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〈ストーリー〉
春はもうすぐ終わろうとしているが、吹く風はまだ暖かい。
自分の農地へと行くその道端には、黄色いタンポポが咲き誇っている。その隣には、白くてふわふわの綿毛。
同じ花なのにこんなに姿形が違うなんて不思議だなあ、と彼は悠長に思う。
この丘を下ったら、小麦畑。
もうすぐ収穫どきの黄金色の海を、誇らしく農夫は眺める。今年も大満足の出来だ。
そのとき強い風が吹き、草花を揺らす。小麦の香ばしいかおりが届いてきた気がした。
彼は首のスカーフをきゅっと結び直す。ずっと着けている、大切なもの。
若い農夫はこの地に生まれ、ここで育った。これからも残り続けるつもりだ。
離れたくない、大好きな場所だから。
ふと空を仰ぎ見ると、ちょうど一本の飛行機雲が晴れ渡る空に引かれていく。青い頭上に、くっきりと白い線が浮かび上がる。
あの飛行機が行く先には、きっと彼の愛する人がいる。
彼女はそこで暮らすと決めた。彼は追わなかった。
それぞれの道を行き、それぞれの場所で咲く。
たとえ彼女が華やかな都会で楽しんでいて、こちらは霞んだように映っていても。
それでいいんだと思った。
どこにだって、誰にだって、夢はある。なくたって、これから探せばいい。
そして彼には赤いスカーフがある。
都会の愛する人から届いた、この村の燃える夕陽みたいな赤いスカーフが。
終わり