誕生日おめでとうございます
あとバリ長めです許して
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーキリトリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は人じゃない。
そう思えば思うほど、自分の身体を棄ててしまいたくなる。
国体である自分の性格には、国民性が。
身長や体重には、国民の平均が。
自分の身体は、日本のもので、
日本の中でなにかが起これば、自分の体調や精神にも影響が及ぶ。
かといって、自分の身体の状態が日本に影響されるという訳ではない。
そんな自分がいる意味を、ふと見失いそうで。
「ーい、ーーー!ー
「大和様!!」
『、!』
小さな手に、低い視線から見える懐かしい日々 。
目の前の男が呼ぶのは、いつかの国名。
ここは、?私は……
「先刻から如何された、大和様? 」
私に声をかける男性は、現代の私より幾分か背が低い。
…大昔、まだ王さん以外の国体の存在すら知らなかった頃でしょうか…。
『あぁ…すいません…』
『それにしても、此は一体何を…』
声もやはり幼く、私の視線には青く広い空と人々しか映らない。
何をやっているのかも、さっぱりです…
「何を仰られる!
今は我等が天皇様の古墳をつくっている最中です!」
嗚呼、思い出した。
これは、やはり大昔の私の国だ。
代々続く天皇の墓、即ち古墳を造っているのだろう。
そう考えていると、男性は失礼します、と私を抱き上げた。
「御覧ください。今はまだ人数の少ない国ですが、積み上げ積みあげ、何れは世界をも飲み込む大国に… 」
「…さて、大和様。1000年後の此の国は、どのようになっているのでしょうか。」
男性は、柔らかな笑顔で、私を見下ろした。
「何が起こっても貴方はきっと、それをずっと観ていくのでしょうね。
私も、貴方の元で貴方を支えていたいが、人という生き物に生まれた以上、其は叶わぬ願いだ。」
「私の、いいえ、此処にいる全ての者の為に、繋いでいってほしい。」
そんな彼の願いを聞くと、いてもたってもいられなくて。
『この国は、ずっとつづきます、!
1000年よりも、ずっと、ずっと。』
『あなたが思っているより、たくさんのことが起こるんです!
海のむこうにはもっと、つよい国がいて…』
そう言ってしまいそうで。
けれど私のこの言葉もこの日本では、虚言、絵空事と笑われて終わり。
だから、彼にこう約束した。
『わかりました。あなたの分まで、ぜんぶ、みていきます。』
目が開いたのは、広い屋敷の中。
蹴鞠をしている男児達を眺めながら、私は鏡の前に座っていた
「あら、日本様。正面を向いてくださる?」
若く、されど落ち着いた10代前半の女性の声。
長く艶やかな髪や衣服、鏡に映る女性の面から推測するに今は平安時代のいつか。
少し伸びた私の髪を、櫛で梳かしながら微笑む女性。
随分と時が経っている…?
それにしても、何故この方は悲しそうな顔をしているのでしょうか…
「日本様、私ね、結婚することになったの。」
「相手は現天皇様のご子息よ。」
「…お姉様達はもう全員お嫁に行っちゃったから、私が最後なの。」
「綺麗なお着物を着て、おいしいご飯を食べて、何も不自由なんてないわ。」
「だけど…」
『、!』
「…だけど、もうちょっと子供でいたかったなぁ…」
しゃくりあげるように、ぽつぽつと涙を流した。
綺麗に着飾った大人の様相でも、あどけなさが残る。
まだ私の手は小さくて、彼女の頭を撫でるには届かない。
「もう、会えなくなっちゃうかなぁ」
うっすらと涙を流しながらそう呟いた。
『大丈夫ですよ。』
『またいつかどこかで会えます』
『ずっと、待ってますから』
視界が滲む。
身体は子供で、涙腺が緩いらしい
「…そっかぁ、日本様、国だもんね」
「あ、もうお琴の時間だわ。」
「じゃあ…また会おうね、日本様!」
雨の降りやまない日。
焼き魚や野菜の煮物…現代の私の国では食べられることも少なくなった和食。
目の前にいるのは、髪をまげに結った武士…
いや、それよりももっと名のある方でしょうか…
「なにを躊躇っておられる、貴方のための食事だ。
冷めないうちに食べてしまえ。」
『あの…失礼ですが、ここは…』
「ご冗談を!先刻紹介したばかりだろう…
ここは、私の城でございます。立派でしょう…幕府もうなる名工に造らせたんです。」
ここは、江戸時代ぐらいだろうか。
城は中からみてもかなりの大きさで、きっと目の前の男性は大名なのだろう。
「巷で噂の青年…幕府が保護していると聞いていたが、まさか我が国の化身とは!」
「貴方と城下町で出会った時の無礼をどうか、この食事でお許しいただければ…」
『面をあげてください。
私はそう、大層なものではありませんよ。
国の象徴でもなければ、政治を動かすものでもない。
ただ、この国の状態が全て私の身体になるだけで…』
『何者でも、ないんです。』
口が勝手に言葉を発する。
言うにつれ悲しくなっていくのが、どうして分からないのか。
「そう落ち込むことないでしょう、今は土砂降りだ。
ここまで陰気になってしまったら、旨い飯も味気がなくなってしまう!
さて、どうぞどうぞ、お召し上がりください」
そう促されるままに、用意された食事を口にした。
食事は確かに舌鼓を打つ程の味で、脳とは反対に箸は止まらない。
「お気に召されたか!それは何よりだ!」
「…それにしても、これからの日本はどうなっていくのだろうか。」
「天皇は幕府の言いなり、武士が政権を握っている。
無論、我々にとってはそれが良いのだろうが…」
「だが、これからまた新しい時代が来る。
そうなったとき、時代に追い残されることだけは避けたいからな!」
そう快活に笑う彼の瞳は、今ではなく、未来をみているようだった。
「国の化身…つまりは国体である貴方は、永遠の命を持つのだろうか」
「情けないが私には、今のこの国を変える力なんぞない。
だがこれから生まれる誰かが、この国を変えていくんだろう。」
「私がいなくなった後も、この国を、支えてほしい。」
彼はまた、私がこの国を支えているわけではないがな、と冗談交じりに言った。
なにものでもない、と口にした私に、そんな大役を任せるのだろうか。
ただ、彼の瞳を裏切ることは出来なかった。
『できるかは分かりません…
ただ、貴方がいなくなっても、この国は続いていきますよ。』
そう言うと、彼は私の頭に手を伸ばして豪快に撫でた。
頭を撫でる手を離して、慌てて謝ったのはその後すぐの話。
「さぁ、往きましょう、日本…いや、本田さん。」
次に見えた光景…いや声は、私の名を呼んでいた。
日本ではなく、本田。それは最近決めた国体自身の名前。
この頃に決めた…ということは明治近くでしょうか…。
シルクハットや黒のスーツ、そこに着物を織り混ぜた和洋折衷の服装で行き交う人々。
長い髭を蓄えた老紳士は、政府の人間だろうか、私の前を先導している。
「ここは、かの有名な鹿鳴館でございます。
英国のコンドルにより造られ、現在日本の社交場となっており、欧米と並ぶための重要な一手となるでしょう。」
「近年欧米諸国は勢力を増しています。
我々も多くの国と条約を改正したとはいえ、このままでは欧米諸国の波に飲まれてしまう。」
「英国との同盟ですが、あちらの国体とも交友を深めているようで…」
「国体は国と国とを繋ぐ大切な存在です。
本田さんには頭が上がりません…」
そう頭を掻きながら苦笑する老紳士は、昔を懐かしむと同時に、これからの日本を見据えていた。
『…重荷を背負っているような気がするんです。 』
『長年国名で呼ばれている自身の名を変えて、人のように生活できるようになったとはいえ、
まだ自分の存在に意義を見いだせません。 』
『私が何か動いても、この小さな島国1つなにも変わらない。』
また勝手に口が動く。
胸が苦しくて、今にも逃げ出してしまいたい。
「なにか、してくださることがありがたいんです。」
そう老紳士は云った。
「日本の国体である貴方はこの国の全てを観てきた。
本来なら家で寛いで、私たちをこきあつかう程の存在です。
それなのに…貴方はこの国の民を想い、彼らのために何ができるかを常に考えている。」
「それが、どれだけ嬉しいことか… 」
孫を観るような、神をみるような、言葉に言い表しがたい彼の瞳には、しっかりと私が映っていた。
彼がいう、国民を思う、ちっぽけな国体の姿がー
「日本はきっと、欧米に並ぶ…いや、欧米をも飲み込むと考えています。」
「そのときに私がいなくても…貴方はきっと、国民のことを想い続けているでしょう?」
「その気持ちがあれば、未来の日本も安泰でしょうな」
ーー頭が、いたい
テレビの砂嵐が、、 ラジオの声が、、脳にかかって疼く、
ごめんなさい、何も出来なかった。
折角彼らに並んだのに…
沢山、沢山消えていく…
「本田さん、いってきます」
…いかないで……
何故私は此処にいるの、
胃の中が何かでまわって、気持ち悪い
まだ、戦えるから、
どうかその、白旗をしまってーーー
もう、、彼らを傷つけたくないから…
紅く染まった空が、ゆらゆら揺れるーーー
「本田さん」
目が覚めたのは、初夏の眩しい日差しの中。
目の前には、眼鏡を掛けた青年。
まわりに生い茂る草木が、木漏れ日をつくっている。
「気分が、優れませんか」
青年が、顔を覗き込む
「やはり僕の家ではなく、他のところに行った方が良かったのでは…」
まだそう心配する青年も、若いのに、顔は白く、痩せ細っている。
『すいません…少し頭痛が…
でももう、収まりました。
ご心配をお掛けして、申し訳ありません。』
「そうですか、それは良かった。」
「あ、そういえば…やはり都市の復興は未だ未だとのことでした。」
「暫くは、此処での生活ですかねぇ」
自分がしでかしてしまったこと。
脳裏に焼き付いて離れない其が、青年の住居を奪った。
いや、青年だけでなく、沢山の国民の命を…
なにが、”国民を想う”か。
そう考えると、また頭が疼く。
「…あ、また本田さん、余計なこと考えているでしょう。
僕はここ、わりと気に入ってますよ
いまはしがない物書きですが、やはり自然の中にいた方が筆が進むんです。」
「それに…今の日本だって、決して悪いことだけではないと思うんです。
…確かに、生活が困窮して、彷徨ってる人がいる。
けれど、今があるから、また次の日本へ繋がっていくのでしょう?」
「それが時代ってものです……って、本田さんの前で言うことじゃないですけど」
少し微笑んで、咳をした。
えずいて、苦しそうに顔を歪めた。
すぐに彼にかけよって、背中をさすった。
もうそれぐらいしか出来ないことは、分かっているから。
呼吸を整えて、青年は
「ほら、助けてくれた。」
と言った。
何を言っているのか分からず、暫く戸惑っていると、
「国民、国民って言うけれど、そんなに大勢でしょうか
確かにこの国の何百万もの人も国民です。
だけど、目の前にいる僕だってほら、国民でしょう?」
「あなたは国民を守れなかったと嘆くけれど、今ここで、1人の国民を確かに助けた。」
「それだけで、あなたは立派な日本の国体でしょう」
やっぱり偉そうですね、とはにかんで彼はまた、咳をひとつした。
それがどれだけ私の心を軽くしたのか、彼はまだ気づかないでしょうね。
「ーい、」
「ーー!ーえて、ー?」
目が覚めたのは、時代遅れの和室と、それに似合わない金髪の男性。
恐らくオーダーメイドであろうスーツを身に纏っている。
これは、いつの時代…??
「おい、日本!!」
『、ぁ』
脳に何かが走ったように、現実に引き戻される。
現在に、今の日本に。
「…すまん、吃驚させたな。
だけど、お前がボーッとしてるのも悪いんだぞ…?
てっきり体調が悪いのかと…」
『あぁ…物思いに耽っていました。
申し訳ありません。心配には及びませんよ。 』
「それで、さっきの話の続きなんだが…」
目の前にいる男性はイギリスの国体、アーサーさん。
やはりあれは空想なのか、先程の話等全く覚えていない…
『お前の家、なんか増えてないか?』
「えっ?」
『いや、前々から変なゴースト?みたいなのは居たんだが…なんか今日は人間っぽいのが5人…
はっきり見えるのがそれってだけで、他にも何人もいるぞ。』
「元から居たんですか…?」
アーサーさんは元々霊感があるお方で、私には見えない何かしらが見えているのだそう。
それにしても…5人…?
『あの…その5人って…』
「ん?あぁ…えっと…」
「1人目は…ツインテール…?独特な髪型の、男性だな。お前より背が低い。」
「2人目は…幼い子供…失礼、レディだ。キモノを着てて、肌が真っ白。 」
「3人目は、おお、サムライじゃないか!チョンマゲ、だろ?格好いいな…」
「4人目は…男性だ。お年を召されているが、かなり厳格な雰囲気だ。」
「5人目、最後だな。まだ若い、青年だよ。ただ、病弱なのだろうか、顔色が悪い。」
全員、知ってる。
私は彼らに、会ったことがある。
彼らの分を、託されたと思ってた。
それが、国体という自分の存在を、消してしまいたいほど辛くて。
彼らは居ないのに、今さら何をすれば良いのか分からなくて。
無責任にも程があると、 輪廻転生なんて嘘だと、何度思ったことか。
違う。
彼らはずっと…
ずっと私の側にいた。
無責任で、どうしようもないのは私だ。
私の国民のことを、信じられなかった。
「…あぁ、え?
全員一緒じゃないか、それじゃ。
…本当に良いのか?…分かったよ。後で文句言っても知らねえからな」
『…イギリスさん?』
「…この度は、建国記念日並びに本田菊様の生誕をお祝い申し上げます。
我が国は日本国の更なる発展を心よりお祈りしています。
どうぞ、国体様におかれましてもご無理のないよう、お過ごしください。」
「…っと、これが俺の国からな。
で、日本…じゃなくて本田。誕生日おめでとう。
俺からは…スコーンとネクタイだ。
これからもよろしく頼む…って、マジでお祝いしてる訳じゃねえからな!!皮肉だから!! 」
『…!ふふ、ありがとうございます』
「あと…」
“日本さん、お誕生日おめでとう。
あなたに会えて、本当に良かった。”
イギリスという国からの言葉。アーサー・カークランドという1人の国体からの言葉。
そして、これまでに出会った、沢山の人の言葉。
生まれて、死んでいった、沢山の人。
あなた達がいることで、私は今日も生きているんですよ。
「本田?お前、泣いてるぞ、」
『貰っているのは、私の方でしたね…』
『”あなたに会えて、本当に良かった!“』
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