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そして、日本で父に会い、日本の書道に嵌り歴史を勉強し、日本語は元々両親の影響で習っていたらしいこと。
彼の話を知るのは、一夜だけでは足りなかった。
「まだ話足りませんがお腹が空きましたよね。帰りますか」
「はい」
「夕餉は私の分もあるらしいので、ちょっとわくわくしていますし、話はまた後で」
――これからずっと一緒なのだから、焦らずに話していきましょう。
そう笑う彼と私は同時にお腹を鳴らし、お互い照れくさくて俯いてしまう。
お腹の音は恥ずかしいらしいデイビーはちょっと可愛い。
私も私の話も聞いて貰いたい。
今はまだ、自分らしい何かを持っていないけど。
一緒に私を知っていてほしい。
海が見える綺麗な夜景そっちのけで私たちはお互いの話に夢中であっという間に家に帰って来てしまった。
大分遅くなったのにも関わらず、夕飯には母と美鈴が待っていてくれていた。
「遅すぎる! お稽古もあるんだから早く帰って来てよ」
不満そうな言葉とは裏腹に、なんだか美鈴の顔は嬉しそう。
すぐに立花さんが、温かいご飯とお味噌汁を持ってきてくれた。
ご飯が御赤飯だったのには、皆でプルプルと笑いをこらえてしまったが、母だけはツンと澄ました顔だった。
鯛の塩焼きなんて珍しいものまで並び(これは立花さんの仕業らしい)、デイビーは大興奮で食べている。
母が真ん中で、美鈴と立花さんが隣、私とデイビーが隣でご飯を食べる。
御箸も持ち方まで綺麗で、器用に魚の身を取り出していく。
その姿を見つめていたら、視線に気づいたデイビーが此方を見る。
なのでお互い見つめ合い、はにかむと甘い空気を蹴散らすような母の咳払いが聞こえて来た。
「久しぶりだね。皆でご飯」
ぽつりと美鈴が言う。
「そうだね」
「お姉ちゃんたちが稽古の時は、立花さんといつも一緒だったから」
「では、これからはずっと一緒ですね。私が美麗と一緒になるまで」
「で、デイビットさん」
なかなか挑発的な言葉に、母が湯呑を静かに置く。
「入籍するまでは、うちの子です。男性の家に泊るなんて許しませんからね」
「え、でも、できたら私、一緒に住みたいな」
「臨月になったら帰って来られるのもいいですね」
立花さんも助け舟をだしてくれた。
すると母の顔が険しくなる。
「だったら、はやく進めなさい。お腹の子が可哀想よ」
昨日まで大反対していた人の台詞とは思えない発言に、私たちは驚きつつもけれど本当にその通りだと思ってしまう。
久しぶりの食事もそこそこに、母と美鈴はすぐに稽古の準備に向かい、デイビーは帰るので玄関まで送ることになった。
「入籍の話、また明日伺いますね。私は日本に居るならば日本籍は大切だと思うので、ちょっとややこしくなりますので」
「え、はい! あの私も!」
慌ててカバンから、休憩中に文具屋さんに走って買ったレターセットの手紙を渡す。
「連絡先も書いてます。私の気持ちも書きました」
本人を前にしてなかなか言えないことや、お礼など手紙に認めてみた。
「手紙とは古風ですね」
嬉しそうにデイビーは受け取ると、手紙に口づけする。
「貴方は、良い親と妹さんを持ちましたよね。私も嬉しいです」
おやすみなさいと私の頬に口づけを落としていくデイビー。
その感触に香りに、私の心は酔っていく。
私の妹と母が、良い人だと心が見えたのは、貴方が私を見つけてくれたからなのに。
たった一晩、離れてしまうのが寂しい。
「お姉ちゃん」
猫塚ルイ
