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「また絵を描きたい」 ここで、涙が🥲絵を描くの好きだったんですね。やりたいこと、あったんですね🥲 更新ありがとうございます!
テヒョンside
リハビリ療法士さんが病室に来てくれて、面談が始まった。若い男の人で、ジミナは人見知りだから少し緊張しているみたい…。
僕はジミナのことが心配で、ベッド脇の椅子に座ってジミナの右手をギュッと握っていた。
「はじめまして。これから一緒に、リハビリ頑張っていきましょう。まず最初になんだけれど…右手は今どれぐらい動くのかな?ちょっと見たいんだけれど。」
リハビリ療法士さんが出してきたのは、グローブに電極とモニターが付いているような器具。
「ここに指を入れて、手を動かしてみてください。」
僕はジミナの小さな右手を布団の上に出し、グローブみたいな器具に手を入れるのを手伝った。ジミナ頑張れ…。
ジミナはグローブに手を入れて一生懸命動かそうとしていた。でも右手は強張っていて殆ど動かないし、モニターの数値も全く反応しない…。
「う、動かないっ(泣)」
「これは実際のリハビリにも使う道具なんですよ。毎日1時間は、これで手を動かす訓練をしましょうね。」
「え、だって…動かないのに…。」
「うん、ここまで動かないとなるとなかなか難しいけれど…少しでも動かせるように、諦めずに頑張りましょう。」
「……」
「日常生活活動は?できていますか?」
「…え?」
「食事、入浴、トイレとか。今1人でできている?」
「い、いや……」
ジミナは急な問いに戸惑ったみたい…。僕は慌てて横から口を出す。
「ジミナ…?ごはんは食べれるよね?」
「ご、ごはんは、専用のフォークとスプーンでなんとか…」
「ジミナは両手が動かないから服の脱ぎ着ができないし、シャワーもトイレも介助がないと出来ないんです…。ね、そうだよね?」
僕が代わりに答えてしまった。
「うん…」
「車椅子は?自分で動かせますか?」
「車椅子は右手で動かせる特注のものだったから…もう今は…。」
ジミナは話しているうちに不安になってきたのだろう。どんどん顔が曇ってきて、泣き出しそうだった。
そっかぁ…リハビリを始めるってことは、自分の障害と、向き合うってことなんだ。
次々と投げかけられる質問に、ジミナの心が萎んでいくのが手に取るように分かる…。僕は横で見ていて胸がざわざわして、苦しかった。
「今一番困っていることは、何ですか?」
「え、え…。」
ジミナは完全に、言葉に詰まってしまった。
「ジミナ〜困ってること、いっぱいあるんだよね?1つは難しい?」
「う、うぅ…だってぇ…何もかも…。」
「大丈夫ですよ。今できなくてもね、練習したり、道具を使えばできることもあるから。その為のリハビリなんだからね?」
リハビリ療法士さんはフォローしてくれたけど、ジミナの表情は硬く強張ったままだった。
「それから最後に訊きたいんだけれど…できるようになりたいこと、やりたいことはありますか?日常生活以外のことでも、何でもいいんですよ。」
「ジミナ、どう?」
「う、うん…」
「なんかあるんじゃない?…大丈夫だから、言ってみなよ?」
僕は勇気づけるようにジミナの肩をさする。
…長い沈黙の後で、ジミナは俯いて、小さな小さな声で言った。
「鉛筆を持って…また、絵が描けるようになりたい…。」
それを聞いて、僕はハッとした。
ジミナは絵を描くのが大好きだったから。
体調の良い時は色鉛筆で、風景や動物なんかの絵をよく描いていたなぁ。不器用な僕と違ってジミナは絵が上手でセンスが良くて、とてもかわいい素敵な絵を描いていたんだ。
でも手が麻痺してからは、筆記用具も全部、サイド棚の引き出しにしまわれたまま…。
「…でも…無理だと思うから…いいです…」
ジミナは自分から、そう言った。
ジミナは我慢ばっかりしてきたから、諦めることに慣れてしまってる。小さい頃から、自分だけ出来ない、自分だけ我慢がいつも当たり前…。だからきっと、期待するのが怖いんだ。
…すると、リハビリ療法士さんが言った。
「それなら、こんな道具がありますよ。」
そう言ってカバンから出して見せてくれたのは、シリコンのゴムでできた、8の字形のリング。
「これを鉛筆に付ければ手に固定できるし、筆記が出来るかもしれませんよ。これは病院の備品なんだけれど、良かったら貸し出しするので使ってみてね。」
リハビリ療法士さんはジミナの鉛筆にそのリングを付けて使い方を説明してくれたけれど、ジミナは俯いてあまり聞いていないようだった。
僕はジミナの代わりにお礼を言って、その鉛筆を受け取った。
面談が終わってリハビリ療法士さんが帰ると、僕はジミナに声をかけた。
「ジミナ〜面談…どうだった?」
その途端…我慢していたのだろう。
「う、うわーん。」
ジミナは泣き出してしまった。
「こ、困ってること…なんですかって…全部じゃんかぁ(泣)だって、何にも出来ないんだから…。」
ジミナは泣いて…不自由な右腕で布団をバンバン叩いてた。
僕は暴れようとするジミナをギューっと力いっぱい抱きしめて、背中を強くさすった。
けれどジミナは収まらず、わんわん泣き喚いて…華奢な身体で、動かない手で、僕を振り解こうと精一杯の抵抗をしていた。
「両手動かないんだよ!?一体何を、どうやってリハビリするの!あんなリング付けて、絵なんか描ける訳ないじゃんかぁ(泣)いやだ、全部いやーっ!!」
そこへ、ジン先生が慌てた様子で病室に入ってきた。
「ジミナ!テヒョン!どうかした!?リハビリの面談どうだったかな?急患が入ってさ、同席できなくてごめん…」
ジン先生はジミナが泣いているのを見ると、優しい顔になって枕元にしゃがみ込み、ジミナの頭をなでなでして顔を覗き込み、言った。
「ジミナ、どうしたよ〜?リハビリ…いや?」
「ヒック…ヒック…」
ジミナはジン先生が突然来たことでびっくりして大人しくなったけど、まだしゃっくりあげている。
僕も横からジミナに声をかける。
「ジミナ〜大丈夫だよ。ジン先生も僕も、ジミナの味方だよ。分かるでしょ?思ってること何でも、言っていいんだよ?」
ジミナは泣きながら、言った。
「ヒック…ヒック…リハビリ…どうしてもやらなきゃダメなの…?もう諦めようって、そう思ったのに…。全然、手、動かないじゃん。なんで、頑張らなきゃいけないんだよぉ(泣)」
「ジミナ〜辛いねぇ…。片手動かないのと、両手動かないのとは、全然違うよね…?」
「そ、そうだよ…左手が動かなくなった時は、ショックだったけど利き手が動いたから…片手でも身の回りのことできるようにリハビリも一生懸命頑張ったよ?でも、でも…右手も麻痺したらもう…無理だよ(泣)」
「そうだよね…。突然こんなことになって、ジミナも混乱してるよね?でもね、両手が動かなくても、1人で暮らしてる人だっているんだよ?少しずつでもいいから前向きになってさ、リハビリも頑張って欲しいなぁ。みんなでサポートするから、なんにも怖いことなんかないんだよ。大丈夫だよ〜。」
そういうとジン先生は、ジミナを抱きしめてくれた。ジミナはジン先生の腕の中で、泣きじゃくっていた。
やっとジミナが少し落ち着いたので、僕はひと息ついて廊下に出た。すると、ジン先生が小声で話しかけてきた。
「テヒョン、今ちょっとだけ話せる?ジミナが心配だろうから、ここで立ち話でいいよ。ここならドアも見えてるし。」
「うん。」
「ジミナ、やっぱり不安定になってるよね。この間の屋上の件もあったし…。」
「そうだね、さっきのリハビリ面談のあと泣いて暴れちゃって…ジン先生が来てくれなかったら、僕の手にも負えなかった…。」
「そうだよねぇ。障害をもった現実を受け入れるのって、すごく大変だし、時間がかかるんだ。色んな葛藤があってさ。ジミナも日によって、諦めようとしたり、また頑張ろうって思ったり、時にはどうでも良くなったり…今はまだ心が揺れ動いてるんだと思う。テヒョンもすごく辛いと思うんだけど、一緒に悩んで、寄り添ってあげて欲しいな。」
「わかってるよ。大丈夫。先生、いつもジミナのこと気にしてくれて、気遣ってくれて、ありがとう。」
「いゃ〜おまえたちのことが心配でさ…。こんなことになって、俺も辛くて。でも、1番辛いのはジミナだからね。支えてあげようね。」
「うん!」
病室に戻ると、ジミナはベッドに座って机に向かい、紙に何かを書いているみたいだった。さっきの鉛筆に付けるリングを使おうとしてるんだ。僕が来たから、慌てて隠そうとしてる…。
「み、見ないでぇ…(泣)」
ジミナは不自由な右肘でなんとか紙を隠そうとしたけれど、その拍子に紙はひらひらと舞って床に落ちてしまった。
「あ、これ…」
そこには、震える線でいくつもいくつも書かれた、JIMINという文字…。
「うわーん見られちゃった(泣)下手だよね…。」
「ううん、JIMINて書いてたんだね。すっごく上手だよ〜。」
僕は紙を拾い上げて、ベッドのテーブルの上にそっと置いた。
「全然上手じゃない…こんな蛇みたいな文字〜(泣)」
「なんで?麻痺してる手で書いたなんてとても思えないよ。練習したら、きっともっと上手になる。」
僕は、動かない手で一生懸命に字を書いていたジミナが愛おしくて、頭をポンと叩いた。
「こんなんじゃあ、絵なんてとっても無理だよぉ…ぐすん。」
「そんなことないよ。またジミナの描いた絵、僕見たいなぁ。」
ジミナは口では諦めると言いながらも、僕が席を外した隙に、こっそりリングを使って鉛筆を握っていたんだ。麻痺した、動かない手で…。
ジミナ、本当に絵が描きたいんだ。
僕はそこに、一筋の希望があるような気がした。
あぁなんとかして、前みたいに絵が描けるようにさせてあげたいなぁと、僕は思った。