騒動のお茶会が明けた、翌日。
「おはよぅございますぅ…イギリスさん…」
「ぐっど もーにんぐ…日本さん…」
日本とイギリスは、死んだ魚の目で挨拶を交わした。
ここは、国際連合本部。
国の化身たちが集い、毎日せこせこと働いている。
取りまとめ役は、もちろん国際連合。
ストライキしたい気持ちをぐっと抑えて、日英は重い足取りで職場に向かった。
「日本さん…その後は…いかがですか…」
「最悪の目覚めです…」
あんなことがあった日に、グッスリスヤスヤなんてできるはずがない。
「…今ここでヒートとか…ないですよね…?」
片や、東洋の島国は。
『善処します』『検討します』が口癖で、鉄壁の営業スマイルを片時も崩さない。
片や、欧州の島国は。
『約束します(嘘です)』『騙される方が悪いのです♡』が口癖で、 鉄壁の紳士スマイルを片時も崩さない。
言わば、二人とも猫かぶりな男だった。
「オフィスで発症したら、一巻の終わりですね…色々な意味で…」
しかし、もしヒートが訪れたなら──そんな二人も、熱に喘ぎ、刺激に善がり、情けなく腰を揺らすだろう。
そんなこと、あってはならない。
自身の尊厳と社会的地位のために。
「イギリスさん!もし危険を感じたら、すぐ連絡して下さいね…! 」
「それは日本さんもですよ、私も連絡が来たら駆けつけますから…!」
日英は視線を交わした。
奇妙で秘密な連帯が、生まれようとしていた──そんなところに。
「──Hello, ジャパン!親父!」
「わぁッ!…あ!アメリカさん!」
「…アメリカ、日本さんが困ってますよ」
突然、右後ろから肩を組まれて、日本は声を上げた。
サングラス越しの青い瞳と、ニカッと明るく笑いかけてくる口元。
どうやら、相手は日本の上司・アメリカだったようだ。
「──Bonjour〜♡ブリカス♡」
「誰がカスですって!?フラカスの癖に生意気な!」
朗らかに現れたのは、イギリスの同僚・フランス。
当たり前の事のように、彼はイギリスの手をするりと取った。
「カリカリしないでよ、ちゅッ♡」
「ぎゃぁぁぁあああっ!」
そして、イギリスの手の甲に軽いキスをおとす。
イギリスは、まるで幽霊にでも遭ったかのような悲鳴を上げた。
「──全くやかましいアルね…日本、静かなところに行くヨロシ」
「あ、おはようございます、中国さん!」
日本の左腕をぐい、と引いたのは、日本の先輩・中国。
職場だというのに、サラッとナンパ発言をする。
「──何してるんだ?こんなところで…」
通りがかった眼鏡の男が、書類の束を抱えてイギリスの前に現れる。
「おや、ドイツさん! 」
「あぁイギリス…すまないが、あとで少々時間をくれないか?」
「ええ!構いませんよ!」
イギリスの先輩・ドイツに、彼は大きく頷いた。
心なしか、イギリスの瞳が輝いている。
「あはは〜!父さんって、本当にドイツさんにだけは従うよね〜?」
「おやカナダ…そ、そんなことないですよ?」
「うーん…僕、嫉妬しちゃうな〜?」
にこやかに微笑むのは、イギリスの息子・カナダ。
おっとりとした口調と柔らかい物腰で、あっという間に出世を果たしたキレる男だ。
「よぉ、イポーニャ」
「あ、ロシアさん!」
ずん、と日本の目の前に大きな影が下りる。
巨漢の正体は、日本の後輩・ロシアだった。
「相変わらず絡まれてんのか、パイセン」
「あ…あはは… 」
何を考えているのかよくわからない目で見下された日本。
どちらが先輩かわかったものではない。
とはいっても、日本は既に後輩であるロシアに追い抜かれている。
「コイツらに何かされたら、俺に言えよ。助けるくらいはしてやるからな」
「な、何もされませんって…」
いつの間にか大出世していたロシアは、既に国連の中核──米英仏露中率いる、常任理事国に位置していた。
そんな生意気な後輩に、日本はとりあえず愛想笑いを返したのだが。
「は?何だよロシア、まるで俺が悪者みたいな言いぶりだな?」
「あながち間違ってないアルね」
「は?調子に乗んなよコミーチャイナ」
「はッ…自称・世界の警察は黙れ、ダメリカ」
「わ……ァ……やめて…」
日本を囲んで、ぐっちゃぐちゃの醜い争いを始める米露中。
「ドイツ…君、また邪魔する気なの?」
「邪魔?はは…振り向いてもらえないからって、嫉妬してもらっちゃ困るなぁ!」
「お二人とも〜!喧嘩はやめてくださいよ〜!それじゃあ父さん、僕と行こっか〜!」
「…何ですか、この状況」
バチバチと火花を散らす仏独と、漁夫の利を狙うカナダ。
「イギリスさん…」
「日本さん…」
渦中の二人は、目線を交わすと。
そっと、その場を抜け出したのであった。
コメント
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とりあえず尊い
言葉が出ない
ありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございます好きすぎますね