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百鬼清風
863
#イケメン
高遠すばる
1,329
#初小説
鬼卍。
70
「レオポルド! 王太子派を抜けて、生徒会の犬になったか!」
トリスタンが怒鳴った。取り巻き達も同意する。
「「「「三年最強も大したことはなかった。あんな男爵令息に負ける程度の男など、最初から必要なかったんだ!」」」」
レオポルド様は取り巻きの一人の腕を捻り上げたまま、トリスタンを見もしない。
「主犯は任せる、アーサー」
「頼む、レオポルド」
お兄様がトリスタンへ向き直った。
「トリスタン・クロウリー。マチルダへの付きまといと、アリスへの集団暴行の容疑で、現行犯逮捕する。抵抗をやめ、教師が来るまで大人しくしていろ」
「俺に命令するな。レオポルドを倒した程度で、自分が強いと思ったか?」
「彼は、お前に比べれば強い」
「男爵令息ごときが、大きな口を叩くな」
トリスタンは拳を構えた。
「大人しく出来ないのであれば、力で制圧する」
お兄様の言葉をさえぎり、先に踏み込んだのはトリスタンだった。
顔を狙った拳を、お兄様はわずかに動いてかわす。二撃目を受け流し、手首を取った。トリスタンの体が回り、次の瞬間には床へ押さえられていた。
「離せ!」
「抵抗をやめろ」
「生意気な!」
床へ押さえられたまま、トリスタンが空いた左手をお兄様へ向けた。
赤い魔法陣が開く。
「お兄様!」
火が一点へ集まり、矢の形に伸びた。鎧さえ焼き抜く殺傷魔法が、目の前にいるお兄様の胸を狙う。
決闘ではない。訓練でもない。人へ放った時点で、校則違反では済まない犯罪だった。
お兄様はトリスタンの手首を蹴り上げた。火の槍が天井へ逸れる。同時に水が広がり、燃え移る前に炎を包んで消した。
熱い蒸気が回廊を覆う。
白く曇った先で、お兄様はトリスタンの左腕を背中へ回していた。両手を完全に封じ、床へ押さえ直す。制服にも肌にも、焼かれた跡はない。
「今の魔法は、ここにいる全員が見ました」
「だから何だ!」
「殺傷魔法を人へ向けた。犯罪です」
「俺には王太子殿下がついている!」
私の言葉を聞いて、頬を床へ押しつけられながらもトリスタンは笑った。
「すぐに無罪放免だ。俺を捕らえても無駄だぞ。教師も役人も、我々を裁けたことなどないのだ」
「殿下の名で消せる罪ではありません」
「男爵家ごときが決めることではない。何も知らんくせに!」
「決めるのは法です」
騒ぎを聞きつけた教師達と学園の衛兵が駆け込んできた。
お兄様は目撃した生徒達と、天井に残った焦げ跡を示した。衛兵はトリスタンの両腕へ魔法封じの枷をはめ、その場で逮捕する。
「俺には王太子殿下がついている! すぐに解放される! こんなことをしても無駄だ!」
連れていかれる間も、トリスタンは叫び続けていた。
アリス様は汚れた制服を払い、教師の質問へ答えようとした。けれど、片腕を上げたところで顔をしかめる。
「アリス様、保健室へ行きましょう」
「先に状況を――」
「説明は私がします」
お兄様が言うと、アリス様はすぐに反論した。
「怪我人は、治療を受けてください」
「まだ歩けるし、大丈夫」
「歩けることと、怪我をしていることは別です」
アリス様が黙った。
「……分かったわ。行きましょう」
彼女は、もう反論しなかった。
その日の夜、帰宅した私達を追うように、近衛騎士団長のガレス・ヘイルがアシュフォード邸を訪れた。
応接室へ通されたガレスは、私とお兄様へ事件後の処置を伝えた。
「トリスタン・クロウリーの退学が決まった。王太子殿下の名を出して放免を求めたが、認められていない」
「ご対応ありがとうございます」
「君が拘束した後は、こちらで適切に処理した。もう学園へ戻ることはない」
ガレスが私へ向き直る。
「マチルダ嬢にも怪我はなかったと聞いている」
「はい。アリス様が守ってくださいました」
「彼女の治療も済んでいる。国内最高の治療魔法師達によって完全に回復している」
ガレスはそれだけを報告すると、余計な事情を話さず帰っていった。
逮捕しても無駄だと笑っていたトリスタンは、王太子殿下の名を出しても釈放されず、そのまま学園を退学になった。
翌朝、生徒会室へ入ると、ジュリアン会長とレオポルド様も退学の知らせを受けていた。
「トリスタンが逮捕されたのは当然です。ですが、王太子派の生徒が釈放されず、そのまま退学になるとは……今回が初めてだ」
ジュリアン会長が言葉を止める。
「これまでは、殿下の名が出れば処分そのものが曖昧になった。今回は大勢が見ている。殺傷魔法まで使っては、さすがの殿下も庇いきれなかったのだろうか」
レオポルド様がそう結論づけると、ジュリアン会長も頷いた。
お兄様が何者なのか、二人は知らない。その意向に逆らうことなど出来はしない。
ただ一つ、昨日までと違うことは学園中へ伝わった。
王太子殿下の名でも、犯した罪は消えなかった。
コメント
1件
うわ、第十四話もすごかったですね…!トリスタンの逮捕、そして退学まで決まったのが本当に痛快でした。「殿下の名で消せる罪ではありません」ってお兄様の一言、めちゃくちゃかっこよかったです。これまで王太子の権力で揉み消されてきたことが、ようやく覆ったんですね。アリス様が無事で本当によかった…!次も楽しみにしてます😊