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#めめなべ
330
次の日も、その次の日も。
病室のドアは、決まった時間にノックされる。
コン、コン。
「…失礼します。」
〇〇が顔を上げると、そこにいるのはーー
目黒蓮。
最初の日。
「…こんにちは」
少し距離を取ったまま、静かに頭を下げる。
〇〇は、ベッドの上で、小さく返す。
「…こんにちは」
まだ、ぎこちない空気。
“知らない人”と”忘れられた人”。
その間にある、埋まらない距離。
「今日、天気いいよ」
窓の方を見ながら、目黒蓮が言う。
「…そうなんですか」
〇〇は、外を見る。
青い空と、海。
でも、やっぱり感情は薄い。
「少しだけ、外行く?」
〇〇は少し迷ってからーー
「…いいです」
小さく断る。
無理はしない。
それも、ちゃんと分かっている。
「そっか」
それ以上は踏み込まない。
ただ、同じ空間にいる。
それだけ。
2日目。
3日目。
4日目ーー
「…また、来たんですか」
少しだけ、言い方が変わる。
ほんの少しだけ、柔らかくなる。
「うん、また来た」
当たり前みたいに答える目黒蓮。
「…暇なんですか」
「いや、忙しい」
真顔で返されて、〇〇は少しだけ戸惑う。
「…じゃあ、なんで」
その問いに、目黒蓮は少しだけ笑う。
「来たいから」
シンプルな答え。
でも、まっすぐで。
〇〇は、何も言えなくなる。
分からないはずなのに。
その言葉が、少しだけ胸に残る。
1週間後。
「…それ、なんですか」
〇〇が指さしたのは、目黒蓮が持ってきた小さな紙袋。
「差し入れ」
「…私に?」
「うん」
中に入っていたのは、小さな焼き菓子。
「無理して食べなくていいけど」
「…」
〇〇は、少しだけそれを見る。
「食べよっか笑」
〇〇は、少しだけ一口食べる。
「…どう?」
「…わかりません」
正直な答え。
でもーー
少しだけ、間があって。
「…でも」
「…嫌じゃないです」
その一言に、目黒蓮の目がわずかに細くなる。
「そっか」
嬉しそうに、でも抑えた声で。
さらに数日後。
〇〇は、窓の外を見ていた。
その隣に、自然と立つ目黒蓮。
前みたいに、距離はもうない。
「…今日、波高いですね」
〇〇がぽつりと言う。
目黒蓮は、一瞬だけ驚く。
「…見てたの?」
「…なんとなく」
少しずつ。
本当に少しずつ。
世界を見ようとしている。
「…ねぇ」
〇〇が、小さく呼ぶ。
「…その」
「ん?」
「…めぐろ、さん」
その呼び方に、目黒蓮の心臓が強く鳴る。
「…なに?」
できるだけ、優しく返す。
「…なんで、毎日来るんですか」
何度も聞かれた質問。
でも、今日は少し違う。
“拒絶”じゃなくて、”知りたい”の声。
目黒蓮は、少しだけ考えてから言う。
「…一緒にいたいから」
〇〇は、じっと目黒蓮を見る。
「…変な人ですね」
小さく、でも確かに。
ほんの少しだけーー
笑った。
その瞬間。
目黒蓮の中で、何かがほどける。
「…よく言われる」
軽く笑い返す。
まだ思い出してはいない。
名前も、関係も、全部。
それでもーー
“この人がいると、少し楽”
〇〇の中に、確実にそれが芽生え始めていた。
窓の外、同じ海。
並んで立つふたりの距離は、
昨日より、ほんの少しだけ近くなっていた。