「……、サイアクだ。」
…俺は何回も言ったハズだ、肝試しには行かないって。
ペアで回っていた友達とは、
俺が脅かし役にビビって走って逃げたせいではぐれてしまった。
多分途中まで追いかけてはくれただろうけど、
…どう考えてもアイツの足で、我を忘れて全力疾走した現役陸部の俺に追いつけるハズがない。
─先程から点滅しだした懐中電灯が余計に俺の不安を煽ってくるのにイライラして、スイッチを切り光源はスマホに切り替えた。
「…夜にこんな森の中で、スマホは圏外とか、どんな悪夢だよ…。」
先程から、ダメ元でペアだった友達にひたすらスタンプ連打を行っているが、
圏外を示すスマホ画面上部の表示は、一向に消えてくれない。
この調子だと、恐らく大量に入っているであろう友人達からの自分を案ずる連絡も、受信出来ていないのだろう。
「はぁ〜寂しい〜、友達欲しい〜…」
ぶつくさと叶うはずのない願いを呟きながら森を進んでいると、
「…あれ?」
スマホのライトが届いていない切り株の上に、何かいるのが見えた…気がした。
「…なんか、もふもふしてるヤツがいる…?」
森の獣が切り株の上にいるのか、恐る恐るライトで照らしてみると、
「─っうわ、動いた?!」
ライトに驚いたのか、
寝ていたらしい白銀色の毛並みのもふもふはハッと目を覚まし、森の奥に駆けていく。
「待てよ俺も1人なんだって!!ちょっとくらい一緒にいてくれよ〜!!(泣)」
普段なら動物なんて怖いし苦手な部類だが、
やっと見つけた友達(?)に秒で絶縁されたのも心にキたので、
仲間(みちづれ)を作るべく白銀色のもふもふの後を追いかけた。
「ゼェ、ハァ、……、捕まえた…。」
もふもふを両腕で抱え込み捕獲すると、
じたばたもがいていたソレはそのうち落ち着いた。
じっと見てみると、どうやらもふもふの正体は狐っぽい。
白銀の狐だなんて、珍しいモノもいるものだ…。
…それはそれとして、追いかけっこは俺の勝ちかと心の中で少し優越感に浸っていると、
『足はっや…お前ホントに人間?』
「─っうわぁあ!?!」
腕の中から急に日本語が聞こえ、驚いてもふもふを放り投げてしまった。
『?!?』
急に放り投げられたのにはアチラもビックリしたらしく、
もふもふは青い目を丸くしたまま、草の上でとりあえず受身を取った。
『あっぶね、急に投げんなよ…。』
「待っ…だって、え、」
「……、なんで喋ってんの?!」
どう考えても今の俺の反応は当然だろう。
どちらかと言うとおかしいのはあっちの方だ。
『はァ…人間に捕まると思ってなかった、お前ホントに化け物じゃない?』
「いや、こっちのセリフっていうか…w」
『あー…えっと、』
言って、もふもふの白狐はそこら辺の切り株の上に立った。
─と、
「……は? …え?」
何が起こったのか、
もふもふは蒼(あお)い炎に包まれ、
…やがて、狐の耳としっぽが生えた、ヒトの姿になった。
『…これで分かった?』
月の光を浴びて、ゆっくりこちらを振り返った深く青い瞳が俺を捕える。
「…いや、余計に分かんなくなった。」
何故伝わると思ったのか、逆に聞きたい気分だ。
『えぇ…お前怖い話とか小説とかで聞いたことない?こういう化け狐的な話。』
「そもそもそんな話聞かねーよ…怖いのは無理なんで。」
『…? じゃあなんでこんな夜中に山に…、』
「色々あんだよ〜!!」
『へぇ〜、まあいいや』
『俺は“人狐(二ンコ)”、人に狐って書く。』
「お〜……」
『簡単に言えば、狐と人間になれる妖怪みたいなの。』
「な、なるほd…、…妖怪?!?」
『おいそんな距離取んなって、別に食ったりしねぇよ』
……怖いものや霊的ナニカが大っ嫌いの俺だが、
ここまで自然に会話出来る妖怪もいるものなのか、
正直全然怖くない。
「てかさ、」
『?』
「妖怪ってこんなに怖くないモンなの…?」
『は?バカにした?』
「え?ごめんそういう訳じゃ…」
『別に今は怖がらせるつもり無かったからそうだけど、』
『いざそう言われるとナメられた気分だな〜…。』
「な、ナメてないナメてない!!」
「脅かしに来るのはやめろ!!!」
慌てて弁明すると、目の前の人狐はフッと笑い、
『冗談だよ、んな慌てんなって。』
と言う。
揶揄われたことに悔しくなり、「生意気ギツネめ…」と悪態をついていると、
目の前の人狐は切り株に腰を下ろし、口を開いた。
『今度は俺が聞く番な。』
「ん?…あぁ、いいよ。」
『…なんでこんな時間に1人で山に?』
「あ〜…ちなみに好きで来た訳じゃない。」
「…ちょっと、近所の奴らの肝試しに巻き込まれた。」
『…じゃあその、他の人間は?』
「はぐれた。」
「俺が脅かし役の友達にビビって全力疾走したんだけど、多分それに周りが追いつけなくて見失われた。」
『まあお前足速いしな…さっき思い知ったわ。』
「あり…がとう(?)」
『…なぁ、もしかして帰り道わかんない?』
「うん」
『……連絡手段は?』
「ここは圏外」
『家の人間は?』
「今日は誰も居ないな」
『………、』
「……、何か言えよ。」
『…いや、掛ける言葉がない。』
「それもそうか…w」
…何故俺は今狐の耳としっぽが生えた男子に心配されているんだろう。
冷静になって考えたが気絶しそうになってやめた。
『…仕方ないか、』
ボソッと人狐が何か呟いて、急に立ち上がる。
「え、なんだよ」
『─目瞑れ』
「…は?」
…戸惑いながらも、後ろから彼に手で両目を覆われたので、瞑るしかなくなった。
『帰りたい場所のことだけ考えろ』
視覚を封じられた世界の中、背後から人狐の声だけが伝わる。
…言われるがまま、閉じた視界の中で家の自室のベッドを思い浮かべた。
『…あと、』
人狐の声は続ける。
『─俺のことは忘れろ。』
「…は?」
「なん…」
問い返す間もなく、背後からふぁさっとしっぽが揺れる音がして、
次の瞬間、何も感じられなくなった。
コメント
7件
やばい、、、好きです 続きが楽しみです🎵
誤タップであげちゃったけどまあいっか(( 次話は来週中には公開します、よかったらまた覗きに来てください"(ノ*>∀<)ノ✨