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緑山 紫苑
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魔法を躱しながら接近してくる剣士と、その後ろには、膨大な魔力で術式を組み始めている魔法使い。
修行ではない。久々の”実戦”を感じたジャヌスは、少しばかり気分が高揚していた。
「さて……どうしますかね」
魔法を避けながら接近するフィニス。ジャヌスの魔法と魔法の間を狙い、持っていた剣を再び投げつけた。
1度目に通用しなかった戦法を再び使ってきたフィニスに、少しだけ落胆するジャヌス。先ほどと同様、杖で剣を弾く。
ガキン!!
弾いた剣と同じ軌道。ナイフがジャヌス目掛けて飛んできていた。
シュッ
「これは……少しだけ驚きました」
さっきの落胆は撤回。そんなことを思い、少しだけ笑うジャヌス。投げられたナイフは人差し指と中指の間に綺麗に収まっていた。
「それを指で止めるか普通!」
武器を失い、その場で立ち止まるフィニス。そのわずかな隙を狙い、ジャヌスはキラキラと輝く霧のようなものを発生させ、術式を構築していく。
「あっ!これじゃ起こりが見えねーじゃん!」
「あんたは黙って見てなさい!」
上空からそう言い放つと、ニティアは巨大な竜巻を発生させた。
その巨大な暴風により、ジャヌスの発生させた霧が晴れるや否や……大きな氷の塊がフィニスに向かって飛んできた。
ギリギリ反応できたフィニス。大きな氷を避けようと横に転がろうとした瞬間。
パリーン
直前で氷が分散し、フィニスに直撃する。
「ガハッ」
「フィニス!!」
吹き飛ばされて倒れ込んだフィニスに視線が向き、集中力が途切れたニティア。
そこを狙い、大きな火柱を竜巻の上に放つ。
「え、なに?」
自分ではなく、上空に打ち上げられた魔法に混乱するニティア。
ニティアが上に注目している間……先ほどフィニスに打ちつけた氷の欠片が地面を伝い、竜巻の下まで氷結を伸ばしていた。
「ニティア。チェックメイトです」
「!?」
次の瞬間、巨大な竜巻が徐々に勢いを失い、ジャヌスに届くことなく消えていった。
唖然とするニティア。
そして……
ゴチン!
「いったぁぁぁぁぁぁい!!」
遠隔操作された杖に頭を殴られた。
「竜巻は回転した上昇気流が力の源です。たとえ魔力で作り出したとしても、その原理までは変わりません。だから逆に下を冷やし上を温めると……?」
「竜巻は……弱くなります」
「御名答」
戦意を喪失したニティアがゆっくりと降りてくる。
「さて、講評はフィニスを回復させてからですね」
そう言い、気絶しているフィニスに回復の魔法をかけるジャヌス。
「ジャヌスさん」
「何ですか?」
先の魔族の戦いでできた傷から出血をしている。ニティアは上から見ていて何となくわかっていた。まだ動けるとはいえ、フィニスの身体が万全じゃ無いことに。
「私に……回復魔法を教えてくれませんか?」
ニティアの顔をじっと見つめるジャヌス。しばらくニティアを見つめた後、ふっと笑う。
「無理ですね」
⸻
丸太に座るニティアと、地面に倒れ込んでいるフィニス。
結界を解いたジャヌスがフィニスの前に立つ。
「フィニス。怪我をしているのによく頑張りましたね。ですが、あなたは3回死んでいます」
「……」
「杖で殴られた時。剣が股下に突き刺さった時。そして、氷が直撃した時」
「はい」
視線を落とすフィニス。
「あなたは目がいい。”起こり”についてはほぼ完璧に見えているでしょう。ですが、”起こり”が見えない魔法。”起こり”を見せない戦法。そして、”起こり”を見ても交わしきれない魔法……」
「……」
「くれぐれも”起こり”だけに頼るような戦いはしないように」
「はい……」
「ですが、ナイフの投擲。あれは少しだけ驚きました」
そう言って頭を撫でるジャヌス。
「先生、強すぎるって……」
クスリと笑ったジャヌスはニティアに目を向ける。
「ニティア」
「はい」
「貴方は魔法の天才です。術式構築スピードも魔力量も。私より遥かに上をいっています。しかし……貴方は魔法に頼りすぎです」
「……」
「魔法の物量で攻める。もちろん悪くはないです。しかし、魔法だけではなく、その原理や法則もしっかりと学ばないと、自分だけではなく、周りまで巻き込む可能性があることにくれぐれも留意してください」
「はい……」
「それと、回復魔法。これは魔法とはまた違う能力が必要になります。貴方は魔法に特化しすぎているのか……回復魔法に必要な能力が備わっていないため、いくら学ぼうとも習得はできませんよ」
「……っ!」
「ですが、貴方のその能力は唯一無二のものです。しっかり使いこなせれば、回復はできなくても、大切なものを守り抜くことはできるはずです」
「……!はい!」
ニティアの元気な返事を聞き、2人に背を向けるジャヌス。
人差し指と中指の間からは血が流れている。
2人に説教をしておきながら、昔に比べて身体が思うように動けていなかった自分に苦笑いをしていた。
「私もまだまだですね」