テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
異能獣保全研究センターから引き取りに来たり、警察に異能獣ハンターを引き渡したり、といろいろ終えて戻ったのが15時頃だった。
💚「じゃあ、あの猫の異能って《鏡渡り》だったんだ」
❤️「そう。あの鏡池を拠点にしてたみたいなんだけど、ハンターに追われていろんなとこを転々としてたらしいよ」
🧡「鏡みたいに映るとこなら、どこでも行けるんやと」
🖤「それで舘さん、池を凍らせたの?」
❤️「たまたまだったけどね。鏡に映ったって言ってたし、鏡池って名前でしょ? じゃあ、鏡じゃなくしたらいいのかなって。ラウールも水面で異能使ってたって言ってたから、試してみたんだよ」
💜「舘がめっちゃ考えてる」
❤️「失礼ですよ、深澤さん」
🩷「結局、ふっかは何もしなかったからねー」
💜「うるせっ。じゃあ阿部ちゃん、今度は一人で乗って」
💚「ん」
体重計に乗ると、ピッと音がしてデジタル数字が表示される。
💜「50.2……ギリ?」
💛「ギリだな。あと一日伸びてたら危険域」
💚「ちょっと、俺の体重測定じゃないでしょ!」
🤍「フェネックの体重は1.2だね。標準になったんじゃない? これなら、連絡していいかも」
💜「食べなくて困ってたみたいだからね。引き取りに来てもらおうか。なんかやっと、阿部ちゃんから離れてくれたし」
異能フェネックは今、ソファの上で丸まって寝ている。阿部が抱いた状態で一緒に体重計に乗り、そのあとソファに置いてみたけれど起きる事はなかった。
星晶保護機構に連絡をして、引き取りにきたのがおよそ1時間後。大人しく寝ている異能フェネックをプロテクトキャリアと呼ばれるふわふわのベッドが敷かれたケージに入れると、星晶保護機構の人たちは帰って行った。
💜「これで一件落着、かな」
🩷「ハンターが捕まって阿部ちゃんから離れたってことは、それが原因だったのかな?」
💚「えー? でも俺、関係なくない?」
🧡「猫探しで事故とかあったかもしれんし、分からんな」
結局のところ、どうしてあの異能フェネックが阿部の所に来たのかは分からずじまいではあったけれど、何事もなく終わったので良かったのだろう。
もしかしたら、もう回避されたのかもしれない。
だから阿部は、久しぶりに帰途についていた。19時を回り、辺りはすっかり暗くなってきている。
繁華街を抜け、都市公園の中を通って帰る。まだ公園の中はジョギングをしている人や犬の散歩などで通っている人も多い。公園の出口を抜けて遊歩道に出た時だった。至近距離から聞こえたカラスの鳴き声に「わぁっ」と驚いて後方にぴょんとジャンプした直後、目の前を何かが通り過ぎたのが分かった。
💚「え……?」
今のは、なんだ。
そう思って周囲を見回してみるも、誰もいない。先ほどまではすれ違っていた人が、今は忽然と姿を消して阿部一人だけだ。
なんとなく嫌な予感がして引き返そうとした瞬間、右手の甲にチクリと痛みが走る。右手の甲を見ると、何かが刺さっているのが分かった。針だ。針の後端には四本の爪痕が刻まれた小さなチャームが意匠として付けられている。
💚「っ、これ、異能獣ハンターの!」
ヤバいと思って公園内に向かって走り出す。ここからだと特務調査局は離れているから逃げ込む事はできない。走りながらスマホを取り出して電話をかける。だが、スマホを持っていた左手に強い衝撃を受けて手放し、スマホが地面を滑った。
💚「異能獣ハンターに襲われてるっ。公園、逃げるしか! うっ」
今度は左のふくらはぎに痛みが走った。刺すようなものではなく、重い衝撃。殺傷能力の弱いゴム弾か何かだと思う。
スマホは拾える場所にはなく、スマホを置いたまま駆け出した。
左足を庇いながら、なるべく障害物になりそうな植え込みやベンチの後ろを通って、遊歩道を外れて木々の中に入る。
木の陰になれば撃たれないのでは、と。そうして木陰に隠れて息を整え、阿部の目が碧色に輝くと手を前に出し、電磁波でシールドを張る。これで、当たった場所から相手の位置を特定できれば反撃のチャンスはある筈。
しかし突然、電磁シールドが消えたかと思うと、阿部が隠れている木に重い衝撃があり、その圧で少し飛ばされてしまった。枯葉の積もった土の上に倒れ込む。
💚「……異能が、消された……異能阻害弾も、持ってるのか……」
立ち上がろうとして、ぐらりと視界が揺れて再び倒れ込んでしまった。
💚「あ、れ……力が、入ら、ない……」
仰向けに倒れたまま腕に力を込めて体を起こそうとしても、プルプルと震えているだけで持ち上がらない。
「やっと効いてきたか」
渋い低音の男の声が聞こえる。木陰から出てきて月明かりに照らされ見えたのは、黒のフィールドジャケットにカーゴパンツ、コンバットブーツを履いた屈強な男。対異能獣ライフルを肩に担いでいる男は、まさにハンターという出で立ちだった。
💚「あ……最初の、針、麻酔……」
「そうだ。なかなか効かないからこんな所まで来ちまったな」
ゆっくりと近づいてくるハンターから逃げようと思っても、もう手に力さえ入らない。
💚「星喰みが、何で、俺を……?」
「俺は特別な異能持ちを狙う星喰みでな。人間も動物も扱ってる。あんたの捕獲依頼が来たんだよ。あんた、特殊な異能を持ってるらしいじゃねえか」
💚「……」
「それにあの星詠みのフェネック。まさか二つ同時に持ち帰れるとは運が良い」
💚「あの、子は……もう、戻ったから、手出し、できない……」
視界がぼやける。
「あんたにくっついてる姿は確認済だ。あんたを餌にすりゃ、簡単に出てくるだろうよ」
男の姿が霞む。
💚「……ダ、メ……」
目を閉じ、力の抜けた阿部の体が地面にぐったりと横たわった。
ニヤリと口角を上げて笑むと、星喰みの男は阿部に手を伸ばす。その手に、がぶりと噛みついたものがあり、星喰みの男が思わずのけぞった。
「うわっ! くそっ、なんだ?!」
ブンブンと腕を振ると、それは阿部を護るように降り立ち、威嚇をしている。
「ん? なんだ、あの星詠みのフェネックじゃねえか! まさか、獲物の方から来るとはな!」
歯を剥き出しにして、全身の毛を逆立ててそこに立っているのは異能フェネックだ。グルルルと唸り声を上げている。
「ちょうどいい、手間が省けた。このまま連れていかせてもらう」
💜「はあ? お前はこっちに食われてろ!」
頭上からの声に見上げると、大きな口がぽっかりと開いているのがわかった直後、上半身を頭からすっぽり食べられた。少し宙に浮いた星喰みの男がバタバタと足を動かしている。
星喰みの男をがぶっと食べているのはフェンリルの姿のふーちゃん。
💜「あ、ふーちゃん。しないとは思うけど、ホントに食べちゃダメだからね。そーっとだよ、そーっと。そんなの食べたらお腹壊しちゃう」
🤍「そういうことじゃないでしょ、もー。ふっかさん、その男ちゃんと見張っててね!」
フェンリルふーちゃんの隣に立っている深澤の横を通り過ぎて、ラウールと目黒が阿部に駆け寄った。
モノクルを付けたラウールがすぐに阿部の体を診る。
🖤「ラウール、どう?」
🤍「んー……ただの麻酔だね。手に麻酔針が刺さったままだ。舘さん、来てー!」
後方から走って来ていた宮舘を呼び寄せる。
🤍「この針、抜いた後に血が出るから止血お願いしていい? 星喰みが使ってる針の先って六本の小さな返しがついてるから、抜くと大変なの。麻酔が効いてるから痛くはないと思うんだけど、傷ができちゃう」
❤️「わかった」
阿部の左手の甲に触れると、宮舘の手から冷気が溢れて阿部の左手の甲を覆っていく。
🤍「よし、抜くよ! えいっ!」
勢いよく抜いた針。その痕を塞ぐようにパキパキと凍り付いた。
🤍「これで大丈夫だよ」
💙「良かった……阿部ちゃん、もう大丈夫だからな」
宮舘と共に駆け付けた渡辺が、阿部の傍にしゃがんで頭を撫でた。
その様子を見ながら、岩本と目黒は異能フェネックに近づく。もう、脅威がなくなったからか異能フェネックの威嚇は解かれている。
💛「よくやったな。お前のおかげで、阿部は大丈夫そうだ」
🖤「阿部ちゃんを守ってくれて、ありがとう」
目黒が手を出すとぴょんと乗ってきたので、腕を上げると肩まで登って来る。
🩷「まさか、異能獣ハンターの他に星喰みまでいるなんてね」
🧡「油断しとったわー。ほんま、ありがとうな」
目黒の肩に乗っている異能フェネックの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めていて、撫でる手を追うように少しずつ頭を動かしている。
🧡「なんや、あの時の反応がウソみたいやな」
🩷「ホントだー。めっちゃ人懐っこいじゃん」
💛「それだけ、阿部を守ろうと必死だったんだろ」
🖤「ですね。無理に引きはがしてごめんね」
今度は目黒が頭を撫でると、「きゅるっ」と可愛らしい声が聞こえた。
翌日、休ませている阿部の家に目黒と深澤が訪ねてきた。本人は大丈夫だと言っていたけれど、異能獣用の麻酔を打たれている事と、それが星喰みの物だったから念のために、だ。
リビングの壁に沿って置かれたソファに座った阿部の左手の甲には、大きな四角い絆創膏が貼られている。
阿部の左手側のテーブル側面に置かれた一人用のソファに目黒が座り、阿部の正面にダイニングテーブルの椅子を持ってきた深澤が座る。
💜「あのフェネックの異能、星詠みではあったんだけど、災害級のものを予知するんじゃなくて、未来予知で見えた未来を確定する能力だったみたい」
💚「運命を決める、みたいなこと?」
💜「そ。運命とか宿命を、星っていう事あるじゃん? それを詠むから星詠み。で、あのフェネックが見た未来は絶対に起こるらしくって、それを変えられるのはその未来を見た能力者だけなんだって」
💚「じゃあ、俺があの星喰みに襲われるのが分かってたから、俺にくっついてたってこと?」
🖤「そうらしい。だから星晶保護機構から逃げ出そうとしたり、食べなくなったりしたって」
💜「その時点ではまだ会ったことなかったから、会わなきゃいいじゃんって思うけど、確定した未来なら結局どっかで会うことになったんだろうな」
💚「だから、自分から行動を起こした……」
💜「自分のせいで阿部ちゃんが傷つくって分かったからじゃない? あの星喰み、フェネックの事を狙ってて、仲良くしてた阿部ちゃんを使っておびき出そうとしてたみたいだし」
💚「それ、あいつが言ってたの?」
訊ねると、深澤と目黒は顔を見合わせた。その表情は、なんとも言えない複雑なもので、何かを言い淀んでいるようだ。
💜「あの星喰み、取り調べの前に亡くなったらしい」
💚「えっ?」
💜「移送して車から降ろそうとしたら、もう息がなかったって。司法解剖もしたけど死因は不明。だから真相は闇の中。恐らくそうだろうって推測だけだね。まあ、阿部ちゃんのところに駆けつける時にチラっとそんな話が聞こえはしたんだけど」
🖤「それと、同じ時間に星晶保護機構の職員も一人、亡くなってる。こっちも死因は不明。自宅で発見されたって……偶然、じゃないよね」
💚「……」
🖤「その亡くなった人が多分、俺が感じた視線だと思うし」
💜「星喰みに情報を流してた可能性もあるよね。だから、フェネックが阿部ちゃんから離れて警戒が薄くなった瞬間を狙えた」
口元に手を当てて考え込む阿部。
その様子を見て、目黒がポンと阿部の頭に手を置いた。
💜「心配しなくても、阿部ちゃんのせいじゃないよ」
🖤「そうそう。阿部ちゃんは巻き込まれただけなんだから」
💚「……うん」
本当にそうだろうか。
💜「あと、阿部ちゃん、フェネックといる時に眠くなったでしょ? あれって、阿部ちゃんの星詠みをしてたみたい。あの子、異能の発動の時に目が星空みたいになるんだよ」
💚「俺の未来を予知しようとしたってこと?」
💜「そ。特定の未来を見る為には阿部ちゃんからマテリアを借りなきゃいけなかったらしくって、それが睡眠に繋がったんだろうって。星晶保護機構の人が言うには、未来を変える為にどう動くのか見てたんじゃないかって。でも結局、異能を使いすぎて深く眠っちゃって、その時に阿部ちゃんと離れちゃったもんだから、戻ってからも凄かったらしいよ」
🖤「阿部ちゃん、俺に電話くれたじゃないですか。それが丁度、星晶保護機構からフェネックのことで連絡が入ってた時で。遠かったけどハンターに襲われてるって言ってくれたから佐久間くんに頼んでフェネックを連れてきてもらって、GPSであの公園に向かったってわけです」
💚「そっか……いろいろありがとね」
💜「いや。阿部ちゃん、その手と足のケガだけで済んで良かったよ。大我に連絡したから、今日の夕方にでも来てくれるって」
💚「えっ、ほっといたら治るよ」
🖤「傷跡、残っちゃうから。大人しく京本くんに治してもらって。足も、無理したからすっごい腫れてたんだよ」
💚「……はぁい」
みんなは知らない。あの星喰みの男が言っていたことを。阿部しか知らない真実。誰にも言えないこと。
何か、見えない大きな渦に巻き込まれているような、そんな予感がした。
#めめあべ
_qnoir

509
めかぶぷりん
358
コメント
1件