年は拳を握りしめ、胸の奥でサリエルの存在と自分自身の覚悟を確かめた。
「私は、サリエルの意志を、無駄にしたくない。」