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音響市の南側、静かな宗教施設。
柔らかな光がステンドグラス越しに差し込むその空間に、ひとりの少女の歌声が優しく響いていた。
イム(心の声)(自分の声は──誰かに届くだろうか……)
イム「あぁ……ああ〜……あ〜……ぁあ……」
声は風のように、祈りのように揺れる。
教会に集う人々は静かに目を閉じ、耳を澄ませた。
(歌は、願いだ。自分にとって──それがすべて)
夕暮れ。礼拝を終えて、イムは静かに道を歩いていた。
通い慣れた道のはずなのに、今日はどこか空気が重い。
イム(……なんか……変な音がする)
ジリジリ……ジィィ……
イム(足を止める)(ノイズ……まさか、あれが……)
次の瞬間、黒い霧のようなノイズが周囲に渦巻いた。
イムは息を呑むと、すぐに駆け出す。
角を曲がる。走る。走る。
けれど──行き止まり。
イム「……っ……!」
ノイズがじりじりと迫る。
足も、声も、震える。息が詰まりそうになるその時──
ザッパーン!
ノイズの塊に、光の弾が撃ち込まれた。
きらきらと光る軌道を描きながら、空中に浮かぶ少女が現れる。
???(くるくる回りながら)「くるくるくーるくる♪ や〜っと見つけたあ〜!」
イム「……え……」
???「あたしはクルル!クリオネ型管理者、No.143っ!……でさ、イムちゃん、歌える?」
イム(目を見開く)「……な、なんで自分の名前を……?」
クルルはくるりと回って、にっこり。
クルル「昨日から、ずっと見てたもん♪」
ノイズが再び集まり始める。
クルル(真剣な目で)「歌って。あんたの声、届くから。」
イムは拳を握る。
足が震えていた。でも──
イム(心の声)(自分には、何ができる……?)
喉を震わせる
「あぁ……ああ〜……あ〜〜あぁ……」
その瞬間──
ノイズが波打ち、白い光の粒へと姿を変えて消えていった。
クルル「やっぱり……声、届いたねっ!」
イム(小さく呟く)「……ありがとう……」
翌日。
ムノ「ねぇねぇイムちゃん〜!昨日、帰り大丈夫だったぁ?」
イム「……うん。ちょっと……変なものを見ただけ。」
ユユ(じっとイムを見る)「……まさか、歌った?」
イム(小さく頷く)「……あの“ノイズ”ってやつ……自分の声で、消えた気がする」
ムノとユユが目を見合わせる。
ムノ「うわぁ!おそろーい!ムノも歌ったら消えたんだ〜!」
ユユ「じゃあ、君にも管理者が……」
イム(こくんと頷いて)「……クリオネの……クルルっていう子。変な喋り方だった」
ムノ「へぇ〜!クリオネかあ!かわいいね!」
ユユ「(つぶやく)これで……三人目か……」
廃墟の屋上。風がビルの隙間を吹き抜けていく。
クラネイスが静かに塔の方を見ていた。
隣にはセカイが立っている。
セカイ「No.143まで起動したみたい…。……懐かしいね……」
クラネイス(睨むように)「お前……あまり余計なことは言うな」
セカイ(小さく笑って)「別に。言うつもりはない。“あの時”のことも──」
クラネイス「……言うな」
風の中、ふたりの影がゆっくりと揺れた。