テラーノベル
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画面をタップする。
一瞬、暗くなったあと。
映像が映し出された。
『こんばんは』
そこには。
いつもと変わらない仁人がいた。
少し照れくさそうに笑って、カメラへ手を振る。
『急に始めてごめんね』
『みんな、今日も一日お疲れさま』
勇斗は何も言わなかった。
隣では、柔太郎も静かに画面を見つめている。
『今日はね、会議してた』
『結構長かったかな』
流れていくコメントを読みながら。
仁人が笑う。
『ご飯? 食べた食べた』
『俺、そんな心配される?』
いつもの仁人だった。
いつもの口調で。
いつものようにファンと言葉を交わしている。
隣で、柔太郎が小さく首を傾げた。
「普通……だね」
「……違う」
ほとんど間を置かず、勇斗は答えていた。
「え?」
「緊張してる」
柔太郎がこちらを見る気配がした。
けれど、勇斗は画面から目を離さない。
「笑い方が違う」
「……そう?」
「うん。」
分かる。
いつもより、少しだけ笑顔が硬い。
何でもないところで息を吸う回数も多い。
声だって。
ほんの少しだけ、いつもと違う。
たぶん。
他の人なら気づかない程度の違いだった。
それでも、勇斗には分かった。
長い間。
誰より近くで見てきた人だから。
まして今は。
その小さな違和感一つでさえ、見過ごしたくないくらい大切な人だった。
「……何か言おうとしてる。」
口にすると。
胸の奥にあった嫌な予感が、さらに大きくなった。
柔太郎は何も言わなかった。
けれど。
隣から画面へ視線を戻す気配だけがした。
勇斗も、そのまま仁人を見つめる。
さっき見たコメント。
――二人とも幸せになってね。
――勇斗くんだけ“じん”って呼べるのずるい。
――恋人特権。
そして今。
このタイミングで始められた、仁人のライブ。
勇斗の胸の奥では。
嫌な予感が、もうほとんど確信に変わっていた。
「仁人」
小さく名前を呼ぶ。
#そのじん
笑う門には福来る
1,757
1,337
#nmnm注意
nanana

9,826
66
頼むから。
違ってくれ。
そんな思いとは裏腹に。
映像の中の仁人から、少しずつ笑顔が消えていった。
コメントを追っていた視線が止まる。
沈黙。
数秒だった。
それなのに。
勇斗には、ひどく長く感じられた。
仁人がゆっくり息を吸う。
その瞬間。
勇斗の手に力が入った。
知っている。
この顔を。
仁人が。
怖くても。
何かを決めた時の顔だった。
『……今日』
声が変わる。
柔太郎の表情も変わった。
『急にライブ始めたのは』
一度。
仁人が唇を結ぶ。
『俺から、みんなに伝えたいことがあるからです』
「……」
勇斗は目を閉じたくなった。
けれど。
できなかった。
見なければいけない。
仁人が。
自分に何も言わずに。
一人で何をしようとしたのか。
『昨日から』
『勇斗の配信のことで、たくさん心配かけてると思います』
柔太郎がわずかに身を起こした。
「……はやちゃん」
勇斗は答えない。
画面だけを見ていた。
『昨日』
仁人が息を吸う。
『勇斗が電話してた相手』
勇斗の呼吸が止まった。
分かっていた。
もう。
分かっていたはずなのに。
実際にその瞬間が来ると。
心臓が痛いほど鳴った。
「……仁人」
今度は。
さっきよりも小さな声だった。
やめろ。
言わなくていい。
これは俺が何とかするから。
お前まで出てこなくていい。
昨日まで。
自分の未来を守るために離れようとしていた人が。
どうして。
今度は自分から。
こんな場所へ出ようとしている。
止めたかった。
今すぐ。
画面の向こうへ行って。
そのスマートフォンを取り上げたかった。
けれど。
これはもう。
終わった配信だった。
何を思っても。
何を言っても。
仁人には届かない。
映像は。
止まらない。
画面の中で。
仁人が真っすぐカメラを見た。
怖いはずなのに。
逃げなかった。
そして。
『……俺です』
柔太郎が息を呑んだ。
「……え?」
勇斗は動かなかった。
驚かなかった。
驚けなかった。
ただ。
胸の奥を。
強く掴まれたような気がした。
やっぱり。
仁人は。
自分から言った。
『俺と』
仁人が一度、目を閉じる。
勇斗の指が。
スマートフォンの端を強く握った。
そして。
『佐野勇斗は、お付き合いしています』
「……」
完全な沈黙だった。
柔太郎は。
画面と勇斗を交互に見る。
「……はやちゃん」
勇斗は答えない。
視線を逸らすこともできなかった。
画面の中には。
自分がずっと。
誰にも知られないように守ろうとしていた人がいる。
その仁人が。
今。
自分から。
一番怖がっていたはずの場所へ立っていた。
勇斗の胸に浮かんだのは。
怒りではなかった。
どうして。
その一言だった。
どうして。
そこまでしたんだよ。
そして。
次に仁人が口にした言葉で。
その答えを知ることになる。
『今回のこと』
仁人が真っすぐカメラを見る。
『勇斗だけを責めないでほしいです』
勇斗の表情が。
止まった。
コメント
1件
あああああ第14話読み終わったよ〜〜!!😭💦💦 仁人が自分の口で「俺です」って言ったシーン、マジで心臓止まるかと思った…!勇斗がずっと守ろうとしてたのに、仁人の方が先に飛び込んでいくの、尊すぎて泣ける。しかも「勇斗だけを責めないで」って…そこまで想ってるの泣くわ🥺💕 二人の関係がようやく表に出た瞬間、勇斗の「どうして」がめっちゃ刺さった。この先どうなるんだろ、続きが気になって仕方ないよ〜!