テラーノベル
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私と辰美は、北の山からリンド村への帰路に着いていた。
夕焼けが山の稜線に沈みかけている。
空は茜色から藍色へと、ゆっくりと色を変えていく。
──その時。
「あ!サクラ様!」
ワイトとサタンが前方から歩いてきた。
二人とも疲れ切った顔をしている。
「あれ?あんたたち……
あぁ、エスト様のスキルで呼ばれた?」
私はうなだれる二人に声をかける。
「はい……」
サタンが遠い目。
「なんの用事で?」
「暇だったからだそうです……」
ワイトが目を見ない。
「マジか……(んふふッ)」
私は笑いを堪える。
「本当にそれだけで……」
サタンが震える声で続ける。
「で、今から80階層と90階層まで?」
「はい……」
「徒歩で?」
「はい……」
「……そっか。頑張って」
「……」
二人はゆっくりと首を縦に振るだけだった。
「……ぷッ」
私の口角が裏切った。
「!?」
二人が私を二度見した。
これからこいつらは数週間かけて徒歩でダンジョンに帰るのだ。
面白すぎる。
私は二人の背中を見送った。
辰美が困惑した顔で私を見ている。
「……今の人たち、大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。モンスターだから体力あるし」
「そういう問題じゃない気が……」
*
「辰美?これからは村で人間と暮らす事になるけど、
辰夫と同じく、人型にはなれるよね?」
私は歩きながら辰美に尋ねる。
「まぁ……なれなくても、
力技で人型にするけどなぁ……?」
指をポキポキと鳴らす。
関節が小気味良い音を立てた。
「ひぃ! り、竜人族の姿になれます!」
辰美はガクガクと震えながら答えると、
その場で光に包まれた。
光が収まると──そこには人間の姿をした辰美が立っていた。
「……お?」
私は思わず足を止めた。
竜人族の辰美は、
私と同じ10代後半くらいの姿だろうか。
髪は炎のような赤いショートヘア。
瞳も赤く、どこか野性的な輝きを持っている。
ややキツめの目つきだが、
それが凛とした美しさを際立たせていた。
そして――私は、視線を下へと移す。
「……辰美ーーーーーぃッ!」
「は、はい!?」
辰美がビクッと肩を震わせた。
「……私たち……ずっと親友だぜ……?」
私は辰美の胸を凝視しつつ、
最高の笑顔で親指をグッと立てた。
「くっ……」
辰美は自分の胸を押さえ、下を向いた。
そう――。
辰美も、ペッタンコだった。
上機嫌になった私は、スキップしながら辰美に話しかける。
「いやぁ良かったよー?
もしも主人より大きかったらさぁ?
刀で切り落とす必要があったからさ?」
沈黙。
「……胸じゃなくて首をなぁ?」
私はスキップを止め、刀をチラつかせた。
「ひぃッ……」
辰美は、ペッタンコで良かったと心から思った。
そして、私たちはリンド村に戻った。
*
村長に火竜討伐の報告をし、
この一緒に居るのがその火竜だと告げる。
「か、火竜が!? 一緒に!?」
村長は慌てふためいている。
「はいはい、詳しい話は後で」
私は手を振りながら、宿屋へと向かった。
村長の「待って!?」という声が背後から聞こえたが知らん。
*
宿屋の部屋の扉を開けると、エスト様はベッドで寝ていた。
「エスト様。ただいま戻り……あら……ふふ……」
小さな寝息が聞こえる。
穏やかな寝顔。
「この方が、魔王様……子供……」
辰美はエスト様の寝顔を見て言った。
「ふふ。お腹を出しちゃって……風邪をひくわよ」
私はエスト様が風邪をひかないようにと、
そっと布団をかけた。
布団の感触に反応したのか、
エスト様が小さく寝返りを打つ。可愛い。
……
――そして、エスト様が目覚めた。
目をこすりながら起き上がる。
「……うーん……?
あ! お姉ちゃん!おかえりー!」
エスト様は満面の笑みを浮かべた。
「火竜討伐に行って、火竜を配下にしてきたよ。
あと、こないだの酒場の冒険者3人も成り行きで……」
私はちょっと残念そうに戦果を報告した。
別に三人組が欲しかったわけじゃないのだが。
「おおー!さすがお姉ちゃん!」
エスト様は目を輝かせた。
「辰美。自己紹介を」
「はい。火竜の辰美……と言います。
特技は火を吹く事です。
好きな食べ物はタマネギ、
嫌いな食べ物はピーマンです。
夏が嫌いです。暑いから。
宜しくお願いします」
辰美が律儀にお辞儀をする。
「私は魔王のエストだよ!よろしくね!」
エスト様は嬉しそうに笑った。
「あ! そうそう。辰美も”私の配下”ですので」
私は念を押す。
「ぅん……そうだろうね……」
エスト様は虚空を見つめながら呟いた。
……
少ししてから、
私は悪魔の面白いお姉さんのことを話した。
「というわけで、その人がめっちゃ面白くて。
負けてられない。面白くなってやる」
「私!あの人にまた会えたら友達になってもらう!」
私が説明を終えると、辰美は目を輝かせた。
「うーん? 悪魔のような……?
心当たり無いなぁ……」
エスト様は小首を傾げていた。
……
次に、本題である温泉の報告をした。
「あと、北の山で温泉を掘り当てたから、
その温泉をこの村と常闇のダンジョンに引っぱりたいの」
「温泉!?」
エスト様が驚く。
「その工事に私の魔王軍を使おうかと。
まぁ私の軍だし、良いよね。
騒ぎにならないように夜にこっそりやる」
私は真面目な顔で言った。
「魔王軍を工事に使う!?」
辰美が目を丸くする。
「うん! いいよー!
でも、村とダンジョンに温泉を引いてどうするの?
あと、お姉ちゃんの軍じゃないよ、私が魔王……」
「……」
私は無視した。
「……」
エスト様は布団を握りしめた。
「どうするのかって?よくぞ聞いてくれた小娘!
温泉は魔王軍のモンスターへの福利厚生だよ。
魔王軍にもたまには癒しが必要」
私はドヤ顔で語り始めた。
「それに、ダンジョンをモンスターの村にして、
この村と繋げていけば──人とモンスターが共存する未来も、
あり得るかもしれないしね」
これは本気だ。
「ずっと真面目な話してるけど……
お姉ちゃん?変なもの食べた?」
エスト様が不思議そうに私を見つめている。
「黙って聞け! 小娘がッ!」
「……ああ! お姉ちゃんだ!!」
エスト様は満面の笑みを浮かべて私に抱きついてきた。
「ふふ」
私はエスト様の頭を撫でた。
留守番が寂しかったのかな。
「話を続けるよ?
コードネームは“地獄の配管工事”
配管工事で世界を獲る。
これが“魔王流インフラ侵略”」
「世界征服っぽい!?」
エスト様が目を輝かせた。
「ワイトとサタンにも頑張ってもらわないとね」
「あ、その二人ならさっきまでここに居たよ!」
「うん。村の外で会ったわ。
……もう少ししたら、またスキルで呼んで」
「わかった!」
ニパッと笑顔のエスト様。
「鬼がおる……」
辰美が同情の表情。
「ちなみに辰夫は今のバイトを続行。
私たちの生活費が無くなるからね」
「うん!そうだよね」
「……え?
この魔王パーティーはバイト代で生活してるの!?」
辰美は帰りたいと思った。
(つづく)
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