「どうしました? 何だか神妙そうな顔をしていますよ?」
「いえ……」
「ふふふっ、ロキュンテからどうやって来たか気になっているんですよね?」
「いや、まぁ……」
気にならないと言えば嘘になる。
しかし、
「その前に……ルティシア!」
「は、はいっっ!!」
「あなたはパパのお手伝いをしてきてね」
「わっ、分かりましたっっ!」
ルシナさんの言葉に素直に従って、ルティは慌てて村の中へと駆けて行く。やはり母親の迫力は半端じゃないな。
「さて、アックさん。まずはおめでとう! よく頑張りましたね」
「――はい?」
「ご自分の国を取り戻しましたよね?」
「何故それを……」
「そうですね、私が占術士だから……と言えば納得出来ますか?」
占術か。聞いたことがあるような無いような。いずれにしてもルシナさんは不思議な力の持ち主だった。娘であるルティにも不思議さがあるし、やはり親子だな。
「でも、確実に分かるものではないんですよね?」
「ええ。占い、先見の明……それらは先を見通すことが出来ますが、上手く行くかは本人次第です」
「なるほど。では、ここへはどうやって来れたんです?」
結局は自分次第ということか。
「アックさんは、薬師《くすし》の村を覚えていますか?」
「確かドワーフしか入れない……でしたっけ?」
「それとスキルを極めた者ですね。その様子ではあまり覚えていないようですね」
「濃い霧で何も見えなかったことくらいしか……」
確かルシナさんのお姉さんがいたはずだ。その時点ではスキルが足りないから村には入れないとか散々だったが。
「私たちはまさしく幻霧のネーヴェル村から来たんですよ!」
「――ということは、村は全く未知の土地にあった。そういうことですか?」
何から何まで謎多き人だなこの人は。一体どこまでのことを知っているんだ。
「そうですね。ここファレワル村もそうですし、この先の町も人知れぬ地なのです。アックさんがここへたどり着いているということは、エルフに認められたのですね?」
「は、はい」
「でしたら背負っている獣人の彼女と眠っている神剣の子を起こすついでに、アックさんも入りに行きましょう!」
「えっ? 入りに……?」
どう考えても温泉の話だと思われるが、温泉に入れば何か得られるのだろうか。しかもフィーサとシーニャのこともルシナさんには分かっているようだ。
ルシナさんの案内でおれはファレワル村に足を踏み入れる。村の中も至る所で間欠泉の水蒸気が噴き上がっていて、村に住んでいる人間は極端に少ない。そこでルティの姿はすぐに見つけることが出来たものの、ドワーフの親父さんであるテクスと汗を掻くような作業を何度も繰り返していた。
「そういえばルティシアですけど、最近弱くなってませんか?」
「……そこまでは」
寒さにはめっぽう弱かったのと体力が無くなっていたくらいだよな?
「いいえ、あの子は故郷にいた時よりも弱っていますよ。気を遣ってくれているのですね」
「いや……」
「そんな予感もありまして、あの人と一緒にお湯汲みをさせています」
「それだけで強く?」
「熱い所で熱い作業をするだけで努力を思い出すはずですから」
最近は戦わせるよりも後方支援を任せていた。しかしルシナさんの言い方だと前に出て戦わせた方がいいように聞こえる。
「それにしても物凄い汗を流していますね……」
「――ですので、アックさん」
「はい」
「あの子とこの子たちで、奥にある湧泉に入って来てください!」
「……温泉ですよね?」
汗をかくために温泉か。
「そうですよ~。ここは間欠泉のおかげで自然に湧出してますから」
「ルティと彼女たちとおれでですか?」
「何か問題でも?」
問題ありまくりだ。
今までは理性を保ったままでルティに背中を流されたくらいで終えているのに、目覚めていないシーニャとフィーサを入れるだけでなくルティも一緒となると、問題が発生するのは必然。
「せめてルティは、ルシナさんとご一緒にどうですか?」
「私たちは入る必要が無いので遠慮なさらず」
「……どういう意味です?」
ルシナさんを問い詰めるつもりは無いが、やはり何かあるような口ぶりだ。首を傾げていると、入り口で声をかけてくれた彼が話しかけてきた。
「ファレワル村の湧泉は人生最期の温泉だからだよ」
「死に際に入る温泉!?」
「ファレワル村の先にある町は命を落とすくらい危険な所。その前に湧泉で運気上昇をさせておけば、助かるかもしれない……という意味があるのだよ」
ルシナさんをちらりと見ると、深く頷いている。
そこまで危険な町なのか?
そうなると理性は抜きにしてルティたちと汗を流しながら運気を上昇させるしか無さそうだ。
「アック様~! お待たせしましたっ!!」
「お、おぅ……」
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