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「おはよー!大好きだよー!!」
小さな一軒家に、元気な女の声が響く
コレがこの家の始まり
『…あぁ。』
朝が弱い男は、少し鬱陶しそうに寝ぼけた頭で返事をする
もはや恒例行事となっているこの挨拶
『今日も元気だねー、おはよう』
『おはよ、飽きないねほんと』
シェアハウスをしている幼なじみの男2人も朝からニコニコと元気な女に挨拶をした
「愛を伝えるって大事でしょ?大事なことはちゃんとしとかなくちゃ!」
『んー、そうだね』
満面の笑みで答えた女に、2人の男は顔を合わせ、苦笑いを浮かべてそう言った
そして女から愛を伝えれた男はというと、朝が弱いため、また布団に潜ろうとする
「あー!ダメだよ寝ちゃ!」
「おーきーて!」
『ちっ…』
「舌打ちしたでしょ?!」
『してねぇ』
「した!」
子供がはしゃぐ時の音量で騒ぐ女と眉間に深い皺を作る男
二人はカップルかと思うくらい仲が良く見えるが、付き合ってなどはいない
そんな2人のいつもの日常を男2人は見守っていた
「へへ、大好き…」
何もない今日、朝ごはんを食べ、のんびりと本を読む男に女は言った
『なんだ、今日はやけに積極的だな』
「んー?いつものことでしょ?」
『そうだな。』
目を合わせればふんわり微笑む女に、男は薄く笑い、また本に目を向けた
『買い物行こうぜー!』
「いいよー!行こ行こ!」
コンコンと軽いノックと同時に入ってくる幼なじみの男2人がそう誘えば、二つ返事で了承した女
準備しようとした女は、「あ、」と何か思い出したように止まり男を見る
男は何も言わず、くいっ、と顎で示した
「プレゼント買ってきてあげるねー!」
その声を残しバタン、と扉は閉じた
商店街を歩く女は先程から右から左へと行ったり来たりして、ガラス越しの商品を眺めている
『どうしたんだよ、そんな行ったり来たりして』
「プレゼント選びしてるの」
『今日って誕生日かなんかだったか?』
「ううん」
『じゃあなんで』
最後の問いかけには女は答えない
きっと彼女にとって特別な日なのだと、男は思った
けれど、1つだけ腑に落ちない部分と言えば女の表情が心做しか暗く見えたことだった
ただそれだけが男2人にとって気がかりな部分だった
それでも子供のようにはしゃぎながらプレゼントを選ぶ女を見て、それを聞く気には到底なれなかった
「んー、あの人、何が好きだろう…」
『動物とか以外に好きだったよな』
『そうそう、小動物がな』
「似合わないねー」
『ギャップってやつだよ』
「なるほど」
ちょうど目の前のぬいぐるみ屋のガラスケースに飾られたハムスターのぬいぐるみを見る
男が持っているのを女は想像したが、不自然な組み合わせについ笑みが零れる
「他には?」
『あー、本じゃない?』
「確かに、いっつも読んでるもんね」
男が読むものと言えば、医学系のものが多い
そもそも男が医者を目指していることもあり、医学的な本はそこらじゅうに置いてあった
「でも医学的なことわかんないし、どれが良いとかさっぱり…」
『確かになー、あとはなんだろうな…』
『そうだ、コーヒーとかどうだ?』
「あー、じゃあコーヒー豆見に行こっか」
「行きつけってどこだっけ?」
朝に必ず男が飲むコーヒー
淹れるのは女だが、店へ買いに行くのはこの2人で女は頼まれたことがない
『あ!』
「ん?どうしたの?」
『今日定休日だ』
「…あちゃぁ」
『どうする?プレゼントはまた今度にする?』
そういう男に女は首を降った
「今日決める」
なぜ今日に固執しているのか分からないが、決断した女に2人は『わかった』と、言う他無かった
しかし、結局何も買わず、3人は帰ってきた。
「ただいまー大好きー!」
そう言って抱きつこうとする女に男は顔を顰めた
『まず手を洗え』
「はぁーい」
むくれながらも素直に女は洗面所へ向かいさっさと手を洗う
『なんだ、プレゼントは無しか?』
「んーあるよ」
『そうか』
手に何も持たず、行った時のまんまで戻ってきた女
それを聞けば、プレゼントはあるという。
残り数ページになったその本の内容は入らなかった
誰も気づかぬとこで男は喜んでいた
だからこそ見落とした
数々の違和感に
体のメッセージを
「愛してる」と書かれた紙切れ
少し黄ばんでいて、それほど年季が経っているのだと感じさせられる
今日もそれは大切に男の部屋の棚に、飾られている
朝起きて『おはよう』と『愛してる』を伝えて
この家が始まる
残したもの【完】