テラーノベル
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夕方の病院。
オレンジ色の光が、廊下をやわらかく照らしている。
目黒蓮は、仕事終わりのまま、その足で病院に来ていた。
いつも通り、病室に向かおうとしたときーー
「目黒さん」
後ろから呼び止められる。
振り返ると、担当の医師が立っていた。
「少し、お話いいですか」
「…はい」
どこかいつもと違う空気に、自然と表情が引き締まる。
案内されたのは、前と同じ診察室。
椅子に座ると、医師が静かに口を開いた。
「最近の〇〇さんの様子についてです」
その一言で、目黒蓮の心臓がわずかに速くなる。
「…何か、ありました」
医師は、穏やかに続ける。
「良い変化もあります」
「…え」
「表情や反応が、少しずつ増えています」
海を見ていたこと。
焼き菓子を食べたこと。
小さく笑ったあの瞬間。
全部が頭に浮かぶ。
「ただーー」
その続きに、空気が変わる。
「一つ、気になる点があります」
目黒蓮の手が、無意識に握られる。
「…なんですか」
「目黒さんがいない時間帯に、不安定になることがあります」
「…え?」
思わず、聞き返す。
「落ち着かなくなったり、そわそわしたり。時には、軽い混乱状態になることもあります」
胸が、ドクンと大きく鳴る。
「…俺が、いない時に?」
「はい」
医師は頷く。
「特に、毎日来ていた時間を過ぎても来ないときに、その傾向が強いです」
蓮の頭に、今日のスケジュールがよぎる。
少し遅れた日が、あった。
「…その時、〇〇さんは」
喉が乾く。
「”あの人は?”と、周りに尋ねています」
その一言で、息が止まる。
「名前は分からないはずなのに、“毎日来る人”を探しているんです」
目黒蓮は、何も言えなくなる。
「記憶は戻っていません」
医師は静かに言う。
「ですが、“安心できる存在”として、強く認識されている状態です」
〇〇の言葉が浮かぶ。
“変な人ですね”
“なんで毎日来るんですか”
「…依存、ですか」
やっと出た声。
医師は少し考えてから答える。
「近い部分はあります」
「ただし、それは悪い意味だけではありません」
目黒蓮が顔を上げる。
「不安定な状態の中で、“安心できる対象”があること自体は、回復にとって大切な要素です」
「…」
「ただーーその存在が急にいなくなると、強い不安を引き起こす可能性があります」
#めめなべ
おその★
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#目黒蓮
コアラと木の実
61
コアラと木の実
875
重い言葉。
でも、現実。
目黒蓮はゆっくり息を吐く。
「…じゃあ俺」
少しだけ笑う。
「ちゃんと来ないとダメですね」
医師は、穏やかに頷く。
「無理のない範囲で、継続的に関わっていただけると助かります」
ドアに手をかけて、目黒蓮は一度止まる。
「…あの」
振り返る。
「俺のこと、思い出さなくても 」
少しだけ間を置いて。
「このままでも、いいんですかね」
医師は静かに答える。
「”今の関係”が、彼女にとって意味のあるものなら」
「それも、一つの形です」
廊下に出る。
胸の奥が、じんわり熱い。
「…なんだよ、それ」
小さく笑う。
思い出してほしい。
でもーー
「…それでも、いいか」
“名前も知らない誰か”としてでも。
“安心できる人”でいられるなら。
病室のドアの前。
一度、深呼吸する。
コン、コン。
「…失礼します」
ドアを開けた瞬間。
「…っ」
ベッドの上の〇〇が、はっと顔を上げる。
「…来た」
その一言。
名前も、関係も知らないのに。
確かに、”待っていた”声だった。
目黒蓮の胸が、強く締め付けられる。
「…ただいま」
思わずこぼれた言葉。
〇〇は少しだけ首を傾げてーー
「…おかえり、ですか?」
ぎこちないけど。
でも、どこか温かい。
「…うん」
小さく笑う。
“知らないふたり”として、同じ時間を過ごす。
でも確実にーー
“特別な存在”にはなっていた。
コメント
1件
みぅです🥀 第6話、読みました…。 「忘れられても、"安心できる存在"として覚えられてる」って、すごく切なくて、それでいて温かい描写だなって思いました。 特に、医師との会話のあと、病室で「来た」「ただいま」「おかえりですか?」のやりとり…あそこ、胸がぎゅっとなりました。 名前も知らないのに、待ってる。 それって、もう確かに“特別”だよね。 記憶がなくても、心は覚えてるんだなって。 じんわり好きな回でした🌙