テラーノベル
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ヴェルサファーは決めていたーー少年を、必ず守ることを。
少年の存在が明らかになれば、魔界の悪魔たちは黙ってはいない。
その日も、少年はヴェルサファーの指導のもと、剣を握っていた。
「悪くない。」
ヴェルサファーは小さくつぶやき、鋭い視線を剣の先に向ける。厳しい指導の中にも、少年を見守る気持ちが滲んでいた。少年には、それが剣越しにしっかりと伝わった。
彼は、少年の師であるラフィエルよりもはるかに強かった。鍛え上げられた体は無数の傷で覆われ、そのひとつひとつが前線での激しい戦いの証であることを少年は悟っていた。
それでも少年は、思いも寄らず平穏な日々を過ごしていた。
「こんな日が毎日続けばいいのにーー」
口に出せない願いを胸に秘めながら、少年は剣を振り続けた。自分は魔界まで来た理由を忘れているわけではないーーサリエルの意思を継ぎ、天使と悪魔が長年争い続ける理由を探るために来たのだ。
ヴェルサファーは、少年に向かって静かに語った。
「俺とサリエルは、歴史書やそこに記された地域をすべて回り、真相を追い続けた。だが、核心にたどり着くことはできなかった。わかったことは、天使も悪魔も、かつて神に作られた対等な存在だったということだ。だが、ある事件を境に争いが始まったーーそれまでしかわかっていない。」
彼は少年にひとつの命令を下す。
「まず、お前は冥府に潜入して、情報を集めてこい。」
ーー冥府。天使たちの神殿に相当する場所で、魔界のすべての戦力が集結し、魔王が君臨する地。
その名を聞いただけで、少年の胸は緊張で高鳴った。しかし同時に、ヴェルサファーもまた、過去にこの場所で戦ったはずだ。少年は思わず問いかけた。
「でも、あなたも前線で冥府にいたのでは?」
ヴェルサファーは、少し寂しそうに笑った。
「…裏切り者だからな。妻を失った悲しみの中、自暴自棄で戦った時期もあった。だが、もうどうでもよくなっーー―冥府から逃げ、この魔界の端でひっそりと暮らしている。だから、有力な情報はほとんど得られていない。」
少年は、その言葉に胸を打たれた。自分とセリスの姿が重なったのだ。
天使にも悪魔にも、大切な存在がある。互いを壊し合うだけでは、意味がない――少年は改めてそう思った。
そして、決意を新たに剣を握る。
ーー冥府に赴き、真相を暴くために。
少年の目には、恐怖と期待が入り混じる光が宿っていた。これから待ち受ける困難は計り知れない。だが、ヴェルサファーの言葉と自らの信念が、少年の背中を力強く押していた。
その日、少年は一層訓練に励んだ。
剣の一振り一振りに、決意と覚悟を刻み込みながら。
冥府ーー魔界の心臓部で、真実を手に入れるために。
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